絆の秘密①
休み明けの月曜日。
朝晩は涼しくなってきたとはいえまだまだ残暑が厳しい。
今日も太陽が昇るにつれて暑さが増してきた。
そんな快晴な朝だけど、天気とは裏腹に私の心はどんより曇りだ。
隣を見ると早々に眠りに入っているクラスメイト・久保幹人くんがいる。
日曜の夜は特に夜更かしでもしているのか、来て早々この状態。
この間みたいにちょっかい出されないから良いけれど……。
でもしのぶが。
「月曜日に来るの珍しいな」
っていうから、何だかすごく嫌な予感がする。
ただでさえ久保くんとはご近所さんだったことが判明してショックを受けていたってのに。
まさか奏の部屋を挟んで隣だったとは。
そりゃあ寮の食堂も使わず、昼には帰ってしまうなら行動範囲があまり被らないのも納得だよ。
まさか久保くん以外の住人も似たような人達とか言わないよね?
確認するのが怖いから聞いてないけど……。
今日は久保くんにちょっかい出されなかったからクラスの視線もそれほど痛くはない。
まあ、一部の女子は相変わらず敵意丸出しだったけれど。
せめてこれ以上悪くならなければ良いなぁ、なんて思いながら朝を過ごした。
でも双子と久保くんを避けれない以上、それは儚い希望だったことを昼には思い知ることになった。
キーンコーンカーンコーン……
四時限目の授業も終わってやっと癒しの時間だ。
今日は何を食べようかなー?
生姜焼きもいいし、クリームコロッケも気になる。
うーん、学食がこれだけ充実していると迷っちゃうなぁ。
「美来、そろそろ行こっか?」
しのぶも片づけが終わったようでそう誘ってくる。
私は喜んで「うん!」と返事をし立ち上がった。
すると……。
ガシッ
手首を掴まれる感覚に嫌な予感がした。
そして記憶も蘇る。
こんな風に掴まれた転入初日、散々な目に遭ったことを。
そして案の定、今回も私の手首を掴んでいたのは久保くんだった。
「っ⁉」
な、何で今ー⁉
これからご飯だっていうのにー!!
私の手首を掴んだ久保くんは、あくびを一つしてから私を見上げた。
「昼飯だよな? 俺も一緒に行くから待て」
「え?……はあぁ⁉」
どうしてそうなった⁉
何で一緒に行かなきゃないの⁉
助けを求めてしのぶを見ると、私と掴まれている手首を見てどうするべきか迷ってるみたい。
そうだよね。
しのぶの力じゃこの掴まれている手を外せないだろうし、掴まれている以上私を連れて逃げることも出来ないし。
私もどうすればいいのか分からないもん。
久保くんは私の手首を掴んだまま立ち上がり、そのまま引っ張るように連れていく。
「ちょっ⁉」
これじゃあ一緒に行くとは言わないんじゃ。
「え? ま、待ってよ!」
今回はしのぶもすぐについて来てくれた。
久保くんは隣のクラスを通り越そうとするので、私は足を踏ん張って叫ぶ。
「待って待って! 奏も呼ばなきゃ!」
「あ? かなで? 誰だそれ?」
少し不機嫌そうにだけど、久保くんは足を止めてくれた。
「私の双子の兄だよ。久保くんの隣の部屋の!」
土曜日見たよね⁉
そう訴えると久保くんは記憶を探るようなそぶりを見せて、「あー……いたっけ?」と呟く。
興味がない人のことは覚えてないのかな?
でもそんな風に問答をしていると奏の方が気付いてくれたみたいだ。
「美来、何してるんだ?」
問いかけながら近付いて来てくれた。
「あ、久保てめぇ!」
「美来から離れろよ!」
以前と同じように、明人くん、勇人くんの双子も一緒だったけれど。
「っち……うるせぇ奴らも来やがった」
舌打ちする久保くんに、双子はさらに詰め寄った。
「何で美来連れて行こうとしてんだよ!」
「美来は俺らと昼メシ食うんだよ!」
いや、私何も約束とかしてないからね⁉
勝手なこと言わないでくれるかな⁉
と思いつつ騒ぎ立てたくもなかったのでとりあえず言葉には出さなかったんだけど……。
「それだよ。お前らのせいでこいつ連れてかなきゃなんなくなったんだよ」
久保くんの返答に、双子だけじゃなくて私も奏も、更にしのぶも“は?”となる。
「金曜にお前ら二階席じゃなくて一階の、しかも一般生徒用のテーブルで昼食ったんだろ? あれ何気に結構騒ぎになってたみてぇだぞ?」
え? 二階席?
あ、もしかして二人はやっぱり幹部だったのかな?
初めて会った日に《星劉》の総長と一緒にいたからもしかしてとは思ってたけど。
で、そんな人が一般席でお昼を食べていたから問題になっている、と。
ん? でもそれで何で私が連れていかれなきゃならないの?
「それで何で美来を連れてくってことになるんだよ?」
私の疑問は明人くんが口にしてくれた。
「お前らこいつがいたから一般席に行ったんだろ? だったらこいつを二階席に連れていきゃあ良いだろってことになったんだよ」
「はぁ? 何だそれ、誰が決めたんだよ?」
勇人くんの言い分はもっともだ。
本当に、誰がそんなはた迷惑なこと決めたんだか。
「生徒会長と二人の総長の三人だよ」
『へ?』
これにはみんな揃って目を丸くした。
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