第12話 「ノースウッドの来訪」

 ノースウッドは、ベレスフォード伯爵邸へ足を踏み入れた。


「クラリスを虐待していた者たちは、全て捕らえ、ロンズデール警視庁に引き渡した。首謀者は、アビゲイルの弟グレッグだった。姉を失い、おかしくなってしまったようだ。アビゲイルを慕う様子が、以前から異常だと思っていたが、まさか、ここまでだったとは、思いもよらなかった」ノースウッドは眉間に皺を寄せ、苦悩するように、頭を横に振った。「アビゲイルを殺して産まれてきたクラリスは、悪魔憑きだと、虐待ではなく、悪魔祓いの儀式だったと主張している」


「執念深い奴と、思い込みの激しい奴は厄介です。グレッグが人を雇って、何かしてくる可能性を考えるべきでしょう。備えあれば何とやらと言いますからね、クラリスに、おかしな奴が近づかないよう、クラリスの身辺警護を強化します」チェイスが言った。


「クラリスは今どうしている?手紙を何通か送ったが、返事がない。読んでもらえたのだろうか?」ノースウッドが訊いた。


「レイチェルを呼びましょう。クラリスのことなら、彼女が1番よく知っている」チェイスはブランドンに、レイチェルを呼ぶよう手振りで合図した。


「あの子を未だ冷遇しているのか?」ノースウッドは、チェイスを冷ややかに睨め付けた。


 ノースウッドの鬼のような形相に、チェイスは慌てて言い募った。「まさか、この期に及んで冷遇するなど、あり得ません。今は、クラリスに、許しを乞うているところです」


「ならばなぜ、夫であるお前より、侍女の方がクラリスに詳しいのか、理由を説明できるのだろうな」ノースウッドは腕を組み、眉を吊り上げて怒りを露わにした。


 他でもない自分自身が招いた咎なのだから、甘んじて受け入れるしかないと、チェイスは糾弾される覚悟で腹を括った。


「実は……先日、オペラの観劇に出掛けてきたのですが、帰りがけ、少々不快な出来事がありました。それで、私は今、レイチェルから反省を求められていて、クラリスに、なかなか会わせてもらえないのです」ノースウッドから厳しい視線を向けられたチェイスは、落胆した。「弁解の余地もありません……」


 

 レイチェルはブランドンから事情を聞き、少し待ってくれるよう、ブランドンに言った。


 ブランドンが別邸を立ち去ると、レイチェルはクラリスに説明した。


「クラリス様、エンディコット公爵閣下が、本邸に見えられているそうです」咄嗟に身を固くしたクラリスの手を取り、優しく甲を撫でた。「クラリス様を苦しめるよう、使用人に命令していたのは、お父上様では無かったのです。叔父上様だったそうです。既にロンズデール警視庁に逮捕されています。2度と、クラリス様を傷つけることはできません」


「……父ではなかった?でも、私はお父様に嫌われています。お母様を死なせてしまったから」クラリスの頬を、知らず知らずのうちに涙が伝った。


「そのことを、お父上様に問いただしてみましょう。お力になります。私や別邸の皆は、クラリス様の味方です」

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