休日の失敗②
……。
…………。
そんなまさか、って笑った私。
でも、本当にフラグを立てちゃってたみたい。
「丁度三人ずつだしよぉ、良いじゃねぇか」
「待ち合わせ? それって女の子?」
「え? 男女一組? じゃあ良いじゃん、数は合うし」
「……」
この間とは別の人だけど、数も二人から三人に増えている。
しかもなんだかしつこそうだ。
これはこの間と同じ方法は使えないな。
「どうしよっか?」
「取り敢えず行くぞ、三人とも困ってる」
「そうだね」
三人とも気が弱いタイプでは無いから流されそうになったりとかは無いみたいだったけれど、明らかに困っていた。
美来達早く来てよーって顔してる。
「みんなー、待たせてごめんね!」
大きめの声を掛けて近づくと、男達も私達に気づく。
私と奏の姿を見たそいつらはあからさまに「はんっ」と鼻で笑う。
えーえー、どうせ地味ですよー。
面倒なナンパ男達にどう思われようと構わないので、心の中であしらった。
「お待たせ。みんな行こうか」
奏も男達のことは気にせず……というより無視して、しのぶの手を取って歩き出す。
だから私も香と奈々の背中を押して「行こう行こう」と男達から離そうとする。
でもまあ、ナンパ男達がそう簡単に逃がしてくれるわけもなく……。
「おい待てや。無視すんじゃねぇ」
彼らの一人が奏の肩を掴んで乱暴に引き止めた。
「ああ、すみません。彼女達は俺らと約束してたので」
「三人多いんだ。俺らに貸してくれたっていいだろう?」
「人は貸し借りするものじゃないと思いますが?」
いきなりぶちのめすわけにもいかないし、奏はあくまでオハナシアイで済ませようとする。
「ね、ねえ。大丈夫なの?」
「誰か助け呼んだ方が良いんじゃない? だってあれ、南校の不良でしょう?」
香が焦りを滲ませて聞いて来て、奈々もあたふたと慌てている。
「南校?」
あー、確かこの間しのぶをナンパしてたのも南校の不良だっけ?
本物の“暴走族”がいるとか言う……。
なにそれ。
街に出たら本物の暴走族の連中にナンパされるってどんなエンカウント率してるのよ。
それかしのぶ達がからまれやすいだけなのかな?
そんな風にのんきに考えていると、いい加減イライラしてきたのか男が奏に殴りかかっていった。
「うっぜぇな! とにかくお前は邪魔なんだよ!」
「っきゃあ!」
奏の近くにいるしのぶが悲鳴を上げ、私の近くにいる香と奈々も「ひっ!」と目を逸らす。
まあでも、奏が大人しく殴られるわけがない。
しのぶを守るようにかばいつつ、男の拳を受け流した。
すると男は勢いを変な方向に流されて体制を崩す。
その隙に奏はしのぶをこっちに連れてきた。
「加勢、いる?」
「いらないだろ」
一応聞いてみるけどやっぱり必要ないって返される。
ま、だよね。
私はしのぶ達に被害が来ない様に周囲を警戒する。
でもそんな警戒も必要なかったくらいアッサリ終わってしまった。
最初の男がやられると他の二人が同時にかかっていったけれど、連携なんて何もない感じで……。
つまり、両側から飛び掛かって奏が避けただけで自滅した。
南校の不良は弱いって、本当なんだなぁ……。
一部始終を見た感想はそれだった。
「さ、またからまれないうちに行くか」
何事もなかったかのようにそう言って戻ってきた奏。
そこに、女子三人が群がった。
「奏ー、助けてくれてありがとう!」
「すごい、奏くんって強かったんだね?」
「ちょっと何⁉ カッコイイんだけど⁉」
わー、奏モッテモテ~。
でも三人にまとわりつかれながら歩き出す奏はしのぶしか相手にしてない。
本当にしのぶを大事に思ってるんだな。
それが良く分かったし、それでいいとも思うんだけど……。
香と奈々も私の友達なんだし、ガン無視するのはやめてあげてくれないかな?
と、ちょっとイラっとしてしまう。
そんな風に突っ立ったまま見ていたのが悪かったのか。
「ぐっお前らぁ……」
一番回復が早かったらしい三人のうちの一人が私の背後で立ち上がった。
すぐに逃げの体勢に入ったんだけど――。
ガシッ
もはやお約束なのか、おさげを一本掴まれてしまう。
「……」
あーもう! この髪型嫌い!!
ヒステリーを起こしたくなる気分で男の手を振り払おうとしたとき――。
「なにやってんだテメーらは!」
ゲシッ
また別の人物が現れて私のおさげを掴んでいた男を蹴りつけた。
黒髪に、前髪の一部を赤く染めている細身の男性。
耳には色んなタイプのピアスがいくつもついていた。
「女の子の髪をわしづかむんじゃねぇ!」
そう言って倒れた男をひと踏みすると、私の方を見て瞬時に人好きするようなキラキラ笑顔を見せる。
「ごめんね、コイツらの管理が行き届いてなくて。大丈夫だったかな?」
「あ、はぁ……。ありがとうございます……?」
何か、チャラい。
「こんなムサイ男に触られて嫌だったよね? 消毒しとこうか」
と、ピアス男はさっき掴まれていた私のおさげを手に取った。
「え? いや、いいですから」
って言うか気軽に触らないで欲しいんだけど。
そんな思いもむなしく、私のおさげは彼の手の中に。
そして彼の薄い唇に運ばれて――。
チュッ
おさげにキスをされた。
しかも反応を見るためかわざとらしく視線だけをこっちに寄越して。
うん、チャラい。
頬を染めて慌てふためく姿でも見たかったのかな?
でもごめんね。
好きでもない人にそれやられても気持ち悪いだけだから。
今は一応助けてもらったような状態だから文句も言わずにやらせてるけど、別の状況だったら軽く一発は殴ってたかもしれない。
「ん? あれ? キミ変な子だね? これでなびかないとか。……あ、でも髪は本当にきれいだな」
と、おさげをいじりだす。
「あの、離してくれませんか?」
流石にこれ以上オモチャにされたくなくて言うと、「ああ、うん」とすぐに離してくれた。
「美来⁉ どうした?」
そこでやっと奏達が戻って来る。
「ああ、えっと……髪掴まれて、この人が助けてくれたの」
簡単に状況説明をしておく。
すると奏はすかさずお礼を言って頭を下げた。
「妹を助けてくれてありがとうございます」
そして顔を上げるときにチラリと私を見る。
お礼でも何でも言ってさっさと立ち去るぞ!って視線だ。
でもそんなことをする必要はなかったらしい。
「ああ、兄妹か。兄なら妹を守ってやりなよ?」
ピアス男は人好きのする笑顔のままそう言うと、また表情を変えてやっと起き上がった三人の男達を見た。
「大体テメェらには総長探してこいって命じただろーが。何ナンパして遊んでんだよ?」
「す、スンマセン! 副総長!」
「あ? 俺のことは名前で呼べっつってんだろ?」
「す、スンマセン!
「オラ! さっさと行け!」
三人の男達は一人ずつ結構な力で蹴られ、「ひいぃ!」と叫びながら走って行ってしまった。
西木戸と呼ばれた赤メッシュの男の人は、最後にもう一度だけ私達の方を見て「じゃ、失礼」と言い残して歩き去って行く。
なんとなくその背中を見送っていると、しのぶ達も戻って来てくれた。
「美来、大丈夫?」
「さっきの、副総長って言ってたよね?」
「私始めて見た……チャラそうだけどカッコ良かったね」
と、私を心配してくれるしのぶに続き香と奈々はさっきの西木戸さんについて話し出す。
二人も一言くらい心配の言葉かけてくれても良いじゃない。
と不満に思ったけれど、私自身心配されるような態度をしていなかったせいでもあると思うから何も言わないでおく。
「ほら、とにかくもう行こう。カフェに行く前に買い物もしたいって言ってただろ?」
騒ぎ出す女子をなだめて奏は買い物へと誘導する。
「あ、そうだね」
「可愛い小物売ってる店あるんだ。美来も気に入ると思って」
香と奈々が奏の言葉に意識を切り替える。
私の手を片方ずつ取って、引いて歩き出した。
そうそう、女子会ってこんな感じだよね!
女子複数人でわいわいお出かけするこの感じ。
久しぶりな気がしてワクワクしてきた。
「うん! 行こう!」
嬉しくて満面の笑みで答えると、二人は突然足を止める。
「ん? どうしたの?」
なんか、すごいジッと見られてるんだけど……。
「美来って可愛いね」
「へ?」
香が唐突にそんな言葉を口にする。
「うん、ちょっとファンクラブの人達の気持ちが分かったよ」
「はい?」
奈々も真面目な顔をしてそんなことを言う。
ちょっと笑顔を浮かべただけなのに、なんでそんなしみじみと言われちゃうんだろう?
どうしても分からない私は、首をひねることしか出来なかった。
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