第6話 「チェイス対ノースウッド」

 ベレスフォード伯爵から、エンディコット公爵宛に手紙が届いた。



『妻をエンディコット公爵邸へ連れて行けません。クラリスが受けた仕打ちを考えれば、当然のことでしょう』



 その簡潔な文章を読み、ノースウッドは、すぐにベレスフォード伯爵邸へ向かった。


「クラリスを連れて来られないとは、どういうことだ!クラリスは無事なのか?」ノースウッドはチェイスに詰め寄った。


「それを貴方が気にしますか?皮肉ですね。娘を殺そうとした父親が、娘の命を心配している」チェイスは嘲笑うように言った。


「何のことだ、私はクラリスを殺そうとしたことなどない!でたらめを言うな!」


 2人の男たちは、応接室で立ったままテーブルを挟み、向かいあって言い争った。


「彼女への虐待は、どう説明するのですか?」


「虐待だと⁉︎誰が娘に虐待したというのだ!」


「幼少期からずっと、身体的に虐待されていたと、侍女から報告を受けています。全ては貴方が、使用人に指示してやらせたことでしょう!」


「姑息な手段を使いやがって!私がクラリスから話を聞けば、お前の嘘は露呈する。愛人に産ませた子供を、クラリスの子供と偽ったことがな!伯爵の継承権を与えたいがために、嘘をでっちあげて、私をクラリスに会わせないようにしているだけだろうが!」


「確かに私は、愛人が産んだ子供に、良い血筋を与えてやりたくて画策しました。それを過ちだったと認めます。しかし、出生届を国に提出してしまっている以上、間違いだったと認めることは出来ません。ですから、クラリスに対して、精一杯の償いを——これから先、何不自由なく暮らせるよう、手を尽くすつもりです。ですが、暴力は違うでしょう!妻を出産で亡くしたからといって、娘に責苦を負わせるのは間違っている!」歯を食いしばり、自らの過ちを認めたチェイスは、語尾を荒げた。


「——何を言っているのか分からない。私はクラリスを責めたことなどない」ノースウッドは、予期せぬ妻の登場に、何が何だか分からず動揺した。


 腹立ちを抑えるように、チェイスは髪をかきあげた。「本人がそう言っているのですよ。虐待するよう使用人に指示したのは、父親だと。クラリスが、そうはっきり言うのを、侍女が聞いているのです」


「その侍女に会わせてくれ、とんでもない誤解だ。私は断じて、そのような命令を下していない」


「分かりました。ご自分が今までしてきことで、クラリスがどれほど深い傷を負ったのかを、彼女から直接聞くといい」吐き捨てるように言ったチェイスは、ブランドンに指示した。「レイチェルを呼んでくれ」

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