参拾肆-口寄せ
翌日の放課後。
ネットで注文した服が届いたので、それを修羅に着てもらい、街中へ行くことになった。修羅とは長い付き合いになりそうなので、早めに現代慣れしてもらうことを優先したのだ。
ちなみに雫の服は既に何十着も購入しており、今日は水色のセーター&白色のスカートを着用している。
また透明化は解除し、普通の女の子として参加している。
弥勒はもちろん寝巻のままである。
現在三人は、駅方面へ歩いている。
「なるほど。それで先代と同じ術を行使されていたのですね」
「ああ。雫さまさまだ」
「もっと私を褒め称えなさい!」
「さすが雫様です。よっ、傾国の美少女~」
「ふふん」
雫は満足そうに鼻を鳴らした。
「なんか他に便利そうな術とか知らないか?」
「ふむ……。《口寄せ》とかがオススメですかね」
「なんじゃそりゃ」
「式神使いの妖怪バージョンです」
「なるほど」
「幻術はそんな事までできちゃうのね……」
「また口寄せで召喚するのは式神ではありません。その対となる存在、妖魔です」
「へぇ」
「ずっと昔、どこかで聞いたかも」
式神と妖魔の関係性は、簡単に言えば天使と悪魔のようなものである。
修羅は人差し指を立てた。
「この術には一つ注意事項がありまして。式神使いと同様、生涯で一種類の妖魔しか使役できません」
「そもそも、どんな妖魔が存在するのか知らないんだが」
「そうそう」
「私も知りません」
「「えぇ」」
「先代曰く、口寄せを唱えれば、何となくわかるらしいですよ」
「ほほう」
「私が適当に結界を張っておくので、今試してみては?」
「だな。あそこの公園にしよう」
「楽しみね」
三人は公園へ移動し、修羅が〈断絶結界〉を張った。
雫が褒める。
「高レベルの結界術ね。さすが大妖怪」
「恐悦至極でございます」
「じゃあやってみるわ」
弥勒は空亡の姿になった。
「《口寄せ》」
彼の頭の中に、数多の妖魔が浮かび上がった。
現在幻術を駆使し、妖魔の住む世界と間接的に繋がっている状態だ。
妖魔達も妖怪王に仕えるべく、弥勒の想像世界に殺到している。
下級から上級まで、何千何万にも及ぶ妖魔が名乗りを上げた。
そんな混沌とした世界の端のまた端。
一本の涸れた木が佇んでいた。
その枝に一羽の黒鳥がとまっている。
鳥は遠く離れた距離から弥勒を睨んでいた。
まるで、もし自分を発見できれば使役されてやる、と言わんばかりに。
(くっくっく。傲慢不遜な妖魔がいたもんだ)
弥勒は山のように群がる伝説の妖魔達を退け、その黒鳥に手を伸ばした。
そして強引に契約を交わす。
顕現した黒鳥は彼の肩にとまった。
「成功だ」
「その妖魔はまさか……」
「足が三本のカラスってことは……」
その妖魔の名は【八咫烏(ヤタガラス)】。
三本の足はそれぞれ天・地・人を司ると言われている、妖怪王の供に相応しい魔鳥である。
八咫烏は不服そうに雫と修羅を睨んだ。
「……」
「な、なんか生意気ね。コイツ」
「焼き鳥にしますよ?」
「まぁまぁ、そのうち慣れるだろ。今は我慢してくれ」
弥勒は八咫烏に言った。
「さすがにお前を街中へ連れて行くことはできないから、今は元の世界に帰ってくれるか?」
八咫烏はコクコクと頷き、消滅した。
「主の言うことは素直に聞くのね」
「弥勒様は妖を統べる“王”ですから」
「妖魔ゲットだぜ」
約一時間後、三人はジャンクフード店に潜入していた。
修羅は必死にハンバーガーを口に詰める。
「ハグハグ」
「そんなに焦っても、誰も取らないぞ」
「随分美味しそうに食べるわね」
炭酸ジュースで流し込み、言った。
「なんですか、この食べ物は!」
「落ち着け。ただのハンバーガーだ」
「こっちの芋揚げもたまりませんね!」
「それもただのポテトよ」
付喪神は食事を必要としないが、今回ばかりは一緒に食べていた。
「いつも面倒で食べないけど、こうやって皆でする食事は最高ね」
「また来ような」
「ええ」
落ち着いた頃、修羅は二人に聞いた。
「そういえば、何故弥勒様は陰陽師育成学校へ通っているのですか?」
「今日はついでにそれを伝えようと思っていたんだ」
「長くなるから、心して聞いてね?」
弥勒は一から語った。
数十分後。大妖怪は怒りでワナワナと震えていた。
「弥勒様のご家族を……。よし、皆殺しにしましょう」
「そうしたいのは山々なんだが、いかんせん情報が足りなくてな」
「今順調に事が進んでいるから、ここで修羅と八咫烏が仲間になってくれて本当に助かったわ。八咫烏は生意気だけど」
「情報収集は得意分野なのでお任せください」
「頼りになるな」
「焔ちゃんに関しての情報は持っていないの?」
「実は少しだけ持っています」
「聞かせてくれ」
「知っての通り、下界にも妖怪の村や里が点在しています。住処からここを訪れるまでにいくつかの集落に寄ったのですが、そこで『九尾族の姫が十年ぶりに帰還した。豪華に迎え入れられ、今は静かに暮らしている。これで九尾族は安泰だな』と耳にしました」
「これで一安心ね」
「ああ。師匠の予想通りだな」
「むむ?し、師匠?」
「まだ言ってなかったか。忘れてた」
修羅は身を乗り出し、顔を近づけた。
「教えてください。詳しく」
再び弥勒は語った。
全部聞いた結果、修羅は涙を流し、テーブルに倒れ伏していた。
「わ、私が師になり全てを教えたかったのに……グスン」
「忙しい奴だな」
「数百年も住処に引きこもっているから、そうなるのよ」
『今は夜刀の事は言わない方が良さそうだな』
『ええ、そうね。感情の起伏が激しすぎて修羅が死んじゃうわ』
その頃、八咫烏は再び涸れた木にとまり、惰眠をむさぼっていた。
「……zzz」
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