参拾参-仕える者

 模擬戦で実力を発揮した結果、弥勒は計画通り東雲家に勧誘されることに成功した。そんな彼は今日も今日とて、雫と共に下界を訪れ、幻術の練習をしていた。


弥勒は空亡の姿になり“とある幻術”を唱える。

すると赤い空から闇の柱が降り、森の一部を消滅させた。


近くの丸太に座っていた雫は唸った。

「いい感じね。威力に関しては、先代と遜色ないと思うわ」

「威力に関してということは……」

「ええ。先代はもっと発動までの時間が短かったし、その術を発動している最中に、次の術の準備までしていたわよ」

「まだまだ俺も未熟だな……」

「私はいくらでも付き合ってあげるから、一緒に頑張りましょう」

「おう」


そもそも空亡に覚醒してから約三ヶ月で、先代と同じ威力の術が放てていること自体、かなり異例である。

だが、弥勒は謙虚な姿勢を崩さないのであった。


その後も幻術の訓練を続けていると……。

「おい雫、何か来るぞ。俺の後ろに隠れろ」

「わ、わかったわ」

雫は透明になり、弥勒の背中にギュッと抱き着いた。


数秒後、二人の前に一人の妖怪が姿を現した。

「俺に何の用だ?」

(この洗練された妖力。こいつの実力は師匠と同等か、もしくはそれ以上だな……)


「その前に、まず一つ伺いたいことが」

「なんだ?」


妖怪は尋ねた。

「貴方は……空亡様でしょうか?」


『肯定してもいいだろうか』

『相手はかなりの実力者だから、恐らく貴方が空亡だということを確信しているわよ。念を押して聞いているだけ』

『じゃあ変に誤魔化すより、素直に教えた方が良さそうだな』


「そうだが」

「やはりそうでしたか……。今日は何て素晴らしい日なのでしょう。お探しさせて頂いた甲斐がありました」

「お前の名は?」

「ああ、申し訳ございません。私は【修羅】と申します」


『えっ。しゅ、修羅!?』

『知っているのか?』

『知っているも何も、有名な大妖怪よ!最近はあまり名前を聞かないけど』

『へぇ』


弥勒は続ける。

「で、お前は俺に何か用でもあるのか?」

「実は私は、代々空亡様にお仕えさせて頂いておりまして。先代が亡くなられて以降、数百年間住処に引きこもっていたのですが、つい三ヶ月程前に下界に夜が降りたので、貴方様の幻力を頼りにここへ来ました」

「ほう。そういうことか」

「はい。また幻力を感じ取れなかった日も沢山ありましたので、少々不安でした。下界と上界を行き来しておられるので?」

「おう」


『修羅は代々仕えているらしいんだが、雫は知ってたか?』

『いいえ。聞いたこと無いわね。でも嘘を付いている感じはしないのよね』

『だよな。とりあえずテストしてみるか』

『そうね』


「代々仕えているのなら、俺の術を言ってみてくれ」

「はい。固有術は《-擬態-》で、人間に化ける術です。妖力も霊力に変換されるので、妖怪を弾く結界などもすり抜けることができます。そして人間に擬態している時は、もう一つの固有術を使うことが可能です」


「幻術は?」

「空亡様の幻術は《-月詠-》ですね。三ヶ月程前に発動されたのが《大禍時》で、先ほど行使された術が《十六夜》でしょう」

「当たりだ」


修羅は微笑んだ。

「ふふふ」

「?」

「いえ。今代の空亡様は、かなり慎重な方だと思いまして」

「なるほど」


「陰陽師の格好をされているということは、もしや付喪神と契約されているのでは?」

「良く知っているな」

「いえいえ。先代は契約されませんでしたが、他の代の方々は契約されておりましたので」


ここで、弥勒は修羅を信用できると思った。

『なんか大丈夫そうだな』

『大妖怪が味方になってくれるのは心強いわ』


雫が透明化を解除した。

「今代の契約者は私よ」

「お名前を伺っても?」

「雫よ!」

「では雫様と呼ばせていただきますね」

「きょ、許可するわ!」


弥勒は話を切り出した。

「お前はこれからどうするんだ?」

「できれば側でお仕えさせて頂きたいです」

「高身長イケメン妖怪と同じ部屋に住みたくないんだが」

「そこをなんとか」

「えぇ」


『どうする?』

『インターンで給料が支払われるし、隣の部屋でも借りてあげれば?丁度空いているじゃない』

『だな』


「隣の部屋に住むか?ボロアパートだが」

「え、良いのですか?ありがたき幸せ……」


修羅は静かに涙を零した。

「お、おい、泣くなよ」

「歴代の方々は、素っ気ない方ばかりでしたので」

「お前も苦労してきたんだな」

「はい……」


「口調はもっと崩していいぞ。そんなに畏まられると、逆にムズムズする」

「わかりました。ではこんな感じで」

「よし。ちなみに俺の名前は弥勒だ」

「いい名ですね。弥勒様と呼ばせてもらいますね」

「ああ」


大妖怪修羅が味方になった。

「これからよろしく。修羅」

「よろしくね!!!」

「よろしくお願いします。弥勒様、雫様」


三人は上界へ戻り、田んぼ道を歩いていた。

「修羅の見た目は人間とほぼ変わらないから、とりあえずそれっぽい服でも買うか」

「ありがとうございます!」

「どれがいい?」


弥勒はスマホの画面を見せる。

「!?」

「どうした?」

「こ、この薄い板は何ですか?それに、辺りの建物も昔とは違いますね……」

「ああ、お前数百年間引きこもってたんだっけ。そりゃ驚くわ。慣れろ」

「そんな強引な」

「修羅はまずそこからね」


まずは修羅を現代慣れさせることから始まった。







アパートにて。

「背中流しましょうか?」

「絶対やめてくれ」

「では諦めます」


そのやり取りを影から見守る付喪神が一人。

「ハァハァ……」

何を隠そう、雫は腐の属性を持っているのである。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


_(:3」z)_ ←弥勒 ヾ(๑╹◡╹)ノ" ←雫


(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`) ←修羅(new!)


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