学校の事情②
かすかな笑い声だからそんなに大きな声じゃなかったはず。
それでもはっきりと聞こえたのは、その声が良く通る声だったから……。
反射的に声の方を見ると、そこには王子様がいた。
こげ茶の髪はパッと見ただけでもわかるほどサラサラで、男にしては細めの眉。その下には少し垂れ気味な目。
男の人に使う表現ではないとは思いつつも、お人形さんみたいに綺麗な人だなと思った。
ん? あれ?
でもどこかで見たことがあるような……?
そんな疑問を抱いていたせいで座るタイミングを逃してしまう。
結果、その王子様とバッチリ視線が合ってしまった。
ふわりと優しく微笑んだ彼は、「笑ってごめんね」と言って近付いてくる。
え? いやいやいやいや!
来なくていいですから!
ただでさえ悪目立ちしているのに、こんな王子様が加わったらまた別の意味で目立ってしまう。
でもだからと言って今私が座ってしまったら、彼を無視しているように見えてしまう。
だから仕方なく、気まずい気分で私は立ったままその王子様を待っていた。
「君たち、二年に転入してきた双子だろう? 聞いているよ」
その話し方と雰囲気で彼が三年生だと分かる。
王子様は私と奏を交互に見てから私に視線を戻した。
「ただでさえ目立つんだから、こんなことをしたら悪目立ちしてしまうよ? それに、お兄さんをあまりいじめないように」
後半は冗談っぽく言われたけれど、私は
元を
私はとにかく王子様がすんなり去ってくれるのを待った。
「……」
一先ず言いたいことは言ったようなのに、王子様は私をじっと見て留まっている。
すっごく気まずい。
何なんだろう。まだ言いたいことでもあるのかな?
でも私からそれを聞くのも……。
なんて思いながら視線を下にしてじっと待っていると、王子様がやっと口を開いた。
「……髪、長いね」
「え?」
……え? それだけ?
じっと見てたのって、髪長いなぁって思ってただけ?
逆に驚いて顔を上げると、蕩けるような眼差しと目が合った。
「っ!」
「長い黒髪はいいね。【かぐや姫】みたいだ」
私を見ているようで見ていない目。
だけど、そんな王子様の表情に既視感を覚えた。
あ……もしかして……。
ある一つの記憶に合致するものがあって、私は目を見開いたまま固まる。
王子様はそんな私に背を向けて「邪魔したね」と言って去って行った。
固まっていた私はそのまま彼の背中を見送る。
人垣に近付くと王子様の周りには男女問わず人が集まった。
でも進行方向には人がいないのか、もしくは周囲の人が邪魔にならないようにしているのか。
王子様は止まることなく進んでいく。
そうして彼は二階席へと続く階段を上って行った。
そこまで見届けてから、私はやっと椅子に座りなおす。
注目が王子様の方に行ったため、フッと一息付けた。
「き、緊張した……」
そう呟いたのは私ではなく梅内さん。
いや、普通緊張するなら私でしょ? と思いながら彼女を見ると、梅内さんは私よりも強張った表情をしていた。
あ、本当に私よりも緊張してるっぽい。
「まさか生徒会長が仲裁してくれるなんて……」
続けて口にされた言葉にも疑問を持つ。
仲裁って、私と奏の?
まあ、悪目立ちしてたのを自分に注目を集めて助けてくれたんだろうなってのは私にも分かったけれど……。
っていうかあの人生徒会長なんだ。
「でも最後の『かぐや姫』って何だよ。ずいぶん乙女チックな頭してるんだな?」
私のコッペパンをすでに食べてしまった奏がそう感想を漏らす。
でもそれには梅内さんが慌てて訂正を入れた。
「あ、かぐや姫って言っても昔話の方じゃないの。なんかね、生徒会長と二人の総長が探してる人らしいのよ」
「探してる人?」
私は奏のコッペパンに手を伸ばしながらそう聞いた。
「そう。確か二年前って言ってたかな? その頃会った変わった目の色をしている女の子が忘れられないみたいで、ずっと探してるらしいよ?」
「へー? でも何で生徒会長だけじゃなくて総長二人もなんだ? 接点なさそうだけど?」
私に取られまいと自分のコッペパンをつかみながら、今度は奏が聞く。
「あ、三人は幼馴染なんだって。暴走族の総長とかやってるけど、総長二人もそこそこの家の次男と三男なんだって」
「ああ、それで総長たちも二階席使ってるのね」
コッペパンを引っ張りあって半分ゲットした私はそう納得した。
でも同時に疑問が浮かぶ。
「でもそんな家の人がどうして総長なんてやってるの?」
その私の質問に梅内さんは少し考えこんだ。
「うーん、どこから説明するべきか……」
その間に私はゲットしたコッペパンにジャムをつけて一口食べた。
うん、やっぱりジャムはイチゴジャムだね。
反対側に座っている奏は半分取られたからか少しムスッとしながらバターをつけて食べている。
いや、あんた私のコッペパン全部食べちゃったじゃない。
あ、でもバターもいいな。次はバター付けてみよう。
「……」
「ん? どうしたの?」
考え込んでいたはずの梅内さんが黙って私達を見つめている。
「……いや、仲いいね、二人とも。やっぱり双子だから?」
突然の質問に私と奏は顔を見合わせて目をパチクリ。
「……まあ、仲悪いわけじゃないとは思うけど」
「普通の兄妹と同じだと思うよ?」
ケンカだってするし。
っていうかさっきモロにケンカしてたじゃない。
質問の意味が分からなくて奏と二人首を傾げる。
そんな私たちを見て梅内さんは「やっぱり仲良いよ」と笑った。
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