第三十六話 無限世界の支配律(二)
騎士は低い声で続ける。
「特異点たる人間界を巡り、ある時我々の世界で議論が起こった。貴様らは支配律に背き得る
六を見つめる者達の視線が、冷酷な狩人のものへと変わったのが分かった。
「その最中に帰冥体となった貴様ら人間が初めて『門』をくぐり、我々の世界に足を踏み入れたのだ」
「は? 人間は既に冥界に到達していたって言うのか? そもそも帰冥体って……」
「貴様は知らぬのか? この世界と人間界は時の流れが異なるが、恐らく数十年前だ。帰冥体に関しては我々にも分からぬ。この世界の概念ではないからな……成る程、あの連中は同族にすら罪を隠していたと言う訳か」
六は開いた口が塞がらなかった。人間が冥界に? 『門』の向こう側は一切が未知──とされている。そんな事実があるとすれば、冥対を通して世界中に知られている筈だ。情報を意図的に隠蔽したのだろうか? それも、誰が?
「奴らは略奪者だった。本来なら上位者たる我々が皆殺しにしていただろうが、戦でそのような余裕は無かった。戦乱に乗じて、我々が管理する力の源──『パンドラの箱』を奪い去ったのだ」
「パンドラの箱……パンドラって、俺達能力者の事か?」
「そうだ。人間界の言葉ではパンドラの箱と言う。我々の言葉では別の名前を持つが、それを貴様が認識する事はできない。『箱』は森羅万象を司る力の欠片──厄災の源。それを奴らが人間界へ持ち帰ったことにより、パンドラなる能力者が生を享けるようになったのだ」
六は幼い頃病院で読んだ教科書や冥対の資料を思い返した。初めてパンドラが確認されたのは確か一九九一年。話の通りなら、人間が初めて冥界に到達したのはそれ以前になる。
「パンドラがそれまでの人類と比べて傑出した力を持つことは貴様らが良く知っている筈だ。パンドラは我々上位世界を脅かす存在。一度略奪を経験した者達はそれを繰り返すに決まっている。ここには世界を形作る核──冥子があるのだからな。厄災は人類の罪そのものなのだ」
「俺達は人類が犯した罪を背負って生きてる……ってのか? 俺達は気味悪がられて石を投げられてきたってのに…………俺らが生まれたのは全部人間の好奇心と強欲のせいなのかよ!」
誰も言葉を返さなかった。六は震える掌を握りしめ、太腿に打ち付けた。他人の罪を背負った自分は、人類が略奪を犯した世界から人々を守っている。これほどまで屈辱的な事があるだろうか。
「箱が我々の世界に戻れば人間界にパンドラなど生まれず、生きているパンドラは全て異能を失う。同族の罪を憎みし訪問者──いや、宵河六よ。支配律に縛られる我々の『代行者』として箱を奪還してはくれぬか?」
代行者──猩猩が口にした言葉だ。
「誰が箱を持ってる?」
「羽宮希海だ」
「何だと? お前は希海が箱を奪い取ったって言いたいのか?」
「違う。箱の略奪者は彼女の母、羽宮
「おい、つまりそれって……」
「私の言いたいことは分かるな、宵河六────羽宮希海を殺せ」
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