第11話希望

 唐突な過去編です。

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 あれからどれだけ走っただろう。

 カイトの言う通り後ろを振り返らず走り続けた。

 無法地帯スラムから出たのは確実だ。

 カイトは大丈夫なのかな?

 ぼくはただ無事を祈ることしかできない。


「……ここは…どこ?」


 どこかはわからないが大きな町に出たようだ。

 久しぶりだ。

 みんなが普通のように暮らしている。

 ぼくも普通に暮らしたい。

 また昔のように…


 ドンッ!


「あ、」

「ああ?なんだお前?」


 少し柄の悪そうな人にぶつかってしまった。


「す、すみません…」

「ガキだからって謝って済むと思うなよ!ていうかお前、無法地帯スラムのヤツだろ?」

「……」

「ハッ、やっぱりな!なら…何しても大丈夫だよなぁ!?」


 そう言って男はぼくに殴りかかってきた。


「え――ゔっ!」


 痛い…

 だけど一発では終わらない。

 その後も二発、三発と殴ってくる。


「……や、やめ…て…」

「やめてだぁ!?やめるわけねぇだろ!恨むなら生まれてきた環境を恨むんだな」


 もう…だめだ…

 意識が朦朧としてきた。


(誰か……助けて…)


「何をしてるんだ?」


 …誰だ?

 周りに黒服の人がいる。

 お金持ちの人かな。


「な!?あんたは!?」

「……」

「くそっ!」

「逃すな」

「「はい!」」


 黒服の人たちが追って行った。


「もう大丈夫だ」


 助かった…のか?


「ゆっくり休みなさい」


 そうしてぼくの意識は途絶えた。


 ♦︎


 目が覚めると知らない天井だった。

 周りを見ると医療機器などがある。

 病院みたいだ。

 あの助けてくれた人が運んでくれたのかな。


「お!目が覚めたようだな」


 助けてくれた人がやってきた。


「もう大丈夫か?」

「…はい、少し体が痛むくらいです」

「そうか、ならこれからのことについて話したいんだが…」


 これから…?


「申し訳ないが君のことは少し調べさせてもらった」

「……」

「君は無法地帯スラムで生きてきたようだね」

「っ……」


 もしかしたらまた…


「安心してくれ、無法地帯スラムで育ったからと言って差別したりしない」


 嘘を言ってるようではなさそうだ。


「君は親もいなくて頼る人がいなかったのだろう?だから無法地帯スラムに行くしかなかった…そんな君をなぜ差別できよう」

「……」

「君はよく頑張った」


 ポタッ

 あれ…?

 涙が…

 ぼくのしてきたことは褒められることじゃないのはわかってる。

 それでも誰かに認めてもらえたことが何より嬉しかったんだ…

 それからぼくが泣き止むまで静かに見守ってくれた。


「落ち着いたかい?」

「…はい」

「さて本題に入ろうか」


 本題…?

 何かあるのか?


「ボディーガードにならないか?」

「ボディーガード?」

「正確に言うと私の娘のだがな」


 ボディーガードってあの黒服の人たちのことかな?

 でもなんでぼくが?


「どうしてだって顔だな」

「…はい」

「理由はそうだな…無条件で君を引き受けることはできない。私にも面子と言うのがあるからな、だからボディーガードとして雇うと言うことだ」


 …なるほど

 ここで断ればきっとあの生活に逆戻りだ。

 なら!


「お願いします」


 引き受けるしかないだろ!


「本当にいいのか?」

「ぼく…いや、俺は後悔はしたくありません」

「ボディーガードは辛いぞ」

「そんなの…今に始まった話ではありませんよ」


 ずっと辛かった。

 今更辛いからって逃げるわけがない。


「ふっはっは、確かに言う通りだな!では、雇い主として自己紹介をしようか私は九条くじょう浩二こうじだ」


 え…九条!?

 さすがに聞いたことがある。

 裕福な人だと思ったがまさか…九条だったとは…


「よろしく頼むぞ!彼方」

「…はい!」


 お父さん、お母さん、カイト俺は頑張るよ。

 だから見ていてくれ。


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