不良の事情②

 五時限目の現代文。

 六時限目の数学。

 どちらも通して久保くんは寝ていた。

 先生はどちらも諦めた様子で何も言わない。


 暴走族のNO.3だって言ってたもんね。

 NO.3なら幹部ってことだろう。

 暴走族が学校公認状態なら、先生も強く言えないのかもしれない。


 それにしても、ほぼ二時間ぶっ通しでこの体勢のまま寝れるって……。

 よっぽど寝不足なのかな?

 そのまま帰りのSHRまで寝ていたから、下手をすると二時間以上寝てたんじゃないだろうか。

 刺激しないようにとこの二時間ビクビクしながら隣で過ごしていたけれど、もしかしたらそこまで気にしなくても起きなかったんじゃないの?

 そんな風に思いながら帰る準備をし、しのぶと途中まで一緒に帰ろうと話していた。


「みんな住んでるのは学生寮なんだよね? しのぶも?」

「うん、そうだよ。美来は敷地外にある第二学生寮だっけ?」

「そう。ちなみに奏は隣の部屋ね」


 私と奏が割り振られた部屋は、学生寮と言いつつもハッキリ言ってしまうとただのアパートだ。

 本来の学生寮は大体すぐに埋まってしまって、転入生の入る部屋の空きなんて無いんだとか。

 でも、そんな人たちのために学校のすぐ近く。徒歩三分くらいの場所にあったアパートを買い取って第二学生寮にしたらしい。


 とは言え学生寮とは名ばかりだ。

 一応元大家さんの部屋に寮母さんみたいな人はいるけど、その人のやっていることは寮母と言うより完全に大家さんだ。

 部屋の案内やトラブルには対応するけれど、朝晩の食事を作るわけでもないし、外出する生徒を一々把握することもない。

 ハッキリ言って、学校に通うためにアパートに一人暮らししているって状況と変わりない。


 まあ、自由がきくからって理由で私たちの他にも何人か入ってるみたいだけれど。

 そんな話をしながら立ち上がって席を離れようとしたとき。


 ガシッ


 突然誰かに右手首を掴まれた。


「え?」


 硬くて力強いそれはしのぶのわけがなくて……。

 掴まれた手の先を見ると、それはいつの間にか起きていた久保くんに行きついた。


 え? 何? どうして私手首掴まれてるの⁉


 混乱して言葉も出せない私の手首を掴んだまま。久保くんは椅子から立ち上がる。

 そして大きくあくびをしてからどうでもよさそうに話し始めた。


「まだ帰んな。お前を連れて来いって言われてんだよ」

「え?」


 どこに?

 そして誰に言われたの?

 そんな疑問をぶつける暇も与えず、久保くんは歩き出してしまう。


「え? ちょっ、ええぇ?」


 仕方なく私も足を進めるけど、本当は行きたくない。


「し、しのぶ⁉」


 助けを求めてしのぶを見ると、突然のことに呆気に取られていたのか彼女はフリーズしていた。


「……は? え? あ、ちょっと久保くん!?」


 私たちが教室を出ようかというときしのぶはやっと声を上げる。

 でもそれで久保くんが止まるはずもなく、私はそのまま連れ出されてしまう。

 ちなみに隣のクラスを通り過ぎるとき奏と目があったけど、ポカンとした顔で見られただけで助けてはくれなかった。


 状況分からないから仕方ないかもしれないけど、声くらいかけてよ!


 不良に連れ出されるという最悪な状況に、私は心の中で奏に八つ当たりしていた。

 教室を離れ、どこに連れて行かれているのか考える。

 久保くんに聞いた方が分かるんだろうけど、答えてくれなさそうな気がしたから。

 学校は大きく分けて三つの校舎に分かれていたはずだ。

 北校舎、西校舎、東校舎と。

 今まで私がいたのは、教室がある東校舎。

 北校舎は体育館に直接つながる校舎で、運動系の教室や音楽室がある場所。

 西校舎は理科実験室や家庭科室など火や水を使う特別教室が集まった場所。

 転入前に何度か見た学校案内図を思い出して照らし合わせる。

 全部覚えているわけじゃあないけど、今はたぶん北校舎に連れていかれてるみたいだ。

 と言っても全ての教室を覚えているわけじゃないから、北校舎のどこに連れて行かれているのかは分からない。


 これ、帰りも案内して貰わないと迷っちゃうかも……。


 普通の学校ならそうそう迷う事もないだろう。

 でも、このマンモス校では一つの校舎だけでもバカでかい。

 さっきから階段を下りたと思ったら上がったり、何度も角を曲がったり。

 もう来た道順なんて覚えていない。

 しかも人の気配があまりないところに来ているみたいで、もしここで放り出されたら人に案内を頼むことも出来ず迷いまくるだろう。


 と、それだけでも不安だっていうのに……。


「ね、ねえ……私を連れて来いって言った人って誰?」


 これから会うであろう人を思うと不安どころか拒絶反応を起こしそうだ。

 それでも確認しておきたくて聞いたのに、久保くんは黙って歩いていく。

 私からは彼の金髪が歩く度にふわふわと揺れる様子しか見えない。

 綺麗に染められたその髪は、もともと細い髪なのか柔らかそうだ。

 触ったら気持ちよさそうだなぁ、なんて少し現実逃避してみた。


 まあ、触る機会なんてないだろうけど。


 久保くんからの答えは無くても、今どこに向かっているのかの予測は出来る。

 【月帝】のNO.3だっていう久保くん。

 その彼が言うことを聞く相手。

 確実に【月帝】の総長か副総長とかいう人たちでしょう!

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