第3話 占い

 京介が学校の行き帰りに通る商店街。サラリーマンやOL、学生、商店で働く人たち、アーティスト風の人たち……様々な人々が行き交う。

 駅前に小さな本屋さんがあった。小さいが置いてある本の種類はかなり多い。雑誌、コミック、小説、学習参考書など一般的な書店にある本ばかりでなく、かなり専門的な本も多く置いてある。

 この辺りには京介の通うA大学の理工学部とB大学の商学部、隣の駅にも駅前に別のC大学の法学部があり、そんな学生が読むような専門的な本も数多く並んでいた。


 その本屋の前で、時々、占いをしている女性がいた。その女性は今日も小さなテーブルを前にじっと座っている。

 誰もが通り過ぎるばかりで立ち止まる者は一人もいない。彼女が誰かを占っている姿を見たことがなかった。

 いつも黒っぽい服装の彼女をあまりはっきり見たことがなかったが前髪をそろえたストレートの髪。スッとした綺麗な顔立ちの女性だ。

 そんなことを考えながら見ていると彼女と目が合った。


「占いましょうか?」

「え?」

「占いましょうか?」

「え、いえ。別に悩みもないですし……」

「悩んでなくて、そんな感じじゃ。ダメですね」

「え」

 なんだ、この人は……と思ったが、まっすぐ見ると、すごくきれいな女性だった。


「座ってください」

 言われるままに座ってしまった。

 女性は小さなテーブルにトランプより少し大きめのカードを広げた。タロットカードなのだろうか?

 その中の一枚を手に取り、

「あ」

 と言った。

「え?」

 京介が不思議そうに見ていると、女性は彼の方に目を向け、そのカードを見せた。


ミカドが現れます」


「え?」

 呆気あっけに取られた京介に、カードを見せながら、もう一度言った。


「ミカドが……現れるのです」


 真剣な眼差しを向ける女性。


「い、今の、占いですか?」


 微笑む女性。

 京介は怪訝な顔で彼女を見る。


 この人、なにを言っているんだ……

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