第4話 我がユニークスキルの効力は世界一ィィィ!!

 「愛紗はどうしてモンスターに食べられかけてたの?思い出したくないかもしれないけど経緯を教えてくれない?」


 歩いているなか、俺が愛紗にそんなことを聞いてみる。それを聞くと愛紗は何故かバツの悪そうな顔をした。何か事情があるんだろうか?


 「私凄くダンジョン配信見るんだけどね、今日は氷瀑の騎士……もとい、白瀬綾様がこのダンジョンで配信をしてて、本物を一目見たくてダンジョンに潜ったの」


 「……なるほどね。配信者の追っかけか。でもそれにしては深くまで潜ったね。ほとんどの追っかけはダンジョンにまでは潜らないけど、愛紗は普段からダンジョンに潜ってるの?」


 「そうなんだよね。いつも潜ってるダンジョンだったし中層ならソロで攻略したこともあったから大丈夫かなって思ったんだ。実はさっきも騎士様の配信を見ながらモンスターと戦ってたら不意打ちに気づかないで飲み込まれちゃってて」


 配信者の追っかけ。推しに会いたいという一心で配信中の配信者に声をかけたり配信に出演しようとするものの事だ。


 ほとんどの場合配信者に迷惑がかかり中には悪意を持って配信を邪魔したり売名行為を行ったりする者もいるので悪質な行為として配信サイトが公式で禁止している。


 俺が男の時も良識のない視聴者には困らされたものだ。


 「配信者はコメントを読みながら戦闘したりできる力があるから下層に潜ったりしても平気なだけなんだからね?実際にダンジョンで潜って死ぬ事が有り得るんだから危険なことはもうしないこと。いい?」


 「うぅ……。ごめんね。羽瑠ちゃん。もうしないよ」


 うんうん。ちゃんと反省してくれたみたいでよかった。話している内に根はいい子なのだとわかったので心配しなくていいだろう。まあ俺に人を見る目があるのかは分からないけど。


 その後も出会ったモンスターを片っ端から魔法で瞬殺し上層をめざしているといつの間にか話題は俺の事になっていた。


「羽瑠ちゃんはいつからダンジョンに潜ってるの?戦ってるところを見たら下層を攻略できそうなぐらい強いのはわかるんだけど見た目が私よりも幼いから……ちょっと信じられなくて」


 俺はダンジョンが発生して2年……もとい、8年前からダンジョンに潜っていたが、今の体の年齢から逆算すると4歳からダンジョンに潜っていたことになる。ステータス的にはそれが正しいのだがそれをバカ正直に言っても信じられないだろう。


 「大体半年前ぐらいかな?ユニークスキルがちょっと特殊でね、条件はあるんだけど簡単に魔法を覚えられるんだ」


 大丈夫。ユニークスキルに関しては嘘では無い。


 「すごいね!半年でこんなに強くなれるなんて!もちろん努力もしてるんだろうけど、やっぱり才能なのかな」


 「いや、私はただ運が良かっただけだと思うよ」


 実際俺にはそこそこの才能があったと思う。でも俺より姉さんの方が才能があったから俺は天狗になったりしなかったのだ。女になったとはいえ、こんなステータスがあるのもたまたま薬を作れるユニークスキルを持って生まれただけ。俺は運が良かったのに過ぎないと思っている。


 俺がそう言っても愛紗は目を輝かせて歩みを進める。すると突然歩みを止め、閃いた!と後ろを歩いていた俺に向き直る。


 「すごく図々しい頼みなのはわかってるんだけどね、私が強くなれるように訓練に付き合ってくれないかな!」


 ……そういえば綾が俺に剣術の指南を頼んできた時もこんな感じだったな。瀕死の綾を助けたら「強くしてくれ!」って頼み込まれたんだっけ?


 俺がここで彼女の戦闘を見る意味は無い。あくまで彼女はたまたまモンスターに消化されかけているところを俺に助けられただけだ。しかもモンスターに食べられたのも自業自得と来た。


 俺は別にモンスターから助けた時点で放置しても良かったのだ。ダンジョンから出るのを手伝っているのも放置して死なれたら寝覚めが悪いだけ。……全くもってえちちな姿に惹かれたとかそういう訳では無い。


 俺が断ろうとしたその時、


 「強くなれるんだったら私、何でもするから!」


 「え///♡」


 おやおや、そんな気軽に〝何でも〟なんて言うもんじゃないぜお嬢ちゃん。世の中には俺みたいに心が腐った大人がいっぱいいるからなぁ。


 ……いやまあ姉さんに誓ってそんなことはしないが。というか出来ないが。そんなことできるなら30代で魔法使いなんてやってない。……え?今も魔法使いじゃないかって?はは、飛んだブラックジョークだねぇ。


 俺は勝手に精神ダメージを負ったのだが、彼女は沈黙を貫く俺を前にして一歩も引かない。諦めて欲しいんだけど。何か諦められない事情でもあるのか?


 お互い睨み合うような状態が続き、ついに俺は根負けした。


 「はぁ……。分かったよ。やればいいんだろやれば。だけどちょっと癪だから訓練のメニューくっそハードにしてやる」


 「ありがとう、羽瑠ちゃん!」


 そうやってもう一度笑顔を作る愛紗。……すごく可愛い。


 「じゃあ愛紗、ダンジョン出たあとちょっと着いてきてくれない?」


 「いいよー。私最初はもうちょっと長くダンジョンに潜るつもりだったし門限とかもないからいくらでも!」


 ならちょうどいいな。ついでという訳では無いが俺はダンジョンの道の端に生えている草を毟った。


 「ちょっと待ってて。ほい……よっと。ほら、これ飲んで」


 私は頭の中でどんな薬を作りたいかを考えユニークスキルを発動する。調薬の申し子なんて名前のユニークスキルだが調薬の要素は欠けらも無い。できるんだから仕方ないよね?


 「愛紗、これ飲んで。腕の痛みが引くはずだから」


 作ったのは痛み止めだ。と言ってもユニークスキルで作っただけあって1日以上効果が継続する。


 薬の見た目はスライムのような丸い球体だ。透明な膜で本体である中の液体薬を保護している。


 愛紗は液体薬を飲むと美味しい!痛みが消えた!と薬を絶賛した。良薬は口に苦しと言うが俺の薬の場合良薬で口が幸せと表現するに限る。


 ……思えば、最初はあんまりにも苦くて飲めたもんじゃなかったんだよなぁ。こうやって美味しいと言えるほどのものにできたのはユニークスキルのスキルレベルを上げたからだ。


 その後、俺と愛紗は一緒にダンジョンを出てある場所に向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 羽瑠ちゃんの心の中の一人称が俺になっていますがこれからは会話をする時は私、心の中では俺、という感じにしていこうと思います。

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