第5話 ナンパ?

 あの後薬をどうやって出したのか聞かれたのでポーションがどうのこうのと適当なことを言って誤魔化しておいた。


 駅に着いた俺たちは人混みをかき分けて駅のホームを目指す。


 「ねえ君たち可愛いねぇ。この後お茶しない?」


 「「……」」


 そうだ。帰りが遅くなりそうだから姉さんに連絡入れておかないとな。


 「無視しないでよ冷たいなぁ。悪い思いさせないよ?お金は俺たちが出すからさぁ」


 それにしても愛紗のことをどうやってしごいてやろうか。


 「「……」」


 武器はダガーみたいだからやっぱり近接戦闘の訓練を重点的にやって、遠距離攻撃の対策とかもさせて、才能があるなら魔法も練習させたいなぁ……まあここら辺は実際に愛紗の動きを見てからか。ちょっと楽しみ。


 「好きなもの食べていいんだよ?クレープとか、あ、最近出来たパフェとかどうよ?美味しいって評判なんだよねあそこ」


 「……」「ぇ」


 おい。今食べ物につられた奴がいたぞ。


 俺が愛紗の方を見ると彼女は咄嗟に目を伏せる。ちゃんと聞こえてるからな。


 にしてもうるさいな、こいつ。


 話しかけてくるのは髪を緑に染めたチャラついたメッシュの男。その後ろに強面のでかいヤツが1人と小柄な男が1人。


 魔力量は大したことないが一応冒険者なんだろう。と言っても3人集まって上層を攻略できる位の強さだろうが。隣でいちいち反応しそうになる愛紗を見るとヒヤヒヤする。いっそ手を出してくれれば正当防衛と言ってボコれるんだけどなぁ。


 「ねぇ、なんか言ったらどう?無視するんだったらこのまま連れてっちゃうよ?これでも俺Bランク冒険者だからさ、抵抗できると思わないでね」


 そう言って俺の手を掴んできた緑の男。……その瞬間俺は手首掴み返し捻る。そこまで力は入れてないが男は一瞬にして崩れ去った。多分Bランク冒険者というのは嘘でDランク冒険者位の力しかなかった。話を盛っていたと考えるのが妥当だろうな。


 今この駅はちょうど帰宅ラッシュの時間帯だ。家に帰ろうと人が雪崩のように入ってくるので、その分周りから大量の視線が集まる。


 まあ今は周りを気にする必要は無い。


 「てめぇ、何しやがる!」


 緑の男が地面でうめき出すと後ろの2人が一斉に殴りかかってきた。


 「愛紗よく見てて。格下との近接戦闘はできる限り体力を温存して素早く倒すことが大事だよ」


 強面の大男は勢いに任せて大きな腕を振り回すだけだったので後ろに回り込んで後頭部に蹴りを入れる。


 意識を失い倒れた男を見て小柄な男はうろたえた様子を見せた。


 「くそっ、なんなんだよ!冒険者リストに載ってなかっただろ!?なんでこんなバケモンみたいなやつがいるんだよ!」


 男は持っていたカバンの中からナイフを取り出した。周りで見ていた人達からは悲鳴が上がる。


 おいおい。こんな人混みの中でそんなんだしたら通報されるぞ。


 「羽瑠ちゃんこれを使って!」


 そうやって愛紗は持っていたダガーを俺に渡す。……このダガーかなり年季が入ってるな。親から譲り受けたものだろうか。俺はそれを有難く貸してもらい目の前の男と対峙する。


 さっきの大男と同じように勢いのままにナイフを振り回して走ってきたのでダガーで攻撃をいなす。止まって見えるぐらい遅いのでこのまま倒してもいいのだが、教育に使わせてもらおう。


 「勢い任せの攻撃は雑で力も入らない。攻撃をよく見て自分とは別方向に攻撃をずらすんだ。いなすだけなら大きな力は必要ない」


 何回斬りかかっても意味は無いと察したのか1度距離を取り人混みに紛れる男。色んな方向から悲鳴が上がっているので逃げた訳では無いようだ。


 「これは避けれねぇだろ!」


 完全な死角から飛び出し後ろから切りかかる男。だが気配でどこにいるか分かっていたので死角にはなり得ない。


 「死角からの攻撃にいつでも対応できるように人を気配で見分けられるように訓練するといい。それもできるようになったら視覚と聴覚を遮断して無機物まで察知できるようになるとなおいいね」


 後ろを振り向き攻撃をダガーで受け止める。


 「君にも教えてあげるよ。愛紗もよく聞いて。これは冒険者として初歩の初歩だけど、魔法を扱うことは出来なくても魔力を扱うことができるってことは知ってるよね?持っている武器に魔力を纏わせて使うことで威力をあげることが出来たり、魔力の扱いになれたら刀身の形を変えたり魔力で擬似的な武器を作ったりもできる。要は魔力ってのは応用力の塊って訳」


 そうやって俺はダガーに魔力を纏わせ地面を豆腐のように切ってみせる。愛紗からはおぉ〜、と羨望の眼差しを向けられる。男は歯ぎしりをしている。ついでにダガーを持っていない左手に魔力で手錠を作り出す。


 「そろそろ通報を受けた警察が到着するだろうからその前に終わらせるね」


 俺は一瞬で男の懐に入り込み腹に軽くパンチする。だいぶ手加減したのだが、気絶してしまったので作った手錠をかけて置く。他のふたりも同様に、だ。


 緑の男はなにか行動をすると思ったのだが気絶した二人を見て戦う気が無くなったらしい。抵抗もせずお縄にかかってくれた。


 どうせこの後警察にこってり絞られるだろうがそれだけだと少し足りないかな。


 「おい、緑頭」


 「は、はい!」


 「次同じようなことしたらその時は気絶じゃ済まさないからな」


 できうる限り怖さが出るように脅してやった。これなら再犯は犯さないだろう。


 「は、はぃぃ〜、、、。」


 辺りから大きな歓声が上がった。拍手で称えてくれる人や口笛を吹いてくれる人がいたのだが、中には何故か黄色い悲鳴のようなものが上がっている気がする。その中にスマホでこの状況を配信している人を見つける。


 「いいこと思いついた」


 「お疲れ様!凄いね羽瑠ちゃ───あ、あれ?ど、どこいくの?」


 俺は愛紗を無視してその人に近づくとカメラに向けて姉さんと話して決めていたある口上を述べる。


 「はーい私こそは時代の超新星ッ。羽瑠ちゃんだぞっ♡(可愛くウィンク)!……私はまだデビューしていないダンチューバーです!年齢は12歳!ちょうど一週間後に初配信を控えていました!主に下層中層での戦闘で大事なことを解説する配信をするつもりです!最後に!今、何人の人達が私のことを見てくれてるか分からないけどこれだけ聞いてって!(カメラに対し上目遣いになるように画角を調整して甘い声で)……絶対見に来てね♡」


 カメラを持っている人の後ろの方の人が何人か倒れた。……やっぱ可愛いがいちばん強いわ。


 配信を終了してもらったのと同時に警察が到着した。


 「はいはいどいてどいてー。……あ、いたいた。羽瑠、ちょっとこっち来て」


 「お姉ちゃん。ダンジョン対策庁の副官様がどうしてここへ?」


 「もちろんこうするためよ」


 そういうと姉さんは俺が反応できない速度で動き俺の手を後ろにまわして手錠をかける。


 「器物損壊罪。あんた……ほんとに何してんの?わざわざ床を傷つける必要なかったでしょ」


 「……いや、全然そんな気なくて、いや正当防衛だと思うんですよお姉様」


 「言い訳しないの。……まあ、あんたが捕まえた男3人組ね。ここら辺だと結構有名なのよ」


 痛い痛いそれ以上手を上げないで!人体の構造上後ろで手を組んでる状態でそれ以上手上がらないから!


 「ど、どんなふうに有名なんですかねぇ」


 「不正規の方法で冒険者教会から冒険者のリストを盗み、冒険者として活動してない人を狙ってナンパとかを強行してたんだよ。身体能力を使って盗みとかもしてたっぽいし、何故か今まで証拠がでなくて逮捕に踏み切れなかったんだけど、ナイフの所持も動画に写ってた事だし3人まとめて逮捕かな」


 ……そうかそうか。俺はいいことが出来たみたいでよかったよ。……ということで早く手離してくれないかなぁ!!!痛いんだわ!


 「まあ、とりあえず羽瑠はこの後事情聴取のために署までご同行を」


 「分かったから手離して」


 「はいはい。次約束破ったらもっと痛くするからね」


 そう言って姉さんは手を離す。……やばい。関節に違和感が……。


 「羽瑠ちゃん大丈夫!?」


 俺と姉さんが話終わるとタイミングを見て愛紗が話しかけてくれた。


 「ごめん愛紗〜。この後行く予定だったところ今日は行けそうにないよ」


 「いやいや、全然いいよそんなこと!そうだ!連絡先交換しよ!一段落したら連絡して!私いつでも待ってるから」


 「うん、……うん!もちろん!」


 と言うことで愛紗の連絡先をゲットしました。スマホは女になってから新しいのを買ったからLEINの連絡先のところに姉さん以外の名前が追加される。


 アイコンがガチのJKだ〜。ちょっと怖い。(アイコン初期設定の民)


 「いや〜妹に友達ができたみたいで涙を流したいくらい嬉しいお姉ちゃんなんですが、仕事します。ほら、羽瑠行くよ」


 「またね〜愛紗〜」


 俺は姉さんに引きずられるように連れていかれた。明日の朝には帰れたらいいな。



 羽瑠のやつ、また面白い子と友達になったねぇ。配信で顔も広まったし初配信はすごいことになりそうだな。


 ふふっ、これからが楽しみだ。


 ドSティックな姉、斑目理沙まだらめりさは数日前妹に〝成った〟弟と、特殊なユニークスキルを持っている愛紗を見て心の内でニヤニヤと笑うのだった。

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