参拾漆-新天地
弥勒が砲雷に正式入隊した日の夕暮れ時。
「ただいま」
「帰ったわよ、修羅~」
「お帰りなさいませ!!!」
弥勒は修羅に東京マロンを手渡した。
「ほい、お土産」
「ありがたき幸せ……。一生大事にします!」
「早く食えアホ」
一旦休憩していると、誰かが窓をコツコツと叩いた。
「ん?」
窓の外には黒鳥の姿が。
「おお、八咫烏も丁度帰って来たか」
「カァ~」
風呂に入った後、今後の会議を行うことになった。
弥勒と修羅はソファ、雫はベッド、八咫烏と夜刀はテーブルの上で寛いでいる。
雫が今日あった出来事を丁寧に説明した。
「……という流れで、飛輪の下部組織である砲雷に正式加入したのよ。十倍の給料と、隊長と同等の権限というオプション付きでね」
「さすが弥勒様ですね」モグモグ
「カァ~」モグモグ
「東京マロン美味いな」モグモグ
修羅はこの二人の実力を知っているので、そこまで驚きはしなかった。
八咫烏は東京マロンを食べるのに必死である。
「ちょっと!ちゃんと聞いているの?特に大妖怪と鳥!」
「はい、もちろん!」
「カァ」
「はぁ、まあいいわ。ここからが本題よ。弥勒が説明してあげて」
「おう」
実は弥勒と雫は、帰りの新幹線の中で“とある事”を相談していたのだ。
「給料が十倍になったから、大きな一軒家を借りることにした」
「わ、私はアパートに置いてけぼりですか……?」
「もちろん修羅も一軒家に移住してもらう。安心しろ」
「私は今天にも昇る気持ちです!」
「そうか」
修羅は問う。
「そういえば場所はどの辺ですか?」
「御影高校と東雲家の中間あたりにしようかと考えている」
「ふむふむ。砲雷に入隊したのに、高校はまだやめないんですね」
「活動する上で、学生という身分は良い隠れ蓑になるからな」
「なるほど」
「というわけで、明日皆で不動産屋に行くから準備しておいてね」
「了解です」
「八咫烏も来るか?」
「カァ」
翌日、予定通り全員で不動産屋へ向かった。
修羅は新幹線の中でソワソワしている。
「こ、これが新幹線……文明の利器ですね」
「文明の利器と言えば、二人ともスマホ欲しいか?」
「「欲しい(です)!!!」
「じゃあ今日ついでに買いに行くか」
「やったー!」
「これで一歩時代に近づけます!」
修羅と雫はハイタッチした。
ちなみに八咫烏は、現在新幹線の上空を気持ちよく飛んでいる。
「~♪」
空亡御一行は無事不動産屋に到着した。
「ペット可だってよ。良かったな」
「カァ」
「次の方どうぞ~」
「はい」
「カ、カラス!?」
「大きいインコです」
「いや、でもどう見てもカラ」
「インコです」
「そうですか……」
店員は弥勒の勢いに敗北した。
「その条件でしたら、この二つの物件が当てはまりますね。こちらは新築ですが、もう片方は比較的古いです」
「ふむ。二人はどう思う?」
「私はどっちでも良いと思うわ」
「私はお二人と一緒であれば、ぶっちゃけどこでもいいです」
店員が困り顔で言った。
「実は一つ注意していただきたいことがありまして」
「なんですか?」
「古い方の物件が建っている地域は、なぜか妖怪の出没頻度が高いんです」
「ああ、それに関しては気にしなくて大丈夫です」
「えっと、その……。一応ご理由を伺っても?」
「陰陽師育成高校に通ってるからです」
「なるほど、そういうことでしたか。不躾に失礼しました」
「いえいえ」
「きっと心配で聞いてくれたのよ。いい店員さんね」ボソボソ
「ですね~」ボソボソ
結局、店員の車で両方内検をしに行くことになった。
新築の物件にて。
「ここはイマイチだな……」
「周りに店が沢山あって、少し騒がしいわね」
「私の住処よりは百倍マシですけどね」
「ではもう片方の物件へ行ってみましょう」
店員は再び車を走らせた。
数十分後、妖怪の出没頻度が高い地域にあるという、古い物件に到着。
「俺はこっちの方がいい」
「静かでいいわね。部屋も多いし、庭も広いわ」
「風情があっていいと思います」
「カァ~」
「やっぱカ」
「インコです」
店員は問う。
「ではこの物件にいたしますか?」
「はい。ここでお願いします」
「承知致しました」
その後、不動産屋に戻り契約書にサインした。
また帰りにショッピングモールに寄り、雫と修羅のスマホを購入した。
月曜日の朝、御影高校にて。
『今日は一段と視線が刺さるなぁ』
『東雲家に推薦されたのが広まったんじゃない?』
『ああ。陰陽師界隈は情報の回りが早いもんな』
『ええ』
二人は教室へ入った。
すると、奥の席からいつもの三人が飛んできた。
「おい弥勒!お前本当に、あの【砲雷】に入ったのか!?」
「神楽坂君。詳しく聞かせてください。く、わ、し、く」
「事実なら大快挙だよ?」
「そんなことより、お土産買ってきたぞ。ほれ」
「うぉ!サンキュー!」
「私これ大好きなんです。ありがとうございます」
「わーい!東京マロンだー!」
「「「じゃなくて!!!」」」
『こいつらおもろいな』
『息ピッタリね』
一度席に戻った。
クラスの生徒たちは四人の会話に耳を澄ませる。
「インターン初日に色々あって、入隊することになったんだ」
「マジかよ!おめでとう、相棒!」
「さすが神楽坂君ですね。同年代であれば、間違いなく日本で一番ですよ。おめでとうございます」
「おめでと!!!私友達にいっぱい自慢しちゃお!」
「おう」
一息ついたところで、三人の表情が曇った。
「でも……」
「ええ……」
「うん……」
「どうしたんだ?」
「弥勒、学校やめちゃうんだろ?」
「別にやめないぞ?」
「「「え」」」
三人は大歓喜した。
「やったぜー!!!!」
「良かったです、本当に……」
「これで素直に喜べるよ!」
『なるほど、そういうことか』
『ほんと可愛いわね、この子達』
弥勒のように、学生のうちにその実力を買われ、組織に入る生徒は僅かだが存在する。
その場合、組織での活動を優先するために、大体の生徒は退学してしまうのだ。
そういった理由で雅楽丸達は、弥勒も例に漏れず退学してしまうだろうと考えていたのだが、その予想は良い意味で外れた。
「なぁ弥勒。SNSは定期的に確認しような」
「?」
弥勒は三日ぶりにアプリを開く。
「!?」
通知が三百件以上溜まっていた。
主にこの三人から。
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