不良の事情⑤

「あ、如月きさらぎさん。待ってくださいよ!」


 慌てた様子で赤頭も私の横を通り過ぎて行く。

 青頭も同じように通り過ぎようとしたけれど、ふと何かに気付いたように私を見た。


「そういえば、何でかなちゃんの妹がこんなトコいんの?」

「え? あ!」


 今のやり取りでつい忘れそうになっていたけれど、私遭難しかけてたんだ!

 やっと見つけた道案内出来る人。

 不良と関わりたくはないけれど、今回ばかりは致し方なし!


「あのっ! 私、ちょっと無理やり北校舎に連れていかれてて……。解放はしてもらったんだけれど迷っちゃって……」


 続く言葉を何と言おうか少し迷う。

 案内してほしいは図々しすぎる?

 ここは無難に東校舎の場所を聞くだけに留めた方がいいかな?

 迷っていると、青頭の方が先に口を開いた。


「何だ、じゃあ俺達について来れば? 今東校舎に向かってるとこだから」

「い、良いの?」

「まあな。それに【星劉】のテリトリーウロチョロされたくねぇし」


 そう言って青頭も総長――如月さんを追いかけて行く。

 一瞬躊躇ったけれど、私はすぐに彼らを追いかけた。

 それ以外に戻る方法はなかったから。


 はぐれない様に、でも少し離れながら付いて行く。

 どうやらここは西校舎のかなり奥の方だったらしく、しばらく静かな廊下を彼らと進んで行った。

 そうして付いて行きながら、物思いにふける。


 それにしても……二人の総長の言葉。

 私の目を青みがかったグレーとか、ブルーグレーじゃないかって聞いて来ていた。

 その特徴を持つ【かぐや姫】を探しているらしい生徒会長と二人の総長。

 そして二年前の記憶に合致する三人。


 これってやっぱり……私のことだよね? 【かぐや姫】って……。


 ここまで条件が揃ってしまったら認めるしかないだろう。

 でも、それなら尚更バレるわけにはいかない。

 だって、彼らは私が不良をさらに嫌いになる原因を作った人たちだから。


 しかも二年前、私はあの三人にとんでもないことをされたんだから!

 絶対、バレるわけにはいかない。


 奏に合わせただけだった地味な格好も、こうなったら逆に良かったんだと思う。

 あとは素顔をさらさない、カラコンを取った姿で学校に来ない、を気を付ければなんとかなりそうだ。


 多分今日は、転入生が【かぐや姫】かどうか確認するってことで北校舎とかに連れていかれたんだろう。

 なら、明日からはそこまで彼らに接触したりはしないはず!

 そう推理して、一先ず安心出来た。


 ……安心出来て、ふと気付く。

 前を歩いていたはずの双子が、いつの間にかすぐ前――というか、ほぼ横を歩いていたことに。


 ……ん?

 何で私、この二人に挟まれてるの?


 チラリと視線を赤頭に向ける。

 彼は面倒くさそうに前を見て歩いていた。

 次に青頭をチラリと見る。

 バチリと目が合った。


「っ⁉」

「あ、やっと気付いた。何か考え込んでるしどうするかなーって思たんだけど」

「えっと……ナニカゴヨウデスカ?」

「ぶふっ! 何でカタコトなんだよ」


 極力関わりたくないと思いながらぎこちなく聞くと、面倒そうに前を見ていた赤頭に笑われてしまった。


「な、明人あきと。やっぱり面白かっただろ?」

「そうだな勇人ゆうと。かなちゃんの妹って感じ」

「……」


 何だか良く分からないうちに面白がられているんだけど……。

 何で?

 もしかして、奏が何かした?


「えっと、奏と仲良いの……?」


 先ほどからのかなちゃん呼びといい、今の話し方といい。

 少なくとも奏はこの二人に気に入られているみたいだった。

 私の質問に答えたのは赤頭……明人と呼ばれた方だ。


「まあな。かなちゃん、俺達を見分けられたし」

「ってか、正確には聞き分けられたってとこだな」


 続けて青頭……勇人くんが付け加える。

 まあ、見分けるというなら髪色で見分けられるだろからね。

 髪色なんてそう簡単に染め変えられないし。

 ここまで綺麗に染まっているなら尚更だ。

 でも……。


「聞き分ける?」


 意味は分かるけれど、状況が理解出来ない。

 首を傾げていると勇人くんがニッと笑った。


「あんたも試してみるか?」

「え?」


 どういうことか聞き返そうとしたけれど、その前に明人くんに肩を引かれてそのままくるくると回される。


「え? ちょっ、待って」


 勇人くんも加わったのか二人がかりで回される。


「め、めがぁぁぁ……」


 回る……。


 くらくらふらふらしたところに、どちらか分からない方の腕が首に回される。

 気付くと、後ろから肩を抱かれるような格好になっていた。

 反射的に抵抗しようと思ったけれど、その前に左耳の後ろから声が掛けられる。


「これで見えねぇだろ?」


 すぐ近くで男の子の声がしてゾワッとなった。

 可愛い顔はしているけれど、声変りを終えているそれはしっかり男の声だったから。


「さ、どーっちだ?」


 今度は反対側の右耳からも声がした。


 ど、どどどどっちだって⁉

 分かるわけないでしょ⁉


「ちなみにかなちゃんは今日の昼頃には分かってたみたいだぜ?」

 右耳から聞こえる。

「あれはホント、ビックリしたよな?」

 今度は左耳から。


 だから近いって――ん?


「ホラ、言ってみろよ」

 これは右。

「ま、分かんねぇなら仕方ねぇけど」

 これは左。


「……右が青い髪の勇人くんで、左が赤い髪の明人くん」


 これで合っているはずだ。

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