第6話 ショートカット

「グエェー」


 情けない声を上げつつも、何とか最奥までたどり着いた。

 その場に倒れ込む。


「足痛い」


 膝だけじゃなくて、靴ズレもした。

 白い靴下が真っ赤だ。

 革靴なのが問題だな。


「【タブレット】、からのステータス」


名前:緑川 銀

ジョブ:【ダンジョンマスター】


Lv:1

HP:98/100

MP:100/100


腕力:10

耐久:10

敏捷:10

魔力:10


スキル:【超回復】【タブレット】【ダンジョン】


スキルポイント:1


状態:正常

魔力:オフライン



 タブレットを、タブレットからステータスを確認する。


「HP減ってる!しかも2も!これ50回繰り返したら死んじゃうじゃん!」


 5時間を50回、250時間、10日間か……。

 そんなに歩き続けたら普通に死ぬので、普通のことだった。

 ビックリして損したな。


『06:58』


 午前1時11分にスタートしたので5時間47分。

 それがサラリーマンがこのダンジョンの踏破するにかかる時間だ。

 4時間くらいでここまで来れると思っていたが、甘かった。

 休憩時間も結構ある。

 そして戻らなければならないという事実。


「無理だな。とりあえず足を治そう。魔力を『オンライン』っと」


 ダンジョンとの繋がりを戻して、膝と足を回復する。

 今日はもう無理だ。

 疲れた。

 体はすぐに回復するだろうけど、心が疲れた。

 このダンジョンはヒドイ。

 鬼、悪魔、階段!

 

「【収納】、台座っと」


 横になりたいが、ダンジョンコアを床に置いておくわけにはいかないだろう。

 【収納】を使い、ネットと台座を交換する。

 台座の上にダンジョンコアを乗せてチェスのポーンを完成させたら、俺はその隣で横になる。


「眠くなくなったな……」


 さっきまでは眠かったが、たぶんダンジョンとの繋がりを戻したせいで体が最適化されているせいだと思う。

 腹も減っていた気がするが、今はもう何も食べたくない。


「これ、良くないんじゃないか?」


 思考もスッキリしてきたところで、そんなことを考える。

 たまに寝たり食べたりしたい。

 定期的に繋がりを切った方がいいかもしれない。

 だがそれには食料と、寝る場所の安全が確保されなければならない。


「当面は無理か……」


 膝も足も治って調子は良くなったが、やる気は起きていない。

 こういう時はゴロゴロしながらタブレットだ。

 

「見に着いた習慣が異世界でも変わらないとは……」


 靴が欲しいな。

 【生産】になるか?

 町に買いに出かける……?

 金がないな。

 あれ?【生産】でお金作れるんじゃね?

 犯罪?

 こちとらダンジョンマスターよ、生まれながらのお尋ね者ですぜ?


「落ち着け、最終手段だ、それは」


 思い切って裸足でもいいかもしれない。

 ダンジョンの床に落ちている小石なんかは吸収できるらしいし、床は綺麗なもんだ。

 何も履いてないのが一番軽いっていうのもあるしな。

 服も脱ぐか……。

 ダメだ、天使たちに見られている可能性があるんだった。


「最終手段だな……。いや、なんの?」


 とりあえず靴と靴下を脱いで【収納】にしまう。

 ついでに上着とポケットに突っ込んであったネクタイもだ。

 リラックスモードだ。

 リラックスしてる時ほどいいアイディアが浮かぶものだ。


「それにしても毎回ダンジョンコアを奥に運ぶのが大変すぎるな。今は一日に作れる階段の数が少ないから少しずつ進んで行けばいいけど、領域が広がって一日に作れる階段の数が、俺が進める距離を越えたら……」


 地面から魔力を吸収するのが目的だから、領域を広げるのだけはやめられないし……。

 困ったな。


「ショートカットでもできればな……あっ、ショートカットすればいいのか!」


 天啓!

 壁に穴を開ければ行けるか?

 穴をあけたり、埋め戻したり、DPは無駄になるかもしれないけど、ショートカット機能はかなり便利だ。


「裏道を作って、そこに自分用の秘密の部屋なんかいいかもな」

 

 具体的な場所は最初の階段の先か?次の階段に向かう通路の反対側に部屋作って、外に出たいときは壁に穴を開けて、すぐ戻す、と。

 今作ってる階段みたいに、行ったら戻って来る仕様で作れば、戻って来た時にダンジョンコアを真下に降ろす抜け道を作ればいいのだ。

 ちょうど明日の分の魔力が振り込まれると、最初の部屋の下まで階段が伸びるはずだ。


「よし、外に出るのは明日にしよう。明日から頑張ればいい」


『07:00』


 ……今日一日やることが無くなった。

 自称天使の手記を読み進めようか。





 見逃せない情報があった。

 俺に味方がいたのだ。

 その名はエルフ!

 エルフは世界樹のダンジョンを守っている種族らしい。

 ダンジョンを守っているなら俺の味方に違いない。

 世界樹!エルフ!

 ゴロゴロしながらタブレットをいじっているので忘れていたが、この世界は異世界なのだ。

 エルフ以外にもドワーフとか獣人とかいてもおかしくない。


(人間は敵みたいだけど、他の種族はどうだろうか?)


 世界樹のダンジョンは現在、異世界で最も大きいダンジョンだ。

 地下どころか天井すら作らず、ひたすらに地面を領域にして、広げていくタイプのダンジョンなのだとか。

 魔力浄化という意味では最も効率的だろう。

 ダンジョンの防衛に関しては何故か現地人であるエルフがしてくれるのだ。

 このエルフという種族は別にダンジョンが生み出した種族とかではないらしい。

 このタブレットにはそれくらいの情報しか書かれていない。

 世界樹という木がダンジョンそのものなのか、それともダンジョンマスターなのか、あるいはただそこに生えているだけなのか、そういったことは書かれていない。

 ただエルフはこの世界樹を守ることを使命にしているのだ。

 エルフの国は人間の国と戦争状態らしい。

 おそらくだが、この戦争にエルフの国は敗北するだろう。

 そして世界最大のダンジョンは破壊される。

 つまり、世界最大の魔力浄化施設を失って、世界の滅びは一気に進むのだろう。

 200年以内にそれが起こるはずだ……。

 これを止められればあるいは……。


『ピピピッ』


 0時!

 タブレットの情報に夢中になっている間に一日が終わった。

 腹も減らなければ、疲れることも無いので、集中力が途切れることも無いのだろう。

 ゴロゴロしていただけに思われるかもしれないが、ちゃんとした情報収集であることを今日の日記に付けておこう。

 と、いうか朝7時までにダンジョンを踏破したのだから一日分の仕事はすでにしたのだ。



MP:61→429

DP:0→30


【ステータス】正常

【吸収MP・DP】503→534・33

【維持MP・DP】135→139・3

【地図】1F・B1・B2

【収納】14/100

【拡張】【階層】【階段】【通路】

【生産】

【変換】MP10→DP1



 魔力とDPが振り込まれた。

 MPと土を変換すれば7本の階段が出来そうかな?

 地下一階の階段が13本、地下二階は折り返して5本作ってあるので、7本新たに作ればちょうど12本目の階段の次の通路が、最初の部屋から伸びる階段の通路と並行に出来るはずである。

 ここに俺の部屋を作ろるのだ。

 だが、部屋を作る分のDPが足りない……。


「あ、明日こそ外に出る。明日から本気出すぞ」



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