第13話 「ノースウッドの懺悔」
クラリスから、別邸へ招かれたクラリスの父サイモン・ノースウッドは、クラリスの夫チェイス・カヴァナーと共に、別邸を訪れた。
ノースウッドは、応接室の椅子に腰掛け、今までに感じたことのない、恐怖と緊張が入り混じった感情に怯えながら、クラリスが来るのを待った。
応接室のドアがノックされ、静かに開き「失礼します」と、レイチェルが室内に声をかけた。
ドアが大きく開けられたそこには、若い頃のアビゲイルによく似たクラリスが立っていた。
ノースウッドは、急に動くなと言われていたことを忘れて、思わず立ち上がり、震える声で名を呼んだ。「……クラリス」
ノースウッドに名を呼ばれ、クラリスはびくりと体を震わせた。
レイチェルは優しく背中を撫でて落ち着かせ、目の悪いクラリスの手を取って、椅子まで案内した。
クラリスは目が悪く、栄養失調が原因である可能性が高いと、チェイスから報告を受けていた。椅子まで誰かに、手を引かれなければならないほど、クラリスの目が見えていないのだと知り、ノースウッドは、どさりと床に膝をついて項垂れた。
「すまなかった、クラリス。私が臆病だったばかりに、お前をこんな目に合わせてしまった。私を見つめてくる瞳の色が、アビゲイルと同じで、お前を見るたびに、体の一部を失ったような喪失感に襲われた。それから逃げるように、お前を遠ざけてしまった。決して恨んでいるわけではないのだ、今更何を言っても遅いが、ずっとお前を愛していた」
ノースウッドの瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれ、カーペットを濡らした。
「アビゲイルが亡くなったのは、お前のせいではない、元々体が弱かったのだ。医者からは、出産に耐えられないだろうと言われていた、お前が悪魔憑きだから死んだのではない。お前は悪魔に取り憑かれてなどいない」
ノースウッドは、はっきりと言いきったが、ずっと悪魔に取り憑かれているのだと信じてきたクラリスは、ノースウッドの発言を訝しんだ。騙そうとしているのかもしれないと。
「もしも、アビゲイルの死に責任があるとしたら、それはこの私だ。お前の母を守れなかった私の罪だ。そして、私は、お前のことも守れなかった。後悔してもしきれない。クラリス——愛しい娘、アビゲイルが命懸けで守った命を、私は傷つけてしまった……」
クラリスは、ただ静かに涙を流しただけだった。
「お前に償いたい。図々しい願いかもしれないが、償いをする許可が欲しい。直接会うのが嫌ならば、手紙でも構わない、私に父として、娘を可愛がるチャンスをくれないか」
クラリスはレイチェルを探した。「レイチェル、私、気分が悪いです」
レイチェルを探して彷徨う、今にも折れてしまいそうなほど細い手を、レイチェルはそっと包み込んだ。まるで、大事な宝石を守るように。
「クラリス様の体調がすぐれないようなので、本日はこれで失礼させていただきます」レイチェルが言った。
ダグラスとレイチェルが両脇から支えて、クラリスを立ち上がらせた。
チェイスは手を差し伸べようとして、立ち上がりかけたが、レイチェルに睨まれたので、もう一度椅子に座った。
「ノースウッド閣下、閣下も私も時間が必要なようです。彼女に許される日が来るのか分かりませんが、閣下が都合のいい時に、伯爵邸を自由に訪れることを許可します。これは、クラリスのためですし、何より、父と娘がすれ違ったままだというのは、心が痛みます」
「ベレスフォード伯爵、感謝する」
「私は、あなたの娘婿なのですから、チェイスでいいですよ」
「……父とは呼ばせないぞ、私が言えたぎりではないが、娘を幸せにするどころか、蔑ろにして、別邸に追いやるような男に、父と呼ばれたくはない」
自分がしてしまった過ちを、まざまざと思い出させられたチェイスは、せめて結婚式当日に、この事実を知っていればと
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