拾陸-七天将と日本三霊剣

 弥勒と雫の学生生活が開始してから、早くも一週間が経過した。

そんな二人は今日も登校し、壱-伍の教室へ入る。


すると、机に座る前に雅楽丸と二名の女子が挨拶をしてきた。

「おはよう弥勒!」

「おはようございます、神楽坂君」

「弥勒おっはー!」

「おはよう皆」


気さくに声をかけてきた二人は、弥勒と雅楽丸の前席に座っている女子達である。


まず弥勒の前に着席しているのは西園寺紫苑。彼女は代々、式神使いを輩出している西園寺家の長女だ。西園寺は、強力な式神を使役していることで有名な名家である。

彼女の固有術は《-式神・大蛇-》だ。文字通り、大蛇の式神を操る。


次は雅楽丸の前席に座っている鳴海沙羅。彼女の実家は西園寺家の分家で、二人は昔から仲良しらしい。所謂幼馴染である。

彼女の固有術は、《-茨-》。棘が沢山付いている茨を鞭のように操り、敵と戦う。


弥勒の友人は今のところ、この三名だけである。だが滑り出しが最悪だったので、三人いるだけマシなのかもしれない。


「沙羅は相変わらず元気だな」

「でしょー?私の取り柄なんだ~」

「うふふ。昔から沙羅は元気なんです」


弥勒が二人と楽しそうにおしゃべりしていると、雅楽丸も負けじと参加してきた。

「静かな紫苑と、賑やかな沙羅……。なんだかバランスが良いな!」

「それを言うなら、神楽坂君と久宝君も似たようなコンビだと思いますよ」

「確かに!落ち着いてる弥勒と、うるさい雅楽丸って感じ!」

「俺をうるさい奴扱いするなよ……」


朝から四人でワイワイしていると、教室に先生が入ってきた。

そしてホームルーム後、今日の授業が始まった。


「今日は主に付喪神の事を学んでもらうからな。全員教科書の三十八ページを開けー」

生徒達が教科書を開き、再び前を向く。

「陰陽師になるためには、付喪神と契約する必要がある事くらい皆知っていると思う。そして御影高校には、一年生全員が今月以内に契約しなければいけないという決まりがあるからな。まぁ頑張ってくれ」


『だってよ、雫』

『今月中は放課後も騒がしくなりそうね』

『だな』


『そういえば、先生って雫に気付いてんのかな』

『それは無いわね。微かな神力くらいは感じている可能性もあるけど、私が教室のどこにいて、誰と契約しているのかまでは分からないわ』

『よかった。ちなみに、俺も雫以外の神力をビシビシ感じる』

『ええ。入学式の日に説明したけど、入学前に契約している家も割と多いからね』

『雫が、暗黙の了解って言ってたやつか』

『そうよ』


弥勒は教室を見渡した。

(現在この中の何人かは、俺達みたいに念話で話してるんだろうな)


先生の授業は続く。

「付喪神も、陰陽師や妖怪のようにそれぞれ実力に差がある。我々と違って階級分けとかはされていないがな。皆も強力な付喪神と契約できるように、試行錯誤するんだぞ」


ここでチョークを手に取り、黒板にスラスラ書きながら説明をする。

「有名な付喪神は沢山いるが、その中でも特に名の知れた七柱の神が存在する。そしてその七柱と契約した陰陽師は、総じてこう呼ばれる。【七天将】……と」


七天将。それは、日本を代表する七名の陰陽師である。

七柱の付喪神。青龍、朱雀、白虎、玄武、勾陳、六合、騰蛇。

この中のいずれかと契約した陰陽師がその称号を冠する。

また天将に数えられた時点で、その者の階級は一級となる。


『私、アイツ等嫌い』

『そうか。じゃあ遭遇したらぶっ殺そう』

『本当にやりそうで怖いわ、貴方』


その後、付喪神についての授業が終了し、次の内容に移った。

「次は日本三霊剣について説明するぞー。これは約千年前の平安時代に造られたとされている、伝説の三振りだ。教科書を見てくれ」

皆、教科書を見る。


「一本目が天十握剣(アメノトツカノツルギ)、次が天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)、そして最後が布都御霊(フツノミタマ)。当時の文献によるとこの三本は、隕石から採取した特殊な金属を叩いて精錬した刀らしい。そのため、他とは一線を画する力を持つ。んで、ここからが重要なのだが……」

先生は一息置いて、再び語り始めた。


「天十握剣と天叢雲剣の二本は今、総本山京都の安倍家が所有している。だが最後の一本、布都御霊は現在行方不明だ。どこかの陰陽師が知らずに使っていればいいのだがな」


教室内がザワつく。

「もし妖怪に奪われてたら、ちょっとヤバくないか?」

「でもよ、こっちは二本持ってんだぜ?」

「きっと晴明様が奪い返してくれるわ!」

「そうそう。卑劣な妖怪なんてやっつけてくれるわよ」


生徒達が焦る中、弥勒は教科書に載っている画像をジッと凝視していた。

『ねぇ弥勒。どうしたの?』

『この布都御霊って短刀、俺持ってる気がする。師匠に餞別で貰ったんだ』

『何言っているのよ貴方。そんなわけないでしょ。だってこの短刀は、全国の陰陽師達が血眼になって何百年も探しているモノなのよ?』

『たぶん、アパートにある箪笥の引き出しに入ってるぞ。普通に』

『ま、まっさかぁ。そんなわけ……』

『まぁ帰ったら確認してみよう』

『……わかった』


弥勒は件の三人と仲良く昼食をとった後、いつも通り午後の授業を受け、帰宅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る