第4話 怒りの中に見えるもの
「決めたかい?」
マティアスは出てきた弘人に尋ねた。少年は何も言わないまま、師匠に選んだ罪人の紙を私た。
「ふぅん、何人もの人間を自殺に追い込んだ詐欺師の一匹狼か。グループで行動しなかったとは珍しい……。だが結局捕まって、黒眼病患者になったが故罰されないままここに来ちまったわけだな。確かにクズだね」
青年は詳細情報を読みながら、ニヤッと笑った。
「ただのクズなんかじゃないですよ……こいつはとんでもねえゴミクソ野郎だ!」
感情的になった弘人を見て、マティアスは少し驚いた。弘人はまだ第一段階にあるのも加え元々冷静な性格だったので、このような反応には少し違和感を感じた。
「もしかして何か過去にあったのかい?」
図星だったのか、弘人はビクッと震えた。
「ふぅん、なるほど」
師匠は納得したような、どこか満足げな笑みを浮かべた。だが彼は、それ以上は追及しなかった。
二人は黙ったまま、家に戻った。
「調査を開始しなきゃな」
マティアスは昼ごはんを用意しながら、少年に言った。
「賞金首取りは競争だからな。誰かが先に
師匠は、おそらく配給場所からぶんどってきたコーンと鯖の缶詰を出した。中身を二人分に分けてから、マティアスは隠してあった袋からカンパンを取り出した。そのうち数個を弟子に渡す。
「なかなか豪華だろう? もちろん地上の食事よりは全然だけどね。半分フランス人の俺としては悲しくなってくるよ」
そこで弘人は初めて、自分の先生が日本人とフランス人のハーフであることを知った。そういえば彼のことは自分は何も知らない。そして相手にも自分のことは何も言っていない。
食事の手を止めた弘人を、マティアスは不思議そうに見つめた。
「どうした? 大丈夫かい?」
「……」
少年は唾を飲みこんだ。
「師匠……過去の話、してもいいですか?」
師匠は驚いたのか、眉を上げた。
「別にもちろんいいさ。でも君は大丈夫なのかい?」
「……はい。今まで誰にも喋ったことないんです。でもここで暮らしている師匠なら、言えるような気がします……」
「そうかい」
マティアスは軽く返事をして、姿勢を整えた。弘人は下を向いたまま、ポツリポツリと話し始めた。
それは彼の父親の話であった。
弘人には父親がいなかったが、それは離婚のせいではなかった。弘人の父親は自殺したのだった。この話をすると、彼が無責任であるとか、家族を捨てたひどい父親であるとか、たくさんの批難が出るのが常であった。
だが、息子である弘人が父親が弱い人物であることを一番わかっていた。彼の父親は耐えられなかった。自分が詐欺にあってしまい、会社のお金を一晩で失ってしまったことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます