第8話 ロリが豚って言って何が悪い
喉につっかえのようなものを感じたまま終了した集まりだったが、それから特に何かが起こることも無く俺は初配信当日を迎えた。
今日俺が来ていたのは前来ていた駅近のダンジョンだ。今の時刻は午後3時。姉さんに9時までには帰れと言われているのでできるだけ多く配信時間を取っておきたかった。
因みに今日は愛紗は来ていない。俺が下層の攻略をする以上愛紗には荷が重いだろう。愛紗が配信に同行するのは訓練の後だ。
「と、言うわけで」
下層入口。俺は男時代に使っていた配信セットと愛刀を持ってきている。配信セットとは自動で配信者の周りを浮遊し暗闇でもあたりを照らし、他にも配信者を助ける機能がある万能カメラ、身バレ防止用の(姉さんの)ローブ、その他。防具も持ってくるつもりだったのだが男時代と50センチメートルは離れているので、着ることができなかった。
変わりに、姉さんが「配信映え〜ってこういうことでい?」と持ってきたある衣装を防具代わりにしている。正直着ることに抵抗しか感じないんだが姉さんが冒険者時代に深層から取ってきた素材が使われているらしい。元々俺が使っていた防具よりも性能がいいんだから笑えない。
俺は周りに誰もいない内に配信の準備をする。用意ができたのでスマホで配信開始を呟く。何年も配信者をやっているがこの瞬間には毎回慣れない。いくら有名になったからと言ってももし視聴者が来なかったらどうしようという気持ちになるのだ。
不安な気持ちを感じながら配信の待機画面に目をやるとやはり杞憂に終わる。コメント欄が目で読めないほどに早くながれていった。想像以上の数に圧倒されたが、慣れた動きで配信ボタンを押す。
息を吸い込み、吐き出す。私は着ていたローブを脱ぎ去り上に投げた。現れたのはフリル、装飾の多い黒主体のゴスロリドレスを身に纏った小悪魔だ。130後半の小さな背、あどけなさの残る顔面、かすかな膨らみを残す肢体、少し高めに結ばれたツインテール、暗転した画面から突如として現れた天使に激しくコメントは沸く。
「は~い私こそは時代の超新星ッ、羽瑠ちゃんだぞっ♡」
視聴者の欲望を誘うように計算され尽くした角度から放たれた言葉は挨拶だけでも数万人を遠隔からノックアウトする。現在同時接続数20万人。突如としてネットに現れた女神はその日の同接一位をかっさらった。
「配信を見てくれている皆様!今日は私の配信に来てくださりありがとうございます!新人ダンチューバーの斑目羽瑠です!ついに、初配信の日を迎えることが出来ました!出来れば最後まで見ていってください!」
コメント
:来たァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
:きちゃァァァァァァァァァァァ
:かわぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
:可っ愛い
:コヒュン(心臓を撃ち抜かれた音)
:まってますた
:スパチャができないだと……
:可愛い
俺が初めの挨拶をするだけでコメント欄が可愛いで埋め尽くされる。なんだろう……これすごい気分がいい。
「えと、皆さん私に聞きたいことがいっぱいあると思うのでモンスター探しながら質問返答していきますね」
コメント
:切り抜きしても大丈夫ですか?
:下層もぐるの?危険じゃない?
:危ないから雑談配信しよう
:ポジさんと遊ぼうよ☆
:どんな配信スタイルなんですか?
:可愛いお
:女神かな?
:本当に十二歳ですか?
:というかもしかしてもう下層にいたりする?
反応は上々。可愛いは正義。俺はコメントを拾いながらモンスターを探す。
「切り抜きですか?あ、それに関して言いたかったんですけど私のチャンネルは切り抜きフリーです!皆さんに切り抜いてもらえることで私のことをもっと多くの人に広めることが出来るのでどんどん切り抜いていってください!」
「えーと、下層もぐんの?ですか。はい潜りますよ。今日は初配信ということで少し深くまで潜ろうかなと思っています。え、心配ですか?大丈夫ですよ私これでも結構強いほうだと思うので」
「スパチャ出来ない。すみません!申請はしているんですがまだ通ってないんですよね。遅くてもあと一週間くらいすれば通るはずなのでそれまで待っていてください!」
「本当に十二歳ですか?はいもちろんです!学生証は身バレ防止で出せないので、これパスポートです。生年月日書いてるのでこれで十二歳って証明できますよね?」
「配信スタイルについて……。えーと、私のチャンネルは毎日配信を目標にしようと思ってるんですけど、でも毎日ダンジョンに潜る訳には行かないので雑談配信とかも挟みますね」
「可愛い。本当ですか!?ありがとうございます!そう言ってもらえると頑張れます!」
「もしかしてもう下層にいる?正解です!正直まだ私の実力が下層で通用するのか疑っている人がいると思います。語るよりモンスターを殺す方が説明がはぶけていいですよね?……あ、いましたねモンスター」
俺が質問に答える度にコメントの流れが早くなる。反応するのが面倒なので放置するがコメントは切り抜きのことやら年齢のことやらで驚きくコメントが多かった。質問にあらかた答え終わったとき、ちょうどモンスターがでてきた。
「なるほど、今日最初のモンスターはオーガですか」
オーガ。中層に出てくるオークの上位互換でどこのダンジョンに行っても基本出てくる常駐モンスターだ。下層にいればほぼ確実にエンカウントするのでこいつを倒せる実力がないと下層は潜れない。
:お、来たね
:羽瑠ちゃんほんとに戦えるんか?
:疑うつもりはないんだけど12歳がオーガに勝てると思えん
:流石にやめた方が良くない?下層じゃなくて中層での配信にしよ?な?
:スプラッタは見たくないお……。
:下層は冒険者歴何年のやつが入っても死にかけるところだぞ?まじで大丈夫か?
:誰だよ実際には下層には潜らないだろとか言ってたヤツ
こんなに大丈夫だと言っているのだから信じればいいのに。……まあ俺が視聴者側だったら止めるようにコメントするか。
「えーと、知っている人も多いと思いますが下層のモンスターは知能が高く姑息な手段を使ってきます。ダンジョン内の魔素量が大幅に上がるのでそれによって進化しています。中には強くなりすぎて周りを寄せつけないやつとかいたりするんですけどほとんどは中層のモンスターの強化版ですね」
:いや何普通に解説始めてんすか
:そういえば解説配信するって言ってたわ
:ガチで逃げた方がいいって
:あ〜、目合っちゃった
:迷いなく進んでくなこの子!?
俺はコメントの制止を無視してオーガに近づく。5mくらいの身長に、大きく横に拡がった体躯。分厚い腕には錆びた斧が握られておりこちらを見つめる目は赤く爛々と光っていた。
「オーガがよく使うのは斧とか
俺はオーガの頭をわろうと振り下ろしてくる斧を横にズレて回避する。
:すげ
:避けた……
:目で追えないんですけど
「オーガの最大の特徴はその体の大きさです。筋肉質で硬く、刃物はあまり役に立ちません」
:いや羽瑠ちゃん刀しか持ってないやん
:羽瑠ちゃん攻撃出来なくね?魔法使えるの?
「刃物は余り役に立ちませんが、そういう時に役に立つのはやっぱりステゴロですね。鍛えたからだはやっぱり裏切りません」
俺は回避した流れで軽くジャンプし、オーガの顔面に拳を入れる。軽く衝撃波が発生し、オーガは反動で倒れる。
「おい、まだ寝るな。」
俺はオーガの横っ腹に蹴りを入れる。起き上がったオーガは鼻息を荒らげかなり怒っているように見えた。
「あ、オーガが怒りましたね。知能のあるモンスターは怒った状態に入ることがあります。この状態だと知能が下がる代わりに腕力や敏捷性などの基礎パラメータがアップします。怒ったオーガは下層の中でも上位に食い込むくらい強いので普通の人は怒らせる前に倒しましょう」
:なんで普通に解説できてるんや……
:ステゴロきたぁぁぁぁぁ
:もしかして心配する必要なかった?
:ロリが軽蔑するような言葉……興奮するぜ
:もっと蔑んで欲しい
オーガはこちら目掛けて一直線に走ってくる。オーガが怒った時によくする攻撃だ。
「これは突進攻撃ですね。大きな体で見た目以上の速度が出るので注意です。」
オーガが目前まで迫って来たところで俺は超加速を発動しオーガの視界から消える。
「オーガによく効く魔法だと属性は火ですかね?やっぱりモンスターって言っても豚なので炙られたいってことでしょうか。……どう思います?」
:どう思います?じゃないんだよなぁ
:下層のモンスターに効く魔法は上級以上じゃないとキツくない?
:羽瑠ちゃんになら炙られたいです!
「まあ、魔法で倒してもいいんですけど派手な魔法じゃないと見栄えしないんですよね……。んー。やっぱりこれ使いましょう」
俺は持っていた刀を鞘から抜く。俺の愛刀。桜燐。名前の由来は確か桜の花びらを刀みたいな切れ味にして降らしまくる木のモンスターだったはずだ。
:マッサンの形見じゃないっすか
:さっき刃物通じないって言っませんでしたか?
:切れるんだろ。多分。
「さっきあまり刃物は通じないと言いましたが、実際には少し違くて、刀で切りずらいのは筋肉の繊維が硬いからで繊維の向きに合うように切れば切れるんですよ」
俺は桜燐に魔力を纏わせてオーガの腕を切る。そろそろ解説も話すことがなくなってきたので足を切って動けないようにした。
:調理実習かてwww
:学校でそんなこと教わったわ
:そんなサクサク切らないでwww
「どうせあとでまたエンカウントしますし1度倒しますね。えと、こいつ結構耐久値高いんで倒す時は首切ったり胴体消し飛ばすとかして殺しましょう。……ハハッ、処刑の時間だよ?豚くん(某ネズミボイス)死ねぇ!!」
俺は手足がなくなり動き回れないオーガの首を桜燐で切り落とした。オーガは完全に動かなくなり段々とダンジョンの床に沈み始める。ダンジョンに吸収されていっているのだ。
「……ふぅ、これで討伐完了です。どうでしたか?これで私の実力を信じましたか?」
:疑ってすみませんでした
:可愛いだけの女の子だと思ってました
:マジパネェっす羽瑠さん
:オーガにエンカウントしてからなんか女の子って感じなくなったな
:12歳の少女が下層に潜ってオーガを豚扱い……。
:ブヒッ!!
:なんか口調男に寄ってきてますか羽瑠さん
:○ッキーはそんな事言わないもん!
……これで可愛いだけじゃないって証明できたかな?
やべ、ちょっと男の口調で話してしまっていた。でも無理じゃない?ぶりっ子で話すのすごい疲れるんだよ
「解説とかで何かわからなかったこととかあります?次オーガに会ったら補足説明していこうと思うんですけど」
:解説に特に問題は無い
:それ以外が問題すぎて草生える
:一瞬残像みたいになってる時なかった?
:ぶりっ子やめたんすか?
:この配信は可愛いだけを求めるものじゃないって分かった
:オラッ鳴け豚ッ!……って言って欲しいです
:下層に潜れるくらい強くて、男以上に語気が強くて、蔑むことも出来る……。四捨五入すれば最高に可愛いってことだね
「えっと、正直迷ってたんですけどぶりっ子みたいな話し方要ります?可愛い可愛いって許されてるっぽいけどそれでも抵抗ある人いると思うんですよね。普通に敬語の方が話しやすいし……それとも、こっちの方が良いかなぁ♡?(甘々ボイス)」
:ぶりっ子可愛い
:なんか……こう……見た目とのギャップって言うんですか?……最高です……
:普通に話しやすい方でいいんじゃないっすか?
意見が割れてるし口調はとりあえず保留でいいか。
とりあえずのところ、俺の実力に懐疑的なコメントはなくなった。……正直俺もびっくりしているところはある。だって俺は数日前までオーガ相手に完封勝利出来るほどの力はなかったからだ。
俺は姉さんと愛紗の3人で集まった時に話していたことを思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
当初思ってた以上に羽瑠ちゃん強くなっちゃった。……可愛いからしょうがないね。
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