肆拾壱-悪霊
二人は新幹線に乗り、直ちに奥多摩へと向かった。
弥勒は窓から外の景色を眺めている。
「超ド田舎だな」
「貴方の出身地よりは幾ばくかマシよ」
「廃病院は無いけどな」
「でも妖怪王を生んだでしょ。誰とは言わないけど」
「確かに……」
いつになっても雫には敵わない弥勒であった。
駅に到着後、新居でゴロゴロしていたルカを《口寄せ》した。
「ルカ、乗せてくれるか?」
「寛いでいたところ、悪いわね」
「カァ」
ルカは、《巨大化》し二人を乗せた。
八咫烏の三つの能力のうちの一つがこれである。
ちなみに現在判明しているのは《視覚共有》、《巨大化》の二つだ。
ルカは漆黒色なので、夜に溶けこむことができる。
そのため都市の上空を飛行してもバレる心配はない。
雫は弥勒の背につかまり、夜空を楽しんでいる。
「星が綺麗ね!!!」
「ああ。風が心地いい」
「カァ~」
数十分後、件の廃病院に到着した。
「あそこか」
「想像よりもかなり大きいわね」
「ルカ。見張りの陰陽師がいるかもしれないから、少し手前で降ろしてくれ」
「カァ」
ルカは林の中に静かに着地した。
「ありがとな」
「私たちは廃病院に入るから、ルカは上空で待機していてくれる?」
「カァァ」
廃病院の駐車場に入ると、数人の陰陽師がやって来た。
「砲雷の方でしょうか?」
「そうだが」
「念のため確認させてもらっても?」
「ああ」
弥勒はライセンスカードと、砲雷のバッジを見せた。
『やはり信じられないよな。俺みたいな若造が砲雷の隊員だなんて』
『きちんと確認するという意味では、良い陰陽師さんね』
『ああ』
「失礼しました。こちらへどうぞ」
「あ、はい」
「味方の索敵によると、現在悪霊は四階を彷徨っております」
「階段の場所はどこですか?」
「入り口から入って真っすぐ進むと階段があります」
「了解です」
「言うまでもありませんが、悪霊に物理攻撃は効かないので、ご注意を」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
「いえいえ、御武運を祈っております」
「はい」
『霊に物理攻撃は効果が無いってマジ?』
『大マジよ……。逆に知らなかったことに驚きだわ』
霊系妖怪に物理攻撃が効かないということは陰陽師界隈では常識中の常識である。
弥勒は廃病院に足を踏み入れた。
地面にはガラスの破片や医療器具などが散乱しており、歩くたびに音が鳴り響く。
『雰囲気は良い感じだな』
『なんだか不気味ね』
警戒しつつ、階段を上っていく。
『一階は割と普通だったが、二階と三階はかなり荒れている』
『戦闘痕が目立つわね。きっと霊術を連発したんでしょう』
『だな』
そして四階に到着。
すると、奥から大きな妖力が波の如く押し寄せた。
『情報通り、この階にいるな』
『ええ。間違いないわ』
奥へ十メートルほど進むと。
手術室というタグの付いた部屋から、女性が横顔を出した。
「坊や。こっちにおいで~。おいで~」
怪しい笑みを浮かべながら、手招きしている。
『結構はっきりとしゃべるんだな』
『さすが高階級の悪霊ね』
「ちょっと待ってろ。今行くから」
「早く。早く~」
弥勒はポケットに手を突っ込みながら、呑気に足を踏み入れた。
その瞬間。
「いただきまぁぁぁぁぁす!!!」
悪霊が口を大きく開け、弥勒を丸呑みにしようとした。
「〈火ノ肆-紅蓮千波〉」
超高熱の炎が四階を丸ごと燃やし尽くした。
「ギャァァァ!!!熱い、熱いぃぃぃ!!!」
しかし、悪霊は倒しきれなかった。
「タフだな」
「許さない、許さない、許さない!」
再び口を大きく開いた。
「オ、オェェェェェ」
口の中から何十体もの霊を吐き出した。
「他の霊を使役するタイプか。面倒だな」
「コ、コロス……」
「シンデ?ネェ、シンデ?」
「ケッケッケッケ……」
『四~七級まで様々ね』
『地元の陰陽師達が敵わないわけだ』
弥勒はふと夜刀を見た。
(夜刀は術を斬ることができる。術は主に霊力・妖力で形成されている。これは霊も同じだ)
霊の実体も妖力で形成されているので、夜刀であれば斬れると判断したのだ。
弥勒は抜刀した。
(伝説の妖刀、布都御霊であれば……)
「ヒノイチ、ホタルビ」
「ツチノニ……イシツブテ……」
「カゼノニ。フウシ」
「シネェェェ!」
「クワセロォォォ」
「ア、アソボォ?」
霊達は沢山の妖術を放ち、また何体かは弥勒に飛び掛った。
弥勒は《-圧縮-》×《-発散-》を駆使し、電光石火の如く駆ける。
約一秒後、使役されていた霊は一体残らず真っ二つになり、消滅した。
『やっぱりな』
『夜刀は相変わらず凄いわね』
悪霊は驚いた表情のまま後退する。
「え……え……」
「じゃあな。地獄で会おう」
夜刀を横一閃し、悪霊は消滅した。
『お疲れ様』
『おう。早く帰るか』
『そうね』
踵を返した、その時。
パチパチパチ。
「弥勒君、お見事です」
「えーっと、貴方は砲雷の副隊長でしたっけ?」
「はい。副隊長の翠川右京です」
翠川右京の後ろには、沢山の陰陽師達が待機していた。
(初任務だから、様子を見に来てくれたのか?いや、待てよ……。それにしては多すぎないか?それに……)
『弥勒。あの人たち、砲雷のバッジを付けてない。明らかに怪しいわ。気を付けて』
『ああ』
「わざわざ援軍に来てもらって申し訳ないんですけど、今丁度討伐が終わったところです」
「そうですか。お疲れ様でした」
副隊長は優しく微笑む。
刹那、表情が切り替わった。殺意の籠った眼差しを弥勒へ向ける。
「では、死んでください。〈風ノ参-竜巻〉」
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