学校の事情①

 学食は思っていた以上に広く、メニューも豊富だった。

 定番のAランチBランチとかの日替わりメニューは勿論、五千円以上する豪華なステーキまで。

 五千円なんて誰が頼むんだと疑問に思うけど、何故か人気メニューと書かれていた。


 そしてテーブル席は四角い長テーブルが連なっている場所と丸テーブルが点々と置かれている場所があって、更には二階席もあるみたい。

 大きな学校だとは思っていたけれど、何だかこれって……。


「何か、格付けされているみたい……」

「え? そうだよ? 知らなかったの?」


 ポツリと零した言葉に梅内さんが答えた。

 ってか、え? 格付け、されてるの?


「え? 本当に知らなかったの?」


 驚く私に、梅内さんの方が驚く。


「ある程度は《シュピーレン》さん……星宮くんに伝えてあったんだけれど……」


 その言葉で私と梅内さんは同時に奏を見る。

 黙って私達のやり取りを聞いていた奏は片手を上げて「悪い」と説明した。


「詳しく話すと美来は着いてきてくれなさそうだったから言わなかった」


 と、本当に悪いとは思っていなさそうに笑顔で言ってのける。

 はあぁぁぁん?

 それ、つまりは私を騙したってこと?

 怒鳴りつけたい気持ちを抑えた所為か、手がプルプルする。

 ここが大勢の生徒がいる学食じゃなかったら絶対にその胸倉を掴んで問い質していただろう。

 私は何とか怒りを震えだけに留めてニッコリ笑顔を作った。


「ちゃんと、説明、お願いね?」


 一言一言に力をめるように告げると、「後でな」と軽く返された。

 奏の対応に不満を抱きつつも、三人揃ってAランチを頼み四角い長テーブルのところに移動する。

 その間に梅内さんが学食のルールを教えてくれた。


 このマンモス校である佳桜高校では、私達みたいな一般人からお金持ちの御曹司やご令嬢など色んな生徒がいる。

 それらに明確な垣根かきねは無いと表向きにはなっているけれど、実際に生活する生徒が本当に垣根を越えて交流なんてそうそう出来るわけがなかった。

 結果、暗黙の了解で色々なところに格付けがされるようになっているのだとか。


 そしてこの学食に関してなんだけど、私達が今座っているのが一般生徒用。

 次にお金持ちの子息や令嬢が座る丸テーブル。

 二階席は、もっと上。

 政界にも顔が効くようなグループ商事の御曹司や古くからの伝統のある家柄の令嬢。


 そして、この辺り一帯を仕切っている暴走族・《月帝げってい》と《星劉せいりゅう》の幹部だけが使用できるらしい。


「…………」


 私は食べようとしていたコッペパンを一口大にちぎったところで固まり黙り込んだ。

 ……今のって聞き間違い?

 聞き間違いだよね?

 暴走族とか言ってないよね?

 しかも二つのグループが同じ学校とか。

 それ以前にその暴走族の幹部と、でっかいグループ商事の御曹司とかが一緒くたにされて二階席にいるとか……。


 うん、やっぱり聞き間違いだ。


 私はちぎったパンを口に入れてしっかり三十回噛んで飲み込む。


「ふーん。そんな凄い御曹司とかご令嬢もいるんだ。ま、私とは関りなさそうだけどね」


 そう言ってまたパンをちぎってジャムを付けていると、奏に「おい」と低い声で呼ばれた。


「暴走族云々のところスルーすんなよ」


 この学校の事情を黙っていた奏に言われて、冷静さを保っていた糸がプツッと切れる。

 聞き間違いってことにしておきたかったのに!


「奏、あんた私が不良とか暴走族とかをすっごく嫌ってる事、知ってるよね?」


 確認――するまでもないけど、まずはそう聞いた。


「ああ、まあ。だから黙ってたんだし」


 事実を知って私が怒るのは分かっていたんだろう。

 奏は悪びれもせず淡々と答えていた。


「一緒の学校に行くってのはいいよ? 理由も理解出来るし、私のためでもあったから」


 落ち着きを装って私も淡々と話す。


「でもね、私が不良嫌いって分かっててここに決めたのは何で?」


 その質問に、奏はちらりと梅内さんを見てちょっと視線をそらした。


「どうしてもここが良かったんだよ。理由は話しただろ?」

「だから黙ってたってかこの詐欺師ー!」


 私は叫びとともに立ち上がって持っていた食べかけのコッペパンを奏の口に突っ込む。

 そして心の中でも悪態をついた。

 梅内さんに会いたかったからってか!?

 頬を染めそうな仕草しちゃって!

 乙女かあんたは!?


「もごっ! わんはんあお!?」

「何言ってるかわかりませーん」


 パンをくわえたまま抗議の声を上げている奏に私はわざとらしく言う。

 いい気味だ。

 でも突然始まった兄弟喧嘩に梅内さんが驚いている。

 ……いや、梅内さんだけじゃなくて周りの人たちもだ。


「あ、やば……」


 ただでさえ悪目立ちしているというのに、さらに悪い意味で目立ってしまった。

 今はまだ食事中。

 さっきと違ってそそくさと逃げることも出来ない。

 とりあえず座りなおしてやり過ごそうかと思ったところに、「ははっ」と爽やかな笑い声が聞こえた。

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