絆の秘密②
久保くんの話では、金曜のお昼の時点ですでにマズイって話になったらしい。
格付けされているのは、なにもそれぞれの格の違いをハッキリさせるためだけじゃないらしい。
二階席で昼食をとっているような人達はとにかく目立つ。
立場もそうだし、見た目も良い人が多いからだ。
そんな人達が他の生徒と一緒に食べるとなると、近くの席の奪い合いから始まりそのためにお金を積んだり暴力に走ったりということになるんだとか。
まさかいくら何でもと思ったけれど、五年くらい前に実際に起こったことらしい。
とにかくそういうことだから、双子にはちゃんと二階席で食べてもらうようにしたいってことだ。
でもそれでどうして私が?
二人に二階席で食べろって言えば良いだけじゃないの?
聞くと……。
「それが……八神さん――うちの総長がお前にちょっと興味あるみてぇでな、この際だからお前を二階に連れてくれば良いんじゃねぇかってことになって」
「え?」
「で、生徒会長が『それもいいかもね』とか言って同意したもんだから、そいつらの監督が行き届いてなかった【星劉】の総長も特に反対することも出来なかったんだろ。同じく同意するって形で決まったんだよ」
「…………ちなみに、そこに私の意志は?」
「は? 何それ、聞く必要あんの?」
本気で不思議そうに言われた。
ふっざけんな!
「絶対に嫌!」
とはいうものの、私の手首を掴んでいる久保くんの手はなかなか外せない。
くそぅ、単純に力ってなると流石に私には無理だ。
そんな私に、久保くんは容赦なく告げる。
「お前に拒否権はねぇよ」
「横暴だー!!」
私は叫ぶことしか出来なかった。
***
……ああ、視線が痛い。
結局久保くんの手を振りきれなかった私は不良三人に囲まれる形で食堂に行くことになる。
現時点ですでに敵意丸出しの視線が多いのに、これで二階席に行ったらどうなってしまうんだろう。
一応助けを求めてしのぶを見たけれど、「ごめん、流石に二階席は付き合えない」とちょっと青白い顔で言われてしまう。
いや、良いんだよ?
むしろそんな血の気の引いた顔させてごめんね?
なので奏の方を見たけれど……。
「悪い、こんな状態のしのぶ一人に出来ない」
としのぶを心配そうに見ながら言われた。
妹より好きな子が大事か⁉ いやまあそうだよね!
と思わなくもなかったけれど、しのぶのことは私も心配だから文句は言えない。
だって、この状態で二階席に行ったら残ったしのぶが質問攻めにあうのは確実だ。
こんな顔色の悪いしのぶ一人にそんなことさせられない。
「じゃあ、しのぶのことはよろしくね」
奏にそれだけはしっかり頼んで別行動をとった。
ああ、せめてご飯だけはちょっと奮発しよう。
クリームコロッケ定食に、今日はデザートのプリンも頼もう。
デザートとかは特別な日に! なんて思っていたけれど、今日ばかりはそんなご褒美でもなけりゃやってられない。
そうして注文の後料理が来るのを待っていると、また久保くんに腕を引かれた。
「何やってんだ? 上行くぞ」
「え? でも料理がまだ……」
受け取り口の方と久保くんを交互に見てそう言うと、勇人くんが説明してくれる。
「二階席で食べる人には、二階に直接運んでくれるんだ」
「そうなの?」
流石VIP仕様。
感心しながら引かれるままに階段を上り始めると、近くにいた人達が途端に騒がしくなった。
それは波が起こったかのようにどんどん広がっていく。
予想していたとはいえ、この規模の人数だとちょっと……いや、かなり恐怖だ。
騒然とし過ぎて何を言っているのかも分からない。
でも悪いことしか言われていないだろうってことだけは確実で……。
ブルリ、と無意識に
私の腕を掴んでいた久保くんがそれに気付いて少し振り返る。
「何お前、怖がってんの?」
面白そうに言う顔にイラっとした。
「当たり前でしょう? あんな大勢に敵意向けられて怖がらない方がおかしいよ」
「あんなんひと睨みしときゃあ黙るだろ」
「久保くんと一緒にしないで」
そんなやり取りの間に明人くんが「久保は役に立たねぇからな」と割り込んできた。
「美来は俺達を頼ってればいいんだよ。ちゃーんと守ってやるからさ」
「そうそう。無理やり二階席に付き合わせておいて守ることもしない無責任な男、頼る必要ねぇよ」
勇人くんもそんな風に続いたけど……これ、久保くん挑発してない?
こんなところでケンカはしないでよ?
私はハラハラしながら様子を見ていた。
「はぁ? 無責任って何だよ。もとはお前らが原因だろ? お前らが守るってんなら十分だろうが」
「……ちっ」
久保くんの言葉にそれもそうだ、って思う。
明人くんも思ったんだろう。
言い返すことはしなかった。
そうして来た二階席。
なんですかここ?
どこのパーティー会場ですか?
って、聞きたくなった。
一階にあるものより大きめな丸テーブルには汚れ一つないクロスが掛かっている。
絨毯は上履きを履いていても分かるほどフワフワ。
しかも生徒以外にウエイトレスみたいな人がいて、その人がみんなの料理を運んでくれているみたいだった。
もはや高級レストランだ。
もしくは本当にパーティー会場。
少なくとも絶対に学食ではない!
「ほら、何突っ立ってんだ? お前はこっちだ」
そして私はまた久保くんに引っ張られていく。
「いや! 美来はこっちだろ⁉」
と反対側の手を掴んだのは明人くん。
「美来と昼飯食いたいのは俺らだぞ? なんで【月帝】のテーブル連れてくんだよ⁉」
そして勇人くんが久保くんを非難する。
勇人くんの言葉に、久保くんが私を連れて行こうとしているテーブルを見ると確かに【月帝】の総長・八神さんの姿が見えた。
そして明人くんが引っ張る先には【星劉】の総長・如月さんが。
ざっと他のテーブルを見回すと、中央に生徒会長が座っているテーブルがあり、その両隣が【月帝】と【星劉】になっているみたいだ。
他にも数テーブルあるけれど、少し離れた位置になっている。
「うちの総長がこいつのこと気にしてたって言っただろ? だから今日はうちのテーブルに連れてくんだよ」
「【月帝】の総長は【かぐや姫】だけ気にしてればいいだろ⁉ 美来は俺らのだ!」
いや、明人くんたちのものになった覚えは無いんだけど……。
取り合いになった人形の気分で引っ張られている私は、もうどっちでもいいから早く決めてくれって思った。
「大体お前らは美来と一緒に飯食ってる余裕ねぇだろ? 【星劉】の総長、かなりピリピリしてたぞ? 金曜のこと、怒ってるんじゃねぇのか?」
『え?』
久保くんの言葉に明人くんは私の手を離し、勇人くんと一緒に恐る恐る【星劉】のテーブルを見た。
『ひっ!』
揃って怖がっている様子を見ると久保くんの言う通りだったみたい。
「じゃ、そういうことだからこいつは連れてくぜー」
邪魔者がいなくなったことでさっきよりも強く私を引っ張っていく久保くん。
いや、私ちゃんと付いて行くから。
もう離してくれないかな?
なんて思っているうちに【月帝】のテーブルについてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます