第8話 寂しい

 それから1週間、昼は山を散策し、夜はダンジョンで勉強というのを繰り返した。

 『モウドクの木の実』を変換したMPで、ナイフと布袋を【生産】した。

 これによって持ち帰れる木の実や草の数が増えて、その中にはMPの変換効率のいいものもあった。

 代表的なものは『薬草』と『毒草』だろう。

 これと変換効率がほとんど0の『タダの草』というのがあって、3種類の草は姿形が程一緒、色だけが少し違うという、特徴を持っている。

 『薬草』という名前がマズいので、これを【タブレット】の検索機能で調べたところ、案の定『ポーション』の原料と出てきた。

 ウチのダンジョンの天敵となりえるアイテムの名前だ。


「折ったはずの膝を回復されるとかたまったものではないな……」


 この『ポーション』を更に【タブレット】で調べた結果、【錬金術】なるスキルで作ることができるらしい。

 レシピも出てきたが、俺はダンジョンにいると自動で怪我も治ってしまうので、これは必要ない。

 よくよく探したら【生産】のプリセットにも『ポーション』があったので、【ダンジョン】なら『薬草』なしでもMPを大量消費すれば作り出せる。


「【錬金術】のスキルすら必要ないというわけだ」


 なんだったらダンジョンに『薬草』をこともできそうだった。

 で、この『薬草』と『毒草』と『タダの草』、実は元は同じ草なのだ。

 これが生えている場所の魔力の性質によって名前が変わる、というか効果が変わって来る。

 淀んだ魔力だと『毒草』に、ダンジョンが浄化した後の綺麗な魔力だと『薬草』に、魔力がない場所なら『タダの草』だ。

 ウチのダンジョンは出来たばかりで、まだ一度も綺麗な魔力を放出もしていない。

 したがってこの山にあるのは『毒草』ばかりということになる。

 同じように『モウドクの木』に似た『タダの木』というのも見つけた。

 【タブレット】によれば、生っている実は『タダの木の実』という名前で食べることができると書いてあった。

 実はついていなかったので、野生の動物が食べたか、時期ではないのか……。

 どちらにせよ『タダの木の実』は魔力が含まれていないのでMPには変換できないだろう。

 今の俺に必要なのはMPに変換できる『モウドクの木の実』の方だ。


「そろそろもう一回散策に行くか……」


『12:05』


 今は外とダンジョンを繋ぐ階段に腰掛けている。

 日の出とともにダンジョンを出て、山頂付近まで行って、ダンジョンに帰って来た。

 片道2時間くらいかかったので、この山は結構デカい。

 上の方は大体回って地理を覚えて、『モウドクの木』が生えている場所も複数見つけた。

 ダンジョンと繋がっている状態で30分近く休憩していたので、もう十分だろう。

 次は山の裏側か、下の方を見に行くか……。


「………」


 立ち上がれない。


「………、もう少ししてから行くか」


『12:15』


 そのままボーっとしていた。


「行かないとな……」


『12:20』


 立ち上がれない。

 ダンジョンの中にいるので、体の方は万全だ。

 午前中に散策に行った疲れも取れているはずだ。

 ……なのに立ち上がれない。

 


「今日はもうやめておくか……」


 昔、上司が言っていた。


『あと1日しかないって、24時間あるってことでしょ?普通は8時間しか働けないんだから、まだ3日分働けるってことだよ?』


 今の俺は毎日24時間働いている状態だ。

 こっちにきて10日、実際はその3倍の30日分働いていることになる。

 眠る必要もないからそうしていた……。

 そうしていた方が気がまぎれるからだ。

 忙しくしていれば、あっちの世界のことを思い出すこともない。

 しかし、限界が来たようだ。


(一人なのがつらい)


 ダンジョンコアのある秘密の部屋に続く階段を下りる……。


(誰かと話したい)


 自分はこんなに弱い人間だったのかと思う。

 たった10日で人恋しくなるなんて……。

 こっちに来てから、ずっと独り言のようにしゃべり続けてきたが、返事がないことがこんなにつらいことだと初めて知った。

 仕事をしている時は、どんなに忙しくても最低限の挨拶ぐらいはしていた。


(上司や同僚を無視するなんてとんでもないことだからな……)


 その挨拶すらできない……。

 こうなってくると家族のことを思い出す。

 両親は今どうしているだろうか?

 会社は?

 プレゼンの結果は?

 金森は?

 俺が死んだことで迷惑を掛けていないか?


(話したい……、誰かと話したい)


 孤独……。

 【タブレット】を操作して、壁に穴を開ける。

 中からダンジョンコアの淡い光が漏れる……。

 中に入り、再び入ってきた壁を埋める。


「モンスター……、人型のヤツなら……」


 ハッと思いつく。

 このダンジョンのはモンスターなんていらないと思っていたが、どうやらダンジョンには必要なくても俺には必要だったらしい。


「DP……、ダメだ使っちまってる」


 0時で日付が変わった時点で『階段』を作ってしまった。

 残りのDPは3だ。

 残ったMPと地上で採取してきた植物を全部変換しても5に届くかどうか……。


「強くなくていい。話を聞いてくれるだけで……」


 【タブレット】を操作してプリセットされたモンスターの中から人型の物を探していく。


『ゾンビ』100DP~

『ホムンクルス』300DP~

『サキュバス』500DP~

『ヴァンパイア』1000DP~


 ダメだ。

 高すぎる。

 明日になっても作れるのはゾンビ……。

 現在の一日で得られるDPは約100。

 MPをDPに全部変換しても150には届かない。

 ホムンクルスを作るには3日はかかるし、3日分のDPを消費することになる……。

 安いやつでいいんだ……。


「人の形をしていれば……あっ」


『シェイプシフター』5DP~


 こいつ、人間に化けるモンスターだ。

 このシェイプシフターなら……。

 たったの5DPっていうのもいい。


「MPも全部DPに【変換】だ」


 作れるヤツがいるとわかり、急に元気が出てきた。


「えっと、【生産】、【モンスター】、『シェイプシフター』」


 ダンジョンコアが照らす狭い部屋。

 目の前に現れたのはだった……。


「なんで……?」


「アー、ウー」


 後で分かったことだが、シェイプシフターは目の前にいる者に変身するモンスターだった。

 ここには俺しかいない。

 つまり俺にしか変身できない。

 しかも最低ポイントで作り出したせいか、ステータスが低くて言葉もしゃべれないようだ。


「3日間、ポイント貯めるか……」


「アー、ウー」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョンマスターになったのでひたすら階段つくります 木村雷 @raikimura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ