不良の事情⑥
「え……?」
「マジ?」
驚きの声に、やっぱり合ってたんだなと思う。
「え、と。とりあえず答えたんだから離してくれないかな?」
「あ、ああ」
と、明人くんの声が聞こえた。
離してもらったら、私はすぐに二人と距離を取る。
ちゃんと答えたんだからもう何かしてくることはないだろうけれど、念のため。
かなり回されたからまだ少しふらつくけど、すぐに戻るだろう。
「いや、もしかしたらとは思ったけどさ……」
「まさかマジで当てるとは……」
自分たちで聞いておいてかなり驚いてる二人に、私は言った。
「奏も分かったんでしょう? なら、私も聞き分けられたっておかしくないじゃない」
当然のことだと思いながら言ったのに、二人はさらに驚いた表情。
「ちなみに、どうして分かったんだ?」
勇人くんがまだ少し信じられないと言った表情で聞いてくる。
「え? それは言葉の選び方とかニュアンスとか……。違いが分かると結構ハッキリ違うよね?」
聞き分けたんだから、当然そういうところの違いが分かったってことだ。
それ以外に何があるっていうのか。
明人くんはちょっとぶっきらぼうっていうか、周囲を気にしてない感じ。
勇人くんはそんな明人くんのフォローをしたり、周りに気を使ってる感じがする。
それが言葉に現れていたから気付いてみると案外分かりやすかった。
「マジで? 髪隠しても俺らのこと見分けたり聞き分けたり出来るやつって片手に収まるくらいしかいねぇんだけど」
明人くんが驚愕といった様子で私を見る。
えー? 片手は流石に少なすぎじゃない?
思ったことが表情に現れてたんだろう。
勇人くんが困り笑顔で説明してくれた。
「本当だって。母親と、もう一人の身内。あと如月さんだけなんだよ」
「え? 本当にそんなに少ないの?」
思わず聞き返してしまう。
でも二人はそれには答えずお互いに顔を見合わせる。
髪色が違ってなければ、そのそっくりな顔のどちらかが鏡なんじゃないかと思ってしまいそう。
その顔が同時にニヤリと笑みの形を作った。
「……母親以外で俺達を見分けられた女って、あんたが初めてなんだよなぁ……」
ゆっくりと視線をこちらに向ける明人くん。
「なぁ、あんた名前なんだっけ?」
明人くんに続くように私を見る勇人くん。
何だろうこれ。
答えちゃいけない気がするけど、答えないとそれはそれでまずい状況になりそうな予感が……。
『名前、教えろよ』
同じ声が、重なった。
二人分の圧が声に乗せられたような気がして……可愛い顔なのに、その目がギラリと光ったような気がして……。
「み……美来です……」
つい、答えてしまった。
すると二人はさっきまでの圧が嘘のようにニッコリと笑う。
「美来……ね。改めて自己紹介するけど、俺は
「俺は森明人だ。かなちゃん共々よろしくな、美来」
「え? 何でいきなり呼び捨て――」
『ん?』
ニッコリ笑顔なのに、圧が凄い。
さっきよりはマシだけど、私の意見をねじ伏せようとしてることが良く分かる。
「……いえ、ナンデモナイデス」
サッと目を逸らしてそう答えた。
どうしてだろう。
関わりたくなんかないのに、何故か気に入られちゃったのは……。
せめてもの救いはこの二人は隣のクラスで、そこまで私に接触する機会はなさそうだということだろうか。
構われるならむしろ奏だよね?
そう単純にはいかないような気はしたけれど、今は現実逃避がしたかった。
私はニコニコしながら両脇を固めてくる双子にビクビクしつつ、先に如月さんが歩いて行った方へと足を進めたのだった。
「遅い」
端的に一言で言い放った如月さんが待っていたのは、西校舎と東校舎をつなぐ渡り廊下だ。
「すみません。ちょっと面白いことしてたんで」
突き刺すような如月さんの視線をものともせずに、明人くんがニコニコ笑顔で返した。
すると刺すような視線は私に向けられる。
面倒な女だな。
そう語っているように感じた。
「ひぇっ」
冷たく凍えそうなその目に、思わず悲鳴を上げそうになる。
でもまあ、それくらい私を邪魔に思っているならさっさといなくなっても問題ないよね⁉
逆に開き直った私は、スタスタと如月さんの前を通り過ぎてからクルリと振り返る。
「如月さん、さっきはぶつかってすみませんでした。そしてついて来させてくれてありがとうございました!」
勢いに任せて言い放ち、ペコリと頭を下げると私は踵を返して廊下を走って行く。
「また明日な~」
と、勇人くんの声が聞こえたけれどそれは無視した。
今なら聞こえなかったで済ませられると思うし、何より『また明日』なんて言われても私は出来る限り顔を合わせたくはなかったから。
そうして彼らの姿が見えないところまで走りきって息を整えていると、私を探してくれていた奏としのぶに会うことが出来た。
良かったと思うと同時に、奏にしこたま怒られたけれど……。
とにかく、不良と関わるのなんて今日限りにしておきたいと思った。
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