肆拾-朧族
下界の探索開始から、約三時間後。
「そろそろ帰るか」
「そうね。この辺の地形は大体把握できたし、上界に戻りましょ」
「また皆で来ましょうね!」
「カァ」
踵を返し、幽門へ向かっていると。
弥勒はルカが山の方をジッと睨んでいることに気が付いた。
「ん、どうしたんだ?ルカ」
「……」
弥勒は意識を集中させ、その方角を探った。
「山の向こう側に見覚えのある霊力を発見した」
「具体的には誰かわからないの?」
「申し訳ないが、誰のかまでは覚えてない。でも、絶対に相対したことがある」
「霊力の見分けって割と難しいですよね」
「カァ」
「頼めるか?」
ルカはコクコクと頷き、大空へ羽ばたいていった。
追跡はルカに任せ、彼らは幽門へ向かう。
「どう?誰かわかった?」
「ちょっと待て。今、《視覚共有》する」
《視覚共有》とは八咫烏が持つ、三つの能力のうちの一つだ。
文字通り、契約主と視覚を共有することができる。
(あれはまさか……)
「誰でしたか?」
「飛輪所属の一級陰陽師だ」
「この前、東雲家の敷地内で偶々遭遇した後、少し会話した女性のこと?」
「ああ」
「凄い速さで北へ向かっている」
「妙ですねぇ」
陰陽師が任務で遠い場所へ向かう時は、基本的に交通機関を利用する。
特に下界に用事がある場合は、交通機関でその都市の幽門へ向かい、そこから入った方が断然効率が良い。
そのため道すら整っていない魑魅魍魎の跋扈する世界を、徒歩で遠距離移動しているのは、やましいことがあると言っているようなものなのである。
東雲家の特殊陰陽師部隊に所属している者であれば、尚更の話。
「十中八九、極秘任務だろうな」
「間違いないわね」
「ではこのままルカに追跡してもらいましょうか」
三人は上界に戻った。
現在、新居のお茶の間で寛いでいる。
もちろん弥勒は視覚を繋げていた。
(ここが目的地っぽいな)
「なぁ二人とも。巨大な山岳地帯が丸ごと村になっている場所に到着したのだが、ここが何か知っているか?」
「一番大きな山のてっぺんに、黒い屋敷があったりしませんか?」
「……あるな」
「ではそこは恐らく、関東・中部地方を統べる【朧族】の里ですね」
「良く知っているわね」
「一応大妖怪なので」
「まだわからんが、東雲家vs朧族の戦いが勃発するのであれば、俺達にめちゃくちゃ都合良くないか?」
「ええ、その通りね。乱入して飛輪をやっつけた後、全部朧族のせいにすれば、お咎めなしよ」
「かの朧族と戦うのであれば、砲雷は兎も角、トップに君臨する飛輪は全員召集されるでしょうね。戦力的に」
雫が問う。
「それ弥勒も参加することになったら、一体どうするのよ?」
「体調不良で休めばいい。腹痛とか」
「もしそれが通じなかったらどうしましょうか」
「そんなの決まっているだろう」
弥勒は一息おいて、それっぽく言った。
「わざと参加して、背後から朧族と挟み込めばいい。一網打尽だ」
「うわ、カッコわる……」
「さすが弥勒様です!」
弥勒の陰湿さは筋金入りである。
その後ルカを再召喚し、その日は終わった。
第四週の土曜日。弥勒と雫は再び東雲家を訪れた。
期待の新人が砲雷に加入したことは、東雲家内部でも話題になったので、今回はスムーズに門を潜ることができた。
『相変わらず広いな。施設の見た目は古風だが、内部は全て最新型なんだよな』
『東雲は東京に屋敷を構えているだけあって、政府からの資金援助が凄いらしいわよ』
『じゃあもっと巻き上げるか』
『やめなさい』
砲雷の拠点に到着。
「神楽坂様、今日はどうされました?」
「資料室を利用しに来ました。ここら辺に出没する妖怪とかの情報を一切持ってないんで」
「なるほど。神楽坂様は地方出身ですもんね。では鍵をお渡しします。権限についても隊長から伺っているので、特に問題は無いでしょう」
「ありがとうございます」
資料室にて。
『妖怪の種類や地形、勢力図なんてぶっちゃけどうでもいいから、とにかく過去から最新までの活動記録を漁るぞ。特に飛輪に関してのものを』
『ばっちこいよ』
一時間後。
「弥勒!来ていたなら一言いってくれ!」
「……なんすか」
(チッ。今良いところだったのに)
「何を隠そう、お前に記念すべき初任務を与える!喜べ!」
「それインターン初日にも言ってませんでしたっけ?模擬戦の前に」
「ん、そうだったか?申し訳ないが覚えていないなぁ」
「そうですか……」
『このジジイ、すっとぼけやがって』
『完全にあの模擬戦事件を無かったことにしているわね』
燕隊長は強引に話を続けた。
「で、任務の詳細についてだが、今回はとある廃病院に行ってもらいたい」
「もうちょい具体的に」
「奥多摩にある廃病院に悪霊が住み着いたらしく、通報を受けた現地の陰陽師達が何度か討伐に向かったが……」
「ダメだったんですね」
「ああ」
「悪霊の階級と任務の期限を教えてください」
「階級は二級で、期限はできる限り早くだ」
「二級って高くないですか?」
「その場にいた霊を端から呑み込んでいき、急激に成長したのだろう」
「なるほど」
というわけで。
「じゃあ行って来ますね」
「え、今から行くのか?」
「そうですけど」
現在午後の五時なので、今から向かえば、到着するのは夜になる。
「言うまでも無いが、夜は妖怪が活性化する。それでもか?」
「はい。大丈夫です」
「……」
隊長は目をカッと開いた。
「よし。行ってこい!!!」
「へーい」
弥勒が資料室を出ようとした時。
「ちょっと待て、弥勒。お前にこれを渡しておく」
「ありがとうございます」
弥勒は隊長に砲雷のバッチを貰った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(´-ω-`) ←弥勒 (● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ ←雫
_| ̄|○ ←修羅 ㄟ( ・ө・ )ㄏ←ルカ
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