エピローグ 後編
「まあ、そういう事で色々と予定が変わっちまったんだよ」
ここで今度は奏が話し始める。
「あの宮根先輩って人を追い詰めたりすることも出来たけど……。お前あんな風になった人を見せしめにーとか出来ないだろ?」
「……うん……」
気に入らないからって理由だけで色んな嫌がらせをしてきた人。
私に敵対する人。
そのままだったら、容赦なく見せしめにと切り捨てられた。
でもどんなに都合が良かろうが、こんな風に好意を寄せてくれる人を切り捨てるなんてもう無理だった。
「ま、また同じことが起きない様に目を光らせてくれるって言うんだから、そうしてもらえば良いんじゃないか?」
「……そうだね」
奏にそう言ってもらって納得する。
でも、良いのかな? とも思う。
「ねぇ、奏……」
「ん?」
「私って甘いかな?」
いつだったか空手の先生に言われたことがある。
『その甘さがいつか命取りにならなきゃいいけどな』
命取りなんてそこまで危険なこと、そうそうないだろうけれど……。
先生はそれで私が傷つかないか心配してくれている様だった。
時には甘さを捨てる覚悟を持てって……。
それでも私は捨てきれない。
そして、奏はそれをよく分かっていた。
「ま、良いんじゃないか? そういうところもお前の魅力だよ」
だから、そう言って慰めてくれる。
「……ありがと」
私はその慰めに、後ろめたさを消して微笑んだ。
「……でも、誰彼構わず人をたらし込むのは控えて欲しいけどな」
でも、付け加えるように言われた言葉にはギュッと眉を寄せる。
「……それ、何度も言われているけどどうしていいのか分からないんだけど?」
自覚すらしてないんだからどうすればいいのかなんて分からない。
すると、私達の会話を聞いていたしのぶが「やっぱり」と楽し気に話し出す。
「そうだろうなとは思ってたけど、美来って無自覚な人たらしなんだね。一番厄介なやつだ」
と言って笑う。
「うぐっ」
悪気はないんだろうけど、一番厄介って……地味に刺さって来る。
でも本当にどうすればいいのか分からないんだもん。
仕方ないじゃん……。
そうして少し落ち込んでいるところに、いつものように眠そうな久保くんが登校してきた。
「何だこれ? 人口密度多すぎじゃね?」
そう言って自分の席に来た久保くんに私は近寄る。
「おはよう久保くん」
「……はよ」
久保くんは視線を反らしながらだけど一応挨拶を返してくれる。
「金曜日はありがとね? あんまり記憶がないんだけど、奏が来るまで看病してくれてたんだって?」
一度意識を手放したらあとは熱に浮かされてしまって、よくは覚えていない。
後になってから奏に聞いて、お礼を言っておけよと言われたんだ。
「あ、ああ。気にすんな」
そう言ってあくまで目を逸らし続ける久保くんに不信感が募る。
「……ねぇ、私が意識ないとき、変なことしてないよね?」
病人にそんなことはしないと言っていたけれど、こう挙動不審だと心配になって来る。
チラリと私を見た久保くんはすぐにまた視線を反らして「してねぇよ」と答えた。
……メッチャ怪しいんだけど⁉
「ねぇ、本当に? 本当にしてない?」
不安になって詰め寄ると、どんどん後退りされる。
その態度がさらに怪しく思えて、私は彼の腕を掴んだ。
すると久保くんは掴んだ私の手を凝視して……。
「あ……ああぁぁ!」
顔が目に見えるほど赤くなり……。
「本当に、なんもしてねぇよーーー!!」
私の手を振り払って逃げて行ってしまった。
「……」
え? なにあれ?
久保くんの叫びに、騒がしかった教室がシンと静かになる。
その中に一人、しのぶの声が響いた。
「女好きの久保くんが、純情少年になっちゃった……」
何だそれ、とも思ったけれど、確かに今の反応はそんな感じに見える。
あれだけヤらせろとか言ってきてたのにどうしてしまったのか……。
疑問はあるけれど、ある意味心配事が減ったのかな?
いじめの方も何とかなったし、やっとこの学校で普通の生活が送れそう。
現時点で普通の生活なんてほど遠い状態になっているというのに、このときの私はある程度の決着がついたことで安心してしまっていた。
波乱の学校生活は、まだまだ始まったばかりだっていうのに……。
【地味同盟~かぐや姫はイケメン達から逃れたい~ 第一部完】
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