拾参-挑発

 御影陰陽師育成高等学校、壱-伍の教室にて。

現在一人ずつ自己紹介をしている最中である。

先ほど雅楽丸の自己紹介が終わり、弥勒の順番が着々と近づいている。


そして遂に、弥勒の番が回ってきた。

「俺は神楽坂弥勒だ。孤児院出身で、固有術は《-圧縮-》だ。三年間よろしく」


瞬間、先生と雅楽丸以外の全員が目を丸くし、教室全体が静まり返った。

「ぷっ。孤児院出身って……。しかも固有術もカスだし」

「孤児院出身者ごときがよく入学しようと思ったわね」

「圧縮ってなんだ?空気でも圧縮するのかー?」

「いや、圧縮したところでどうにもならないだろ」

「雅楽丸君はなんであんなのと仲良くしているのかしら」

「早くもクラスのカースト最下位が決定したな」

などと言いたい放題である。


『なんかめっちゃ笑われてるんだが』

『雅楽丸が変わってるだけで、本来陰陽師っていうのは皆プライドが高いのよね。こんな感じで』

『そりゃ俺みたいな何も持ってない有象無象が許せないわけだな』

『三年間苦労しそうね』

『だな』


弥勒が着席後、雅楽丸が小さな声で。

「おい弥勒。孤児院出身って聞いてねぇぞ?」

「悪い。忘れてた」

「それは良いんだけどよ。弥勒が馬鹿にされてるの嫌だな。俺の相棒なのに」

「いいだろ別に」

「悔しくないのか?」

「ぶっちゃけ興味ない」


雅楽丸はそれを聞いて溜息を吐いた。

「この話の続きは後で聞かせてくれよ?」

「ああ」


『相変わらずいい奴ね。雅楽丸は』

『だな。いい友人を持った』


入学早々、幸先の悪い弥勒であった。



自己紹介が終了し、先生が一年間の予定を話し始めた。

これは弥勒にとってかなり重要なので集中して聞いた。


『ほう。長期休暇は一般の高校と同じなのか』

『陰陽師だって人間だもの。きちんと休みを取らないと身体壊しちゃうわ』

『たしかに』


弥勒は腕を組みながら思考を巡らせる。

(本当は長期休暇を利用して、焔に会いに行こうと思っていたのだが……。いかんせん情報が全くない。どうしたものか)


師匠曰く、九尾族が治めているのは四国・九州だ。だが本拠地が不明なので、どこへ行けばいいのかが全く分からないのである。

当てずっぽうで足を運んだ場合、何十年、いや何百年もかかってしまうだろう。


(孤児院事件の情報収集には年単位で時間が掛かるとして、焔の情報収集にはどのくらい掛かるのだろうか)


ここで弥勒は重要な事を思い出した。

(そういえば、まだ雫に俺の正体を伝えてなかったな。それに焔や孤児院事件の事も)

隣でプカプカ浮かぶ雫を一瞥する。


『な、なによ……』

『いや、何でも』


数分後、先生の説明が終了した。

「じゃあ最後に書類を配るから、それを受け取ったら各々解散な」


前から手渡しで次々と書類が流れてくる。

その度に弥勒は前席の女子生徒と顔を合わせるわけだが、彼女は一切目を合わせなかった。何故かは不明。

『シャイだな』

『いやいや、気まずいだけでしょ』

『まぁ悪い奴じゃ無さそうだから、良しとしよう』

『ええ。害は無さそうね』


すると雅楽丸が怒り心頭な様子で、弥勒に詰め寄った。

「おい弥勒、さっきも言ったけど、なんで秘密にしてたんだよ!孤児院とか固有術の事!」

「だって聞かれてないし」

「えぇ」

「俺もこうなるとは思ってなかったんだ。すまん」

「はぁ……。次からは相談してくれよ?」

「ああ」


と、その時。教室の反対側から二人の男子生徒が歩いてきた。

『アイツらは確か、片桐と瓜生だっけか』

『片桐家と瓜生家は、ここら辺ではそこそこ有名よ』

『へぇ』


まずは片桐が意気揚々と口を開いた。

「おい、神楽坂ー。お前孤児院出身なんだってなぁ!」

「固有術も雑魚だし、陰陽師になってもすぐ死ぬんじゃないか?」

「ぷっ。やめてやれよー」

「だって気に食わねぇんだもん。コイツみたいな無能野郎と同じクラスなの」

「あちゃー。ついに言っちゃった~」

「わりぃな無能君。本音出ちゃったわ~」


やたらガラの悪い二人は、ニヤニヤしながら弥勒に絡む。

よく見れば、他複数のクラスメイト達も厭らしい笑み浮かべながら、弥勒等を眺めている。


それを見た雅楽丸が黙っている筈も無く。

「お前ら言いすぎだぞ!弥勒にあやまr……」

弥勒は雅楽丸を片手で制す。

「大丈夫だ、雅楽丸」

「大丈夫って……。お前が我慢できても俺が我慢できねえよ!」

「いいんだ。もう帰ろう」

「いや、だって」

「帰るぞ」

「お、おう」

弥勒は絡んでくる二人を無視し、身支度を整える。


「あれー?逃げるんでちゅかー?」

「神楽坂君、カッコわりぃ~」

二人の煽りを無視し、そのまま教室を出た。


「本当に良かったのかよ、弥勒」

「ああ」

「明日から学校来づらいんじゃないか?」

「それに関しては気にしなくていい」

「そうか……」

(弥勒は変わってるなぁ)


その後、校門付近にて。

「てか、今日俺ん家来いよ!歓迎するぜ?」

「悪いな。今日はこの後用事があるんだ」

「マジかぁ。それは残念だ」

「また今度遊びに行くわ」

「おけ。じゃあまた明日!」

「おう」


そこで二人は分かれ、各々別の方向へ歩み始めた。


『よし雫。あの二人をシメるぞ』

『だと思ったわ。貴方って結構根に持つタイプだし』

『だからずっと黙ってたのか』

『ええ。さすがに今日だとは思って無かったけどね』

『明日教室で会ったら、思わずぶん殴ってしまうからな』

『なるほど、納得』


弥勒と雫は、先ほどの二人を校門付近で待ち伏せすることにした。


『来たわね』

『ああ』

『まさかここで仕掛けるつもりじゃないでしょうね?』

『当たり前だろ。こういうのは誰にも見られない場所で、徹底的に痛めつけるのに限る』

『貴方って想像以上に陰湿なのね』

『最低でも腕の一本は貰う』

『もうやりたい放題じゃないの……』


弥勒は雫に呆れられつつも、標的二人の尾行を開始した。







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