第4話 月への階段

MP:924→4

DP:2→94


 MPはDPに【変換】した結果だ。

 MP10につきDP1になるようだな。

 これでまた階段を作って領域を広げられる。


「DP88を使ってまた階段を8列と8個の通路を……あれ?4、5、6?6列しか作れないぞ?ここから先は作れないのか?」


 【地図】をみると、6列目の階段の先に斜めに線が入ってる……。


「7列目を作るにはポイントが足りない?なんでだ?えっと、壁を作るのにポイントを使う?7列目は外に出るってことか……。じゃあこの斜めの線は地面ってことだな。じゃあ?」


 階段が壁も含めて幅4メートル。

 それが13列で52メートルか。

 この部屋からそれくらい先に行ったところに斜面があって、そこから先に階段を作るには新しく壁を作るためのポイントが必要になって作れない。


「ここなの?」


 なんという凡ミス。

 てっきり平地の地面の下にいると思っていたが、斜面の線を見る限り、どうやら山の中腹辺りにこの部屋はあるらしい。


「とりあえず6列プラスして、そこから折り返す形でこっちに階段を戻すか……。いや、それだと上に通路が出来て終わるな……」


 今ある階段は8列。

 下りて上ってを繰り返して今は上に通路が出来て止まっている状態。


「5列作って下に降りている状態にして、そこからまた下に向けての階段を作るか………」


 13列なら階段の総延長は1300メートルになる。

 普通に歩いたら、もう嫌になっている頃だろう。

 そこで一旦終わったと見せかけて、また下に降りたら同じように階段が続くようにしてやろう。

 まだ時間としては歩いて2時間と言ったところか?

 だがこれ以上進めば日帰りが出来なくなる可能性が出てくるぞ?


「最初に心が折れるタイミングだ」


 これで初見さんにはお帰り頂けるだろう。

 階段を5列と間の通路を4つ、計54ポイントを消費して【拡張】。

 ゴゴゴっと音がして完成。

 

「下に続く階段の前に、直線で4メートルの通路だな」


 4メートル進んで折り返しの通路の分のスペースを確保する。

 【通路】作成、これもDP1で済んだ。

 これにて【B1】こと地下1階の階段造りは終了である。


DP:94→39


「さて、まずは【階段】を一つ。それから【階層】で【B2】を追加」


DP:39→19


 10ポイントずつ消費して残り19ポイント。

 これで地下2階が出来た。


「できるだけ領域を広げた方が地面から吸収できるMPは増えるんだから、DPは使い切った方がいいな」


 地下2階にもう一列階段を作っておく。

 通路もだ。

 DP12消費して通路、階段、通路で今日の分は終了でいいかな?

 ゴゴっと地下2階になった分、音は小さくなった気がする。


「ああ、収納から溢れた土でMPが回復してるじゃん」


MP4→28

DP:19→7

収納:10→100


 収納の土をまたMPに【変換】したらMPは30になりそうだ。

 それを更に【変換】したらDPの合計は10。

 もう一列作れるね。


「じゃあ【変換】して、今日ラストの【階段】っと」


 これにより地下2階の階段は3列となった。

 初日に出来ることは全部終わったはずだ。


「まったく、タブレット操作してると、まるでゲームだよ」



MP:0

DP:0


【ステータス】正常

【吸収MP・DP】200(503)・20(33)

【維持MP・DP】99(135)・1(3)

【地図】1F・B1・B2

【収納】11/100

【拡張】

【生産】



 タブレットから顔を上げると地上に続く階段からの光が暗くなっていることに気が付く。

 いつの間にか日が暮れてきたのだ。


「外か……。山だったとは。最初に確認すべきだったな」


 外への階段を上る。

 10メートルほどか……。

 まだ日はあるが山の中、つまり森だ。

 薄暗い森の地面に階段。

 怪しすぎる。

 ダンジョンだってまるわかりじゃないか……。

 だが相当近づかなければ気が付かないだろう。


「体に違和感は……ないな」


 階段から外に踏み出してみたが、どうやらダンジョンマスターは外に出られないとかいう制限はないようだ。

 

「あっ」


 タブレットの光が消えた。

 ダンジョンの中でしか使えないのか?

 階段を下りてダンジョンの中に戻ってみると、パッとタブレットに光が戻る。


「タブレットなのにバッテリーはなしか……そりゃあ軽いよな」


 妙に軽いタブレットだと思っていたが、充電式ではなく、電源式だったようだ。


「【タブレット】」


 タブレットを仕舞い、再び地上に上がる。

 日が沈みかけているので、探索をしたら迷子になる可能性があるな。


『モンスターには気を付けてね』


 自称天使はそんなことを言っていた。

 あの時は何を言っているのかわからなかったが、ダンジョンが魔力を綺麗にしないと野生のモンスターが生まれるんだったな……。

 うちのダンジョンは出来たばかりだから、この辺の魔力はヤバイ可能性がある。

 急に怖くなってくる。


「探索は明日だ。明るくなってからにしよう」


 斜面だけでも見て、この山の全体像を知りたかったが、わざわざ危険を冒す必要はない。

 フウ、と息は吐いて空を見上げるとそこには『青い月』が見えた……。


「まだ明るいのにハッキリ見えるな。異世界の月は青かった……。日記でも付けるか。タブレットに日記機能あるといいが……。いやに青いな。大気でもあるのか?」


 月だけに兎が住んでるとか?

 いや、異世界だから兎獣人か?


「兎獣人の奥さんとかどうだろうね……」


 何故かウサミミと丸尻尾の金森を想像してしまう……。

 さっきはポイントが足りなくて作れなかったが、地面から外に向かってもダンジョンを伸ばしていける。

 『塔型のダンジョン』も作れるし、なんなら空に向かって階段も作れるのだ。


「いつかあの『青い月』に行ってみるか……。初日の日記のネタとしては悪くないかもな」


 天まで届く塔を作って神の怒りを買うって話があったな。

 異世界を救うために領域広げないといけないのに、大事な魔力を使って真っ直ぐ上に塔を伸ばしたりしたら、それは怒られるだろう。

 やるのは異世界が安定してからかな。

 100年か、200年か……。

 それまで『兎獣人の奥さん計画』……いや『バベルの塔計画』は封印しておこう。


「【タブレット】」


 ダンジョンの中に戻ると元から暗いダンジョンがますます暗くなっていた。

 もはやタブレットの光だけが頼りだ。

 タブレットを見てみると時間表示がある。


『17:01』


 ちょうど午後5時を回ったところだが、異世界も1日が24時間なのだろうか?

 そうだとしたら、0時に魔力が振り込まれるまであと7時間はやることがない。

 日記やらタブレットの機能を調査して、あとは自称天使の書いたであろうメッセージを読み漁り、タブレットにあるデータから異世界のことを調べる……。


「……よく考えたらやることは山ほどあるな」





 日記の機能は見つけられなかったが、メモ帳はあったのでそこに今日の出来事を書いた。

 忘れないようにダンジョンの【拡張】機能をどう使ったかもメモした。

 それと今後のダンジョンのとアイデア。

 迷ったのは日記に俺の今の心情を書くかどうかだった……。


「ハァ……」


 顔を上げて階段を見るとタメ息がでる。

 俺は死んだのだ。

 俺は一人息子だったので両親のことが気がかりだ。

 時間の流れはどうなのか、あっちでは俺の前の体はまだ病院か?

 もう両親と対面しているだろう……。

 とんだ親不孝者だ。

 会社はどうなったのか……。

 プロジェクトは?

 目の前で俺が死んで金森は……。

 考えがグルグル回り、顔を上げては階段を見てタメ息をつく。


「ハァ……、これはまだ駄目だな」


 心情を書くのは諦めよう。

 まだ早い。

 心の整理はついていない。


「こういうときは仕事に限るぜ」


 ダンジョンの機能の確認をしたいところだがMPもDPも0で使い切っている。

 タブレットの機能の方としては検索機能で調べることは出来ても、一からの説明はない。

 だとすると最初にするのは自称天使のメッセージを読むことだろう。

 一応チュートリアルっぽく書いてくれている。

 最初にこれを全部読んでからダンジョンを【拡張】していくべきなんだろうが、なんせ項が千以上もある。

 日が暮れる、ではなく、毎日、日が暮れてから読み進めていくしかないだろう。


「お、月のことも書いてあるな」


 なんと意外なことにあの『青い月』のことも最初の方で書かれていた。

 あの『青い月』は元はダンジョンだったらしい。

 ずっと昔、『異世界人の勇者』がダンジョンを壊して回っていた頃に地上から逃げ出した複数のダンジョンがあった。

 その集合体があの『青い月』なのだとか。

 地球の白い月と同じくらいの大きさに見えたが、実際には距離は10分の1くらいにあって、大きさも10分の1なのだろう。

 いや、それでも相当な質量になるはずだが……。

 地上から離れた『青い月』は魔力を得ることが出来なくなり、今はダンジョンとしては完全に停止している。

 つまりあそこに兎獣人はいないことになる……。

 『バベルの塔計画』はここに潰えた。


「『異世界人の勇者』と『青い月』。それがこの世界が滅びへと向かった最初の一歩だったわけか……」


 この大昔に存在した『勇者』が

 そういうことだろう。


『ピピピッ』


 おっと、0時だ。

 どうやら異世界も24時で1日が終わるみたいだな。

 魔力とDPの振り込みがあったはずだ。



MP:0→101

DP:0→19


【ステータス】正常

【吸収MP・DP】200→503・20→33

【維持MP・DP】99→135・1→3

【地図】1F・B1・B2

【収納】11/100

【拡張】

【生産】



 初日の分は拡張前の魔力が振り込まれたみたいだな。

 MPは地面から200吸収して99をダンジョンの維持に回すので101が振り込まれた。

 明日は503吸収して135を維持に使うので368が振り込まれるはずだ。

 DPも同様だな。

 本当は【拡張】してから何時間か経っているので、余剰魔力が生まれているはずだが、それは緊急用の魔力とDPとしてダンジョンコアが隠しているらしい。


「ダンジョンコア?」


 他のダンジョンでは『ダンジョンマスター』ではなく『ダンジョンコア』がダンジョンの運営をしている。

 生まれたばかりのダンジョンはどこもそうで、偶に『ダンジョンコア』が動ける自分の体として『ダンジョンマスター』を生み出すか、何かが『ダンジョンコア』取り込むかして『ダンジョンマスター』になるらしい。


「魔力も振り込まれたことだし、色々機能を試して見るか。【生産】とか?」


 0時を回ったが、全然眠くない。

 結構頭を使ったはずなのに、体も好調そのもので疲れもない。

 もしかしたらこの体は睡眠を必要としないのかもしれない……。



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