拾弐-御影陰陽師高校
二〇二五年、四月十日。関東のとある地方にて。
今日は御影陰陽師育成高等学校の入学式の日。
春の心地良い風が弥勒の黒髪を撫でる。その髪に日差しが反射し、キラキラと輝く。
現在、雫は透明になり弥勒の横にプカプカ浮かんでいる。
二人は念話で話しながら、桜吹雪の舞う道を突き進む。
『なんかそれっぽいわね、貴方』
『褒めるなよ。照れる』
『褒めてないわよ!この馬鹿弥勒!』
この高校には妖怪を弾く結界が張ってある。一応警戒はしていたものの、弥勒は先ほど難なく突破することができた。
(やはり妖怪王の
御影高校に制服なんてものは存在しない。生徒は常在戦場の心構えを叩き込まれるため、それに伴い、服装は各々専用の戦闘服と決まっている。
そのため今日、弥勒はネットで適当に購入した“それっぽい和服”を着用し、入学式に臨む予定である。ちなみに選んだのは雫だ。
『周りの奴らも同じような服装だな』
『和服って武器隠し易いじゃない?だから陰陽師界隈で割とポピュラーなのよ』
『なるほど。でも若干動きにくくないか?』
『普通の陰陽師は中、遠距離から術を放って戦うからね。貴方みたいな近距離型は違う戦闘服を着るものなのよ』
『でもこれ選んだの雫だよな?』
『だって似合うと思ったから……』
『なら仕方無い』
校門から入学式の会場まで結構距離があるので、二人は他の入学生と共にのんびりと向かっている。
弥勒は徐に周りを見渡した。
『あ、あそこに巫女の格好した奴がいる』
『式神使いね。あの袖中に式札を隠しているの』
『へぇ。結構いるのか?式神使いって』
『昔は沢山いたけど、今では貴重な存在よ』
『へぇ~』
そんなこんなで会場に到着し、席に着いた。
『今更だが、なんで透明化してるんだ?』
『入学前に付喪神と契約するのはルール違反だからよ』
『でもチラホラ神力を感じるぞ』
『代々陰陽師の家系の中には、早めに契約させる家も多いの』
『暗黙の了解ってわけか)
『そういうことよ』
と、その時。
「隣いいか?」
「ん?ああ、いいぞ」
弥勒の右席に茶髪の男子生徒が座った。
『見るからに明るくて、陽キャって感じね。弥勒とは大違い』
『やかましいわ』
すると男子生徒は弥勒の方に顔を向け、ニカっと笑いながら。
「俺は久宝雅楽丸(くぼううたまる)だ。よろしくな!」
「よろしく。俺は神楽坂弥勒だ」
「へぇ、いい名前だな!どこの分家なんだ?」
「ごくごく一般的な家庭だ」
「え、陰陽師の家系じゃないのか?すげぇ!」
「そうだな」
(何が凄いのかよくわからんが、たぶん良い奴だなコイツ)
「そういう雅楽丸はどこの分家なんだ?」
「一応本家だぜ!」
「そうだったのか。悪いな」
「いや、気にしてないから大丈夫だ」
『雫知ってるか?』
『久宝家は代々精神系の術を操る名門よ』
『もしかして有名なのか?』
『貴方以外の新入生なら全員知っているくらい有名ね』
『マジか』
念話で話している二人にお構い無しで、雅楽丸は続ける。
「そういえば弥勒はどこのクラスなんだ?」
「え、知らんけど」
「数日前に高校からいくつか書類が届いたろ?」
「届いた」
「それに書いてあったはずだぞ」
『雫、ヘルプ』
『確か壱-伍って書いてあったはずよ』
『ナイス』
「あ~。確か壱-伍って書いてあった気がする」
「マジか!俺も壱-伍だ!これから三年間よろしくな相棒!」
「お、おう」
弥勒と雅楽丸は、ガシッと握手を交わした。
『三年間同じクラスなのか?』
『ええ。陰陽師高校は全部そうよ』
『しかも相棒登録された』
『いいじゃない。彼いい子だし』
『まぁいっか』
丁度そこで壇上の幕が上がり、入学式が始まった。
「……陰陽師たるもの、昼夜を問わず常に戦場と心得ろ。また妖怪の……」
弥勒は呟く。
「なげぇ」
「でもあの校長、一応凄い陰陽師だから我慢しようぜ弥勒」
「有名なのか。あのジジイ」
「ジジイって……。確か東雲家の血縁者だぞ」
「へぇ」
(じゃあ最悪、あの爺さんボコボコにすれば情報貰えそうだな)
それから約一時間後、無事入学式は終了し、弥勒と雫は雅楽丸と共に壱-伍の教室へ向かった。
教室へ入ると、すでに教師が待機しており。
「各々好きな席に座れー」
「弥勒、真ん中の席陣取ろうぜ!」
「嫌だわ。端っこの席にするぞ阿呆丸」
「阿保丸……」
弥勒は一番後ろの窓際席に座り、その右隣に雅楽丸が座った。
そして二人の前の席には、それぞれ女子生徒が座った。
『女子で良かった』
『貴方、もしかして変態?』
『周りが全員男だったらむさ苦しくてかなわん。三年間同じクラスなのであれば、尚更な』
『ふーん』
雫はなぜかジト目で弥勒を見た。何かが気に食わないとばかりに。
全員席に着いたところで、ついに教師が口を開いた。
「よーし、全員席に着いたな。そろそろ始めるぞー。俺の名前は八重樫刃(やえがしじん)だ。三年間このクラスの担任をさせてもらう。よろしく頼む」
『八重樫って聞いたことあるか?』
『いや、無いわね。でも陰陽師学校の教師は基本的に推薦型だから、恐らくどこかの分家出身よ』
『ほう』
「今此処にいる二十人は、三年間支え合う仲間だからな。全員仲良くやってくれ。じゃあまずは自己紹介から始めていこう。ちなみに今日は自己紹介の後、今年一年間の予定を確認して解散だ」
その言葉が終わると共に、前の一番右の席から順に自己紹介が始まった。
一人ずつ着実に自己紹介をしていく。
『やはり全員、代々陰陽師の家系なんだな』
『普通はそうなのよ』
「俺は久宝雅楽丸。固有術は《-金縛り-》だ。皆よろしくな!」
すると、クラス全体がザワザワしだした。
「久宝って名家だよな?しかも金縛りだってよ。絶対強いぜ」
「私、後で仲良くしてもらおっと」
「ふむ……。どのくらい相手を拘束できるのかはわからんが、初見殺しだな」
「さすがは精神系固有術の名門ね!」
『雅楽丸人気者だな』
『名家出身だもの』
弥勒の出番は、もうすぐである。
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