地味双子の事情

転入までの事情

 九月一日。

 夏休みが終わったばかりで、ただでさえ残暑が厳しい暑い日。

 更に熱くなるような快晴の日に、私と双子の兄のかなではこの佳桜けいおう高等学校に転入した。


 元々は奏だけの転校で良かったんだけれど……。


 転校の理由は前の学校で奏がストーカー被害に遭った所為。

 しかもそのストーカーはクラスメイトという何とも悲惨な状況。

 付きまとい行為自体は積極的と取られなくもないギリギリの範囲だった。

 でも、ギリギリだからと対処を渋っていた所為で奏の当時付き合っていた彼女に被害が出始めたんだ。


 初めは奏と別れて欲しいと口にしていただけ。

 でもそれはどんどんエスカレートしていき、彼女の靴の中に虫が入れられていたり、怪文書が届くようになったり……。

 相手が誰なのかは分かっていたから最初はそれに対して文句を言っていた。

 でもストーカーの女の子は彼女が別れないから悪いのだと言い張って更にエスカレートしていく。

 しまいには近所の不良にお金を払ってその彼女を襲わせようとしていた。

 幸い私がその彼女と一緒にいた時だったから、蹴散らしてやって未遂に終わったけれど。


 でも、流石に彼女の方も限界だった。

 奏には悪いけれど、もう疲れた。と……。

 奏も大事な彼女にもう辛い思いをさせたくないからと二人は別れた。


 でも、そこで調子に乗ったのはストーカーの女の子。

 付きまといもエスカレートしていき、今度は私にもちょっかいを出して来るようになった。

 流石に警察沙汰にしなくてはならなくなって、ストーカーの女の子は別の学校に転校することになったんだ。


 で、それで済めば良かったんだろうけれどそう簡単には行かない。

 学校は全寮制のところに行ったらしいけれど、家は元の場所のまま。

 休みの日などに帰ってきたらまた奏を付きまとうに決まってる。

 だから奏もまた別の高校に転校した方がいいだろうと家族で話し合ったんだ。


 その時に奏に言われた。


「美来も勿論ついて来てくれるよな?」


 と。


 行かないよって言ったんだけれど、目の色以外そっくりな私がいたらあのストーカー女子は私に何するか分からないとか、傷心の兄を一人で行かせるのか? とか色々な言い方で丸め込まれてしまった。

 実際以前その子に。


「髪を切ってカラコン入れて、私を好きって言ってくれない?」


 なんて頼まれたこともあってあながち大げさでもなかったから……。


 そして転校した先で念のためと地味な格好をするという奏。

 同じ顔の私も地味な格好を強要されてしまう。

 今回ばかりは本当に同じ顔なのを何度呪ったことか。

 二卵性双生児のはずなのに、目の色以外は本当に鏡でも見ているかのようにそっくりなんだから。

 男女の違いはあるはずなのに、まだ大人になり切っていないからか違いを見つける方が大変な程。

 地味な格好という事でメガネも同じものを買ったらまあそっくり。


 こんな格好のときまでそっくりなんて……。


 メガネは普通なら透明の伊達メガネで良いんだけれど、私達の目は普通より少し明るい色をしている。

 私は青みがかったグレーで、奏は薄茶色。

 何でも祖父母が東北出身で、そっちの家系ではたまに青い目の人が生まれてたんだとか。

 だからまあ、隔世遺伝ってやつみたい。


 とにかく色素が薄い目のせいで、外に出るときとかふとした瞬間の明かりが眩しい。

 今までは出来るだけ気を付けて光を見ないようにしていたんだけれど、「どうせメガネを掛けるならそれに対処できるようにしよう」という奏の言葉でライトグレーのサングラスを付けることになった。


 これでも悪目立ちしないようにと黒いサングラスではなくて薄い色を選んだつもりだったんだけれど、それが逆に肌色の悪さにつながってしまった。


 ま、ある意味地味さは倍増したから良かったと言うべきなのかな?


 それゆえの今の格好ってわけ。

 でもそんな事情を話すわけにもいかない。

 だから私は不満を隠して地味ーに自己紹介をやり過ごした。

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