絆の秘密④
それにしても寮で、とか言うってことは午後の授業は出ないってことだよね。
それには少しホッとする。
少なくとも帰り際にまたこうやって連れて来られる心配はないってことだから。
そうして階段を下りて、今度は他の生徒達からの様々な視線に耐えるための覚悟を決めようとしていると……。
「美来待てよ」
「俺達も行く」
明人くんと勇人くんが追いかけてきた。
そうして何故かそれぞれ手を繋がれる。
「……ん?」
どうして手を繋ぐ必要が?
それを聞こうと思ったけれど、その前に二人は愚痴り始めてしまった。
「はー、如月さん怖かったー」
「ホント、静かに怒るタイプだからずっとピリピリしてたし。飯の味分かんなかったわ」
そう言いながら、私の手が持ち上げられる。
『だからさ』
二人の声が揃ったと思ったら。
チュッ
「!!?」
『俺達を癒してくれよ、美来』
指の辺りに唇が触れ、両側から色気のある声が囁かれた。
な。
なななななな⁉
なんてことしてくれるのよこの迷惑双子はぁ⁉
いや、久保くんと違って二人からはちゃんと好意は感じるよ?
それがどういうタイプのものかは良く分からないけれど。
でもね、ここ階段のど真ん中。
一階にいる人達からはすごくよく見える位置。
ただでさえ注目されやすいのに、今彼らは手にキスをするという暴挙に出た。
案の定階下ではその瞬間を見てしまった多くの人達が
「うそでしょ? あの女嫌いの双子が⁉」
「手を繋いでるだけじゃなくてキスした? え? 何これ幻覚?」
へー明人くんと勇人くんって女嫌いだったんだー。
なのに私のことは気に入ってるって?
そりゃあ他の生徒から目の敵にされるわけだよねー。
なんて現実逃避気味に思ってみる。
まあ、当事者なので全く逃避にはならないんだけれどね。
私はそのまま様々な感情の視線に耐えながら食堂を抜けていく。
明人くんと勇人くんが壁になっていて少しはマシだったけれど、もとはと言えばこの二人のせいなんだから感謝は出来ない。
「あーあ、何で俺達と美来ってクラス違うんだろ」
「っとにな。かなちゃんと交換しねぇ?」
教室に戻るまでの道のりで勇人くんが不満げに声を上げ、明人くんが出来るわけないことを口にする。
「いや、無理だから……」
力なく言った私は疲弊しながら歩いた。
教室に着くと「やっぱり俺美来と一緒がいいー」と明人くんが私の腕を抱きしめるように掴む。
「そりゃあ俺だって美来と一緒がいいけどさー」
勇人くんも明人くんを宥めつつ反対側の腕に抱き着いている。
「あの、流石に離れて。……遊ぶなら奏にして」
困り果てた私は奏に二人を押し付けようとした。
奏は双子と同じクラスなんだし、尊い犠牲になってくれるだろう。
でも二人はそれで納得してはくれなかった。
「かなちゃんじゃ代わりになんねぇよ。美来の方がやわらけぇしいい匂いするし」
と、明人くんが顔を近付けてくる。
「そうそう。顔は似ててもやっぱりかなちゃんは男だからここら辺とかかてぇんだよな」
と、二の腕を揉んでくる勇人くん。
いや、マジでやめて。
どうすればこの二人は離れてくれるんだろうと困っていると、聞きなれない声が掛けられた。
「お前達、それくらいにしたらどうだ?」
「ああ?」
三人そろって声の方を見ると、黒目黒髪の眼鏡をかけた男子がいた。
顔立ちは整っているのに、無表情で愛想の欠片もないからだろうか。カッコいいとは思えなかった。
「星宮さん、だったか? 彼女も困ってるだろう」
淡々とした言い方は私を心配してるってわけじゃなさそうだ。
どっちかって言うと義務的な感じ?
いやまあ、何にしたって二人が離れてくれるなら良いんだけど。
「んだよ高志。お前には関係ねーだろ?」
あっちへ行けとばかりにシッシと手を振る明人くん。
「まあ正直俺もどうでも良いんだが……」
と前置きをしてから彼は真面目に言う。
「千隼様に頼まれたからな、様子を見ていてくれと」
千隼……って誰だっけ?
私が密かに疑問に思っていると、勇人くんが嘲笑うように鼻で笑った。
「はっ! 生徒会長のご命令のままにってか? ホント忠犬だよな、お前って」
あ、千隼って生徒会長のことか。
そう言えばこの高志って人さっき生徒会長が座っていたテーブルにいたかも。
さっと見ただけなので確かではないけれど……見た気がする。
「何とでも言え。……どちらにしろそろそろ昼休みも終わる。離してやった方が良いんじゃないか?」
「……ま、それもそうだな」
「仕方ねぇか」
高志くんの言葉に明人くんと勇人くんは少し不満そうだったけれど私から離れてくれた。
明人くんと勇人くんって、不良だし血の気が多そうに見えるけど案外道理を分かってるよね。
相手の言うことがその通りだと思ったら不満はあっても素直に従うし。
そういうところはちょっと好感が持てるなって思った。
「じゃ、またなー美来」
「放課後も会えるといいな」
「あ、ははは……」
周囲の視線が痛いから私はあまり会いたくないけれど……。
だから明確な返事は避けておいた。
そうして二人が離れていくのを見ると、高志くんも離れていく。
私はそんな高志くんを慌てて呼び止めた。
「あ、高志くん。あの、ありがとう」
彼にとっては義務だとしても、事実助かったのでお礼を伝える。
すると高志くんは少しだけこちらを振り返り、眼鏡の位置を直しながら言った。
「別に、指示に従ったまでです」
それだけを口にすると彼はB組を通り越してその先へと歩いて行く。
高志くんはA組なのか。
確かA組は進学クラスで、教室が少し離れた位置にあったはずだ。
彼とはあまり会うことはないかもしれないな、とだけ思って私は自分の教室に入って行った。
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