第2話 ふっ、超加速!

 あれから、姉貴に各種公共機関を連れられ戸籍を作ったり何なり色々めんどくさいことをした。だがまあやらなければ生きていけないわけだからやるんだけどね。


 そこら辺姉貴は凄い。仕事柄顔が広く俺は知らない人から凄く挨拶された。中には私をみた瞬間すっげえキモい顔をした奴がいた。怖い。


 「人気なんだね。お姉ちゃん」


 「当たり前だろう。妹よ。私は仕事を真面目にやっているからね。まあ伊達にダンジョン対策庁の副官やってないよ」


 因みに、私の一人称や姉貴に対する呼び方が変わっているのは外行用に変えないといけないのが一つと姉に見た目との違和感がすごいと指摘されたからだ。


 「大丈夫?一人で帰れる?」


 「中身大人の男なの忘れるなよ?それに今のステータスなら手を出されても危険はない。どちらかというと相手の心配をした方がいいな」


 「それもそうね。あでも、外で力を使う時は正当防衛の範囲でお願いするわね。擁護できなくなるから」


 「はいはい。じゃまた後で」


 そうして私はある場所に向かう。


 初心者大歓迎!の看板が建てられ辺りには武器や防具を持った冒険者でごった返しになっている。そう。私が来ていたのはダンジョンだ。


 10年前世界のあちこちに突如として現れたダンジョンは世界に混乱と豊富な資源を与えた。ダンジョン産の食材や金属は質が良く、人類の文明の飛躍的成長に多大に貢献した。今でも新しいダンジョンがたまに生まれて資源は無くなるところを知らない。


 《ダンチューバー》ダンジョン発現当初から始まり、今では一つの職業として世間一般に広まっている。


 私が入り口を通ろうとすると後ろの方で黄色い悲鳴が上がる。何があったのか見てみれば知っている顔が人に囲まれながらサインや握手をして回っていた。


 「すっげぇー!本物の綾様だ!」

 「かわいいなぁー本当に同じ女の子なのか疑っちゃうよ」

 「流石ソロで中層に潜れるだけの実力者だなぁ」

 「えでもあれは配信用に安全マージンをとってるからでほんとは下層潜れるんだろ?」

 「流石は氷瀑の騎士様だな!」


 綾は私が昔剣術の指南をした女の子だ。確かあの時18だったから今はもう成人しているのか。私も昔はあんな風に囲まれたなぁ。嬉しい反面対応が凄くめんどくさかったのを覚えてる。


 私は今顔が変わっているし剣術の指南だって片手で数えられるほどしかしてないからなぁ。挨拶したい気持ちもあるがそれは相手にとって迷惑になるだろう。それよりも早く行って人が少ない場所を陣取ろう。そうじゃないと心ゆくままにスキルを試せないからね。


 ウキウキでダンジョン内に入っていく私。


 ダンジョンランクとはダンジョンの難易度を表す指標でSからGランクに分けられている。これは発生場所、ダンジョン内のモンスターの平均討伐レベルでも左右される。


 例えば今私がいるダンジョンは首都にあり対応がしやすく、モンスターのレベルが低いのでダンジョンランクが低く設定されている。


 「ダンジョンランクDでも上層の最初なだけあって雑魚しかいないな」


 ダンジョンに入ってすぐ。早速モンスターと会敵する。相手はスライム三匹。全体の色は薄い青色で世間一般にはデフォルメスライムと言われる個体の群れだった。


 私は家から持ってきた愛刀を鞘から抜く。体がちっちゃくなったことでどうしても違和感がすごい。周りから見ればさぞ身の丈に合わない武器を使っている子に見えただろう。


 だが私が今誰かの視線にさらされることはない。お姉ちゃんが冒険者時代に使っていた隠密行動のローブを貸し受けたのだ。このローブは体の表面が見えないと認識すらされず、身に着けていれば他人からはぼやけて見えるという優れものだ。


 今の私は自分から見ても相当に可愛いと思うし、当てにならないが一応お姉ちゃんの観察眼もある。身は隠していた方が都合がいいだろう。


 そんなことよりスキルの試し打ちだ。スキルにはランクが高すぎてレベルに見合わず使えないということが起こる時がある。配信をするなら自分にできることを把握しておいた方がいいだろう。


 「あーやっぱ《神の一太刀》とかもろ剣を使うタイプのスキルは使えないみたいだな。あ、でも状態異常無効と超加速、物理貫通は使えるのか。身体変化とかは周りに人がいる今は試せないし……」


 私が何のスキルを試そうか迷っているとスライムが体当たりの攻撃を仕掛けてきたので俺は横に飛んでその攻撃を避ける。


 「ものは試しだ、《超加速》‼︎」


 私がスキルの名前を唱えるとなんだかふっと体が軽くなった感覚がした。効果の説明を読むとどうやら超加速は素のステータスの俊敏性を10倍に引き上げるもののようだ。


 いつもの10倍早く動き回れるのは立ち回り的にもかなり楽だ。格上相手にも速さで勝っていればヒットアンドアウェイで一方的に攻撃したり最悪の場合逃げてもいい。


 勢いをつけボールを蹴る要領で思いっきりスライムを蹴飛ばす。


 勢いと足の筋力だけでスライムの体は弾け飛び、粘液を周りに撒き散らして死んでいった。他2体も同様に蹴り殺す。これ結構楽しいな。


 あと試せるのは、《魔法適正:大賢者》か。これはユニークスキルが増えたことで獲得した新しいスキルだな。


 ダンジョンがこの世に発生してからダンジョン内に溢れかえる魔素を人間が吸い込むことによって科学で証明できない超常的な力を得るものが続出した。それが魔力だ。


 魔力には適正というものがあり大きく分けて全く適正ない者、1種類の属性に適正がある者、数種類の属性に適正がある者に分けられる。私は元々全く適正がなかったのだが新しいユニークスキルで見たことのない〝大賢者〟なんていう適正をもらった。


 ユニークスキルの説明にも全属性魔法が使えると書いてあったし火、水、木、草、無の5つの属性が全て使えると考えられる。前4つは名前の通りだが無属性というのは特殊で透明になったり空を飛ぶ魔法だったりが分類される。


 基本の5属性以外の特殊な属性として特殊魔法が挙げられる。特殊魔法は一人一つしか使うことができず属性は光と闇。使うにも才能がいるのでほとんどのやつは使えない。ただ、使えたらどの基本属性の魔法よりも強い。


 「結構深くまできたな。というか前来た時とかこんなに深さあったか?」


 超加速で一気に下っていったので私は今上層からダンジョンの中層まで一瞬で辿り着いた。


 中層ではスライムやゴブリンはでなくなりそれらのモンスターよりもより凶暴なモンスターが出てくる。お、早速出てきたな。


 「中層最初はオークか」


 初心者は基本上層を難なくこなせたりするので調子に乗って中層に降りてきてオークにやられるなんて話はごまんと聞く。それもそのはず。上層と中層では魔素の濃度が上がりモンスターの質も高くなる。


 単純な攻撃力などのステータスももちろん上がるし強くなったモンスターがさらに良く〝群れる〟。ほとんどの初心者は中層で挫折して冒険者を辞めていくのだ。


 今日は新しいスキルを試すというのもあるが新しい体で実際どれくらい戦えるのかというのも実験として兼ねている。強い相手はどんどん出てきてくれるに限る。


 「さあ、俺の糧になれ!」


 超加速で一気に駆け抜けながら時には愛刀で串刺しにしたり、魔法を使って焼き殺してみたりして中層を縦横無尽にかけていく。


 レベルが上がって基本ステータスがとんでもない上がり幅を見せていることに気づかないまま。

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