拾捌-実践授業

「風よ、槍となり仇敵を貫け〈風ノ弐-風槍〉」

風の槍が放たれ、二十メートル先の的を貫いた。


「俺速すぎて見えなかったんだけど……」

「さすが八重樫先生ね。スムーズだわ」

「詠唱から発動までの時間が早い」

「刃先生、ちょっとカッコいいかも///」

などと、生徒達から感嘆の声が上がった。


夜刀が仲間に加わってから、約三週間経過した。今日は遂に実践訓練の日である。

現在、実際に先生が霊術の〈風・火〉を其ノ弐まで行使し、皆でそれを見学している。


「よーし、じゃあ皆やってみろ。俺は一通り見て回るから、質問があれば随時答える。グループで固まっても良いが、あまり遠くには行くなよ」


御影陰陽師育成高校の訓練場はかなり広い。的も常に三百は配備されている。

生徒たちは仲良しグループに分かれ、それぞれ自由な場所へ散らばった。


弥勒はもちろん、いつもの三人と一緒である。

雅楽丸はやや興奮している模様。

「いやぁ、やっぱ先生は凄ぇな!」

「そうだな」

「そういえば、先生は何級なんだろうな?」


紫苑が答える。

「八重樫先生は、確か四級陰陽師だった気がします」

「うん!入学式のパンフレットにそう書いてあったよ!」

「ほとんどの陰陽師は五級で止まると言われていますから、そう考えるとやはり先生は優秀だと思いますね」


弥勒は雫に問いかける。

『そうなのか?』

『ええ。大抵の陰陽師は五~七級ね。基本的に四級以上になれば、本家や様々な組織から声が掛かるわよ』

『先生もその口か』

『たぶんね』


ここで沙羅が急に話を変えた。

「それよりも、全員付喪神と契約できてよかったね!」

「そうだな!陰陽師家出身者は兎も角、弥勒は大変だったんじゃないか?」

「ああ。付喪神を求めて奔走した結果、運よく契約してもらうことができた。俺みたいなハズレ固有術持ちが契約できるなんて、驚きだよな」

「そんな事ないですよ、神楽坂君。〈風・火・水・土〉のいずれかを極めれば、きっと上級陰陽師になれます」


今日は付喪神と契約しなければならない、〆切り日なのである。この四人は全員契約することができたので、実は雫以外にも他三柱の付喪神が、各々の頭上をプカプカ浮かんでいたりする。

付喪神は基本的に人前には姿を現さない。ちなみに、姿を透明にしている時は他の付喪神にも認識されない。


到着後、四人は少し離れて練習を開始した。

弥勒は妖術を師匠から学んだ時、無詠唱で教えられた。なぜなら、そもそも妖術には詠唱というものが存在しないからだ。

だが、霊術は別である。誰でも簡単に行使できるよう、古の陰陽師達が詠唱を創ったのだ。

もちろん、高階級の陰陽師の中には無詠唱で行使できる者もいる。


「その燃え盛る両翼で、魔を葬り去れ〈火ノ壱-炎鳥〉」

炎の鳥が的に衝突し、小爆発した。


『なぁ雫、いちいち詠唱しなきゃダメか?マジで面倒なんだが』

『絶対騒ぎになるから駄目。無詠唱で術を行使できる陰陽師なんて中々いないんだからね』

『先生でも難しいのか?』

『ええ。最低でも二級以上の実力が必要よ』

『マジかよ……』


その後、弥勒は〈風・火〉を其ノ弐までの発動を成功させた。妖術と同様、霊術の核心もすでに掴んでいるので、そこまで難しくは無かった。もちろん、完璧に発動できたわけではないが。


周りを確認すると、他三人も術を成功させていた。

(そういえば、陰陽師家は幼少期から術を特訓するんだっけか)


そこへ丁度、八重樫先生がやってきた。

「やるじゃないか神楽坂。もしかして、どこかの陰陽師家に世話になっていたのか?」

「いや、初見ですけど」

「嘘をつくな、嘘を」

「逆に、こんなハズレ固有術持ちの面倒を見てくれる陰陽師家が存在すると思いますか?」


それを聞いた先生は、申し訳なさそうに謝罪した。

「……本当の様だな。変に疑ってしまって、すまん」

「大丈夫です」

「もしかすると、俺の教え子の中から、歴史に名を残す天才陰陽師が生まれるのかもしれんな……」

「大げさですよ」

(まぁ別の意味で名を残す可能性が高いけどな)


変な空気になってきたので、弥勒は話を変える。

「先生は其ノ参まで使えるんですか?」

「〈風〉は参、〈水・火〉が弐まで、そして〈土〉が壱まで使えるぞ」

「なるほど。〈風ノ参〉が使えるのも驚きですけど、そもそも四属性使えるのが凄いですね」

「〈土〉は壱しか使えないから、あまり役には立たないけどな」


弥勒は気になっていたことを問いかけた。

「参まで使えるようにならないと、四級には上がれないんですか?」

「ああ、その通りだ。ちなみに、二級に上がる条件も似ている」

「いずれかの属性で、其ノ肆を行使できなければならない。とか?」

「当たりだ。まぁ、他にも条件はいくつかあるけどな」

「参考になります」

「おう。じゃあ俺は他を回るから、気になることがあれば、休み時間にでも聞いてくれ」

「わかりました」


といい、先生は他の生徒を見に行った。

『弥勒が敬語使うの、なんかムズムズするわね』

『なんだそりゃ』


余談だが弥勒はここ最近、妖術の其ノ肆を練習中である。妖怪である弥勒と、付喪神の雫に睡眠は必要ないので、ここ一ヵ月は件の河川敷で其ノ肆の練習をしている。無論、夜刀を駆使した戦闘特訓も並行して行っている。


それから約一時間後。

「皆お疲れ!そろそろ飯にしようぜ!」

「おつかれ」

「お疲れ様です」

「お疲れー!お腹減ったぁ」


今日は午前に引き続き午後も実践訓練なので、四人は桜の木の下で昼食をとることにした。

「弥勒はどこまで使えるようになったんだ?」

「〈風・火〉の弐まで」

「え……マジ?」

「ほ、本当ですか?」

「嘘じゃないよね?」

三人は驚愕し、一度手を止めた。


「一応本当だぞ。まぁ完璧に発動できた訳じゃないけどな。皆はどうだった?」

「俺は〈風〉が弐まで発動できるようになったけど、〈火〉は無理だった」

「私は両方、壱まで使えるようになった!」

「私は〈風〉が壱、〈火〉が弐まで使えるようになりましたね。自分で言うのも何ですが、私達三人ですらクラスでトップの方だと思いますよ?」

「へぇ」


ここで雅楽丸が謎の閃きをした。

「実は弥勒、有名な陰陽師家の隠し子なんじゃないか?」

「んなわけあるかアホ」


『雅楽丸って結構天然な所があるわよね』

『馬鹿なだけだろ』


午後へ続く。



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