第9話 むつかしい話

 愛紗は有り合わせでカレーを作ってくれた。スパイシーな香りが鼻腔をくすぐり、口に含んだ瞬間まろやかさが爆発し、愛紗の家庭力の高さがうかがえた。


 「ありがとぉ〜愛紗ちゃん美味しいよ」


 「うん、すごく美味しい。ありがとう愛沙」


 「いえいえ、そんな、いつも作ってるからいつの間にか上達してただけですよ」


 謙虚だなぁ。普通にお店に出しても食べられるぐらい美味しいのに。


 「にしても、羽瑠、あんた何したの?」


 姉さんが訝しむように俺を見てくる。俺が何したって言うんだ。


 「自分の胸に聞いてみるんだね。ほら、観察眼」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


名前:斑目羽瑠まだらめうる

 歳:12歳

 性別:女

 身長:137センチ

 体重:38キログラム

 レベル:21

 筋力:8231

 知力:10720

 持久力:7485

 俊敏性:6730

 魔力保有量:99999(カンスト)

 見た目レベル:10


 スキル

 •神の一太刀(使用不可)

 •緊急回避

 •超加速

 •物理貫通

 •状態異常無効

 •神の腹切り(使用不可)

 •神の間合い(使用不可)

 •身体変化:元(New)

 •身体変化:改

 •身体変化:戒

 •スキル生成:天

 •経験値効率:天(New)

 •上達速度アップ:達(New)

 •魔法適正:大賢者


 ユニークスキル

 •調薬の申し子

全ての植物を無条件で調薬することができる。何でも調薬でき、人智を超えた薬を生み出すことが可能だが薬が与える影響は良いものだけではない。簡単な調薬なら必ず良薬を作ることができる。

 •<全能者>

全てのスキルのランクが最高位まで上がる。

全属性の魔法が使える。

基礎ステータスの上昇スピードアップ(New)

称号の獲得確率UP(New)


 称号

•下剋上の風習

自分よりレベルの高い相手を百回以上討伐することで獲得(一定確率)

効果:自分よりレベルの高い相手と戦うとき基礎ステーテス10%上昇


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 自分に起きていることだと頭が理解を拒む。いやいや、急にこんなに強くなるわけ……あったか。


 まず基礎ステータスがおかしい。おそらくだが前見たときにはなかったゆニークスキルの効果だろう。「経験値効率:天」「基礎ステータスの上昇スピードアップ」この2つが組み合わさった結果とんでもない速度で基礎ステータスが上がったのか。そういえば前見たときは1レベルに戻っていたから初心者特有のレベルが上がりやすい状態でもあったんだな。


 スキルの欄に新しいスキルが増えていっているのは「スキル生成:天」とかいうやつのせいだな。……だけど一番気になるのは、ユニークスキルに効果が増えていることとこの称号ってやつだ。


 「スキル生成:天」というのは効果を見るに新しいスキルを生み出すもので間違いない。だが、ユニークスキルに後付で効果が増えるのはおそらく管轄外のはず。……俺たちが知らないユニークスキルの効果がある?


 「深く考えてもわからないと思うんだけどねぇ称号に関しては持ってる人結構見たことあるし。このユニークスキル強すぎない?」


 「それは私も思う……でもこのステータスだったら下層での配信をかなり安定してできるよね」


 そう。元々俺は下層中層攻略解説と言いながら主にやるのは中層の解説にするつもりだった。周りに姉さんがいるから勘違いしそうになるが下層や深層は人が入ると数秒を持たずに死に至る。深層はもちろん下層も中層のときとは比べられないほど魔素によって強化されている。男のときの俺も安全マージンを取って配信では下層に入らなかった。


 「うわ、仕事のことが最初に出てくるなんて社畜かよ」


 社畜はあんただろ。個人的にはユニークスキルよりあんたのステータスのほうが気になるんだが。


 「もしかして私思ってたよりも凄い人に助けられちゃった?」


 愛紗は呆然とした様子で俺のステータスを眺めている。気の毒だが慣れてもらうしかない。


 「愛紗、これは比較対象にならないから忘れてもらって大丈夫。」


 これを見て愛紗が挫折したとかなったら罪悪感が……。まあ、愛紗には頑張ってもらうしかない。


 俺は愛紗が作ったカレーを食べ終わった。


 「ん。ご馳走様でした」


 「お粗末さまです」


 おぉ。なんか、このやり取りいいな。……いや何がいいのか考えたくないが。


 俺は立ち上がり食器を洗いに行く。


 愛紗もそれを見て「私がやりますよ」と言ってくれたがこれぐらいのことはやらせて欲しい。頼りすぎるのも良くないしな。


 「姉さんも早く食べて皿持ってきて。一気に洗っちゃうから」


 「あいよぉ。……ご馳走様でしたぁ。ありがとう愛紗ちゃん。」


 「いえいえ、理沙さんもお粗末さまです」


 ……やっぱりだ。何度考えてもおかしい。なんで俺は愛紗のことが気になってるんだ?俺はまだ愛紗に会って3日程しか経ってない。話した時間もそう長くは無いし好意を抱くにはあまりに早くないか?……もしかして顔か?俺は愛紗の顔に引かれているというのか?いやいや確かに愛紗は可愛いがそうゆうのじゃない気がする。俺が男の時もあまり女の子の顔に興味はなかった。そもそも愛紗を助けた時なんでダンジョンの出口まで連れていこうとしたんだ?怪我した状態で放置するのは危なかったから?……何か違う気がする。服がエロかったからか?いやそんなに事で助けるほど煩悩に溢れていない。……まさか、?いやいやもっと無いだろ!?


 俺は洗っていた皿に力を入れて割ってしまう。


 「大丈夫ですか!?」


 「ふぇ!???」


 愛紗は皿が割れたことに気づき慌てて駆け寄ってきた。


 近い近い近い!!……あでもいい匂い。じゃない!


 「怪我は無いですか?」


 愛紗は俺の隣で屈んで真っ直ぐ俺の目を見つめる。


 「いや大丈夫、怪我は……ない。ちょっと休むね」


 訳が分からず頭がパンクしそうだ。とりあえずその場で逃げようとしたところで、俺は姉さんに捕まえられる。


 「羽瑠く〜ん。ちょっと、こっちに来ようねぇ」


 「や、やめろ!邪魔すんなバbaッ!」


 「あ?」


 ゾワッ。っと背筋が凍る感覚がした。俺は蛇に睨まれた蛙のように動けない。そのままリビングまで連れていかれる。


 「羽瑠のユニークスキルについてちょっとだけこうなんじゃないかって思ったことがあるんだけど」


 もしかして見逃されたのか?あとが怖いんだけど。


 「ユニークスキル?何がわかったって言うんだよ」


 「なんで羽瑠がユニークスキルを2つ持ってるのかすごく疑問だったんだけどもしかしたら、羽瑠が女の子に産まれていたら持っていたのは《全能者》なんじゃないかと思ってね」


 「……?どうゆう事だ?」


 姉さんは至極真面目な顔で答える。


 「羽瑠は薬で女の子になったよね?顔立ちも私に似てるし愛紗ちゃんみたいな娘がタイプなのは私も同じだ。遺伝子は私と同じものを継いでいるって考えていい」


 いやあんたのタイプなんか聞いてないんだが。


 「それがなんでユニークスキルが2つあることに繋がるんだよ?」


 俺が急かすように尋ねる。


 「今羽瑠の体は女の子だ。でも意思は男の羽瑠だよね?今羽瑠はそのふたつの要素で構成されてる。少し強引だけど男の羽瑠と女の羽瑠。1人で2人分の力が出せるとしたら。2つユニークスキルをもてることにも納得がいかない?」


 ……理解はできる。かなり強引だが、この仮説が正しいなら今の俺は1人の体で2人分の力が使えるということ。一般人ならそんな事おこらないだろう。だが、あいにく俺の遺伝子なら有り得る。俺の血筋である斑目家はかなり特殊なのもこの状況を生み出した一旦というこか。


 「正直、まだ信用はできない。信じるには根拠が少ないし実際それがあるところでどうだって話だしな。結局俺に出来るのは配信なんだよ」


 俺の言葉を聞いて姉さんは少し悲しそうな顔をした。俺と顔を背けてビルの立ち並ぶ街を見下ろす。


 「分かってないなぁ。……でも、まだ知る必要は無いかな」


 俺には姉さんが何を言ってるのか聞こえなかった。でも、聞ける雰囲気では無さそうだ。


 「じゃあ、俺は部屋に戻るよ」


 「……そっか。……はぁ。……羽瑠ぅ!今日愛紗ちゃん家に泊めるけどいいかなぁ?」


 「は!?なんでそうなる!」


 さっきまでの冷たい雰囲気とは一転。おちゃらけた姉さんに戻った。


 姉さんは部屋の中に戻り愛紗を探していった。


 「愛紗ちゃん。今日泊まってく?泊まってくよね?部屋はいっぱいあるから好きに使って貰って大丈夫だよ」


 「いいんですか!?私お泊まり会みたいなの好きなんですよね!……ちょっと親に連絡してくるので待っててください!」


 姉さんは俺を見てグッ、と手を向ける。グッ、じゃねえよグじゃ!待て待て、お泊まり?心が持たないんだが?


 因みに愛紗は泊まることになり俺はその日眠れなかった。

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