拾肆-報復は徹底的に
「あのカス共が自転車通学で良かった」
「ええ。あの子達は入学式の時からずっと一緒にいるから、所謂幼馴染的ポジションなのかもしれないわね」
「やたら意気投合してたし、その説濃厚だな」
クラスメイト二人の尾行を開始してから、約三十分が経過した。
弥勒はそもそも“人間では無い”ので、基礎的な身体能力が高い。そのため、自転車のスピードに合わせて走り続けても特に息は切らさないし、汗もかかない。
「あそこで仕掛けよう」
と、ここで雫が気まずそうに口を開いた。
「……ねぇ。本当にやるの?」
「ああ」
「でも相手はまだ十六歳の子供よ?」
「それがどうした?」
「これから更生するかもしれないじゃないの」
雫のその言葉を聞き、弥勒は大きく溜息を吐いた。
「はぁ。じゃあ仮に三年後に更生するとして、その間俺は奴等の嫌がらせを毎日耐え続けなきゃいけないのか?」
「それは……」
「嫌なら先に帰っていいぞ。今の俺ならあいつ等如き余裕でシバけるからな」
「つ、付き合うわよ!あまり私を舐めないで頂戴!」
「そうか」
(悪いな雫。孤児院事件の時、甘さは全て捨てたんだ。邪魔者はただ排除するのみ)
なんて話している間に、件の場所に到着した。この道は左側が高いコンクリートの壁に、右側が林に囲まれている。人気も無いので、まさに奇襲に持ってこいの場所である。
また標的の二人は狙われている事に一ミリも気付いておらず、現在も楽しく雑談を続けている。
「神楽坂の前の席に座ってた女子見たか?めっちゃ可愛かったんだよなぁ。今度声かけて見ようぜ」
「雑魚野郎に嫌がらせするついでにアリだな!」
「だろー?神楽坂君、どんな表情するかな」
「ぷっ。想像しただけで笑えるわ~」
その時、片桐の自転車に何かが当たり、転倒した。
「うぉっ。あぶねぇ!」ガシャン
その勢いで、盛大に地面を転がる。
それを見た瓜生は、自転車を降り急いで片桐に近寄った。
「大丈夫か?片桐」
「いてて……。一応大丈夫だ。擦り傷はあるけど、血も出てないし骨も折れてないと思う」
「そうか。それにしても相変わらずドンくさいな、お前」
「いや、自転車に何かぶつかって……」
すると片桐が驚いた表情で、瓜生の右足を指差した。
「お、お前の右足!」
「え?」
瓜生は自身の右足を凝視した。すると、太ももの中心に穴が開いていた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
襲撃の約十秒前。
今弥勒と雫は、自転車のスピードに合わせ、林の中を並走している。
「始めるぞ」
「ええ」
まず弥勒は丁度良い大きさの石ころを拾い、それを投げた。
その石ころは片桐の自転車に命中し、見事に転倒。
「よし」
「派手に転んだわね」
瓜生が自転車を降りたのを確認し、すぐさま次の行動に移る。
弥勒はもう一度石ころを拾い、腕を大きく振りかぶる。
石が指から離れた瞬間。
(ここだ)
予め圧縮しておいた霊力を一気に発散させた。
その爆発的なエネルギーは、石を弾丸に変える。
弾丸は空中を真っすぐ進み続け、瓜生の右足に穴を開けた。
「ちっ。さすがに貫通はしないか」
「今より強く発散させちゃうと、石が抵抗に耐え切れずに砕けちゃうもんね」
「ああ。今度はパチンコ玉とか持ってこよう」
と会話しながら弥勒は霊力を全身に纏い、前傾姿勢になる。
足にグッと力を籠め、地を蹴る。
足が地面から離れる刹那、足裏に先ほどの術を使用し、超加速。
そのまま目にも止まらぬスピードで、片桐に接近する。
勢いを利用し、片桐の左腕に強烈な蹴りを放った。
「ぐぁぁぁ!!!」
次にコンクリートの壁に着地し、再び足裏に術を発動。
最後、瓜生に接近し。
《蒼穹拳(ブルー・インパクト)》
強烈な腹パンをお見舞いした。
瓜生はその衝撃で吹き飛び、ガードレールに激突した。
彼は吐血しながら地面に倒れ込む。
それを確認した片桐も、痛みとショックで気絶し、この一方的な襲撃は幕を閉じた。
クラスメイト二人は、何が起こっているのか全く分かっていなかった。
片桐の自転車が転倒後、瓜生の右足に穴が開いた。
今度は片桐の左腕が何かの衝撃を受け、骨が粉砕した。
最後は瓜生が吹き飛ばされ、気絶。
片桐の左腕の骨が粉砕されてから、瓜生が吹き飛ばされるまで一秒もかかっていない。
襲撃を受けている最中、二人の目には何も映らなかった。
「よし、帰るか」
「ええ。帰りましょう」
弥勒と雫は、暗い林の中に消えた。
襲撃後、二人はすぐにアパートへ帰宅した。
弥勒はシャワーを浴び、ソファーに座る。
雫はいつも通り弥勒のベッドに寝そべり、本を読んでいる。
「……」
「……」
そして二人の間には、何故か重い空気が漂っている。
「なぁ雫」
「なによ」
「そんなに嫌だったか?片桐と瓜生に仕返しするの」
(でも、襲撃中は割と普通だったと思うんだが……。なんで今更怒っているんだろう)
「それに関してはもう何も思って無いわよ。貴方の言い分も一理あるしね」
「ってことは、何か他に気に食わない事でもあるのか?」
「……」
数秒後、やっと雫が話を切り出した。
「貴方、私に何か隠し事をしているでしょう?」
「ああ」
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「まぁ、そうだな」
弥勒は何の躊躇も無く、
「実は俺、妖怪なんだ。今まで隠していて悪かったな」
「話して欲しいのは、そっちじゃないわよ。貴方が妖怪だって事は初日から知ってたし」
「マジかよ」
「ええ。だって弥勒、夜寝てないじゃないの」
「ずっと寝たふりしてたの、バレてたか……」
「バレバレよ。付喪神を舐めちゃ駄目」
弥勒は夜、目を瞑りながらずっと術の事を考えていたのだ。本人は寝たふりをしているつもりだったが、そんなことは契約者である雫にはバレバレである。
雫もテーブルに座り、二人は向き合う形になった。
「妖怪なのに陰陽師育成学校に入るなんて、何か目的があるんでしょ?そのリスクを許容してまで達成したい何かが」
「ああ。実は……」
弥勒は数十分掛けて、焔や孤児院事件、さらには師匠の事まで打ち明けた。
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