第59話 高梨由利子は聞いている
秘密特訓も虚しく、ただ今連敗記録更新中。
ついに75連敗。100連敗が近付いて参りました。チクショー。
そんなわけであたしは現在、気を失っております。犯人はあいつです。リョーコです。
「少し……、やり過ぎてしまったようね」
「なかなか目が覚めませんね」
気を失っているはずなのに、周りの状況が見えてます。聞こえてます。
これがあたしの新たな能力、
なんて言うかね、自分の傍にもう1人の自分がいる感じなんだよね。
なんでこんなことができるようになったのかさっぱりわからないんだけど、ひょっとして特訓の成果?
いや、あたしそんな特訓はしてないんだけど?
まぁとりあえず便利な能力ではあるんだけど、みちるが気付いてないってことは魔法的な能力じゃないってことだよね?
じゃあ霊的な能力? なにそれ怖い。
いや、否定したいんだけど……見えるんだよね、何かが。
前にも一度だけ見えたんだけど、いるんだ。人型の何か。
やめてよね? マンガやアニメじゃあるまいし、幽霊なんて非現実的でしょ。
そう、あれは――何かそれっぽく見えるだけの魔力溜まりか何か。
そうに違いない。というわけで現実に意識を戻します。幽霊なんていなかった!
「本当に起きないわね……少し悪戯してみようかしら」
おいちょっと待てリョーコこら。
現実に戻った途端にいきなりピンチだよ!?
「何をする気ですか?」
「……そうね、額に肉の字でも書いてみようかしら」
いつの時代の小学生だよォ!?
「額に肉? なんですかそれ?」
ほらみちるに通じてないじゃん!
って言うかやめて! 年頃の女の子にやるようなイタズラじゃないでしょそれ!
「それより涼子さん、さすがにちょっと……まずいんじゃないでしょうか?」
「確かに、普段ならとっくに目が覚めている頃よね」
そうだよもっと心配してよ! って言うかもっと手加減してよ!
でも、なんか最近多いな。こういうこと。ずっと前は滅多に無かったんだよね。気絶することなんて。
……あれ? ひょっとしてあたし、弱くなってる……?
え、ウソ……。いや、ちょっと……えっ?
「最近、加減が難しいのよ。どうしてもやり過ぎてしまうの」
「何かあったんですか?」
「由利子が強くなっているのよ。手加減している余裕が無くなることがあるの」
え。
「あなたとの
「そうだったんですか」
え、マジ?
「由利子には言わないでちょうだい。この子、すぐ調子に乗るから」
うっふふー? 聞こえてますよー?
え? そうなんだー。あたし、強くなってるんだー。
「わかりました。なるほどそれで涼子さんが本気を出してしまったわけですね」
「いえ、本気は出していないわ。由利子を相手に本気なんて出さないわよ」
は? 言ったなー? 今のはちょっとカチーンと来たぞー? カチーン。
次は本気出させてやんよ!
……しっかしこれ、盗み聞き?できるのは楽しいんだけど、別に何ができるってわけでもないんだよね。
額に肉の字書かれても手も足も声も出ないから見てることしかできないっていう。
あれ、あんまり役に立たないな、この能力。
「それにしても起きないわね。少し乱暴だけれど、気付けでもしてみようかしら」
「あ、それでしたら王子様のキ――じゃなくて人工呼吸しましょう!」
――何言ってんの???
「人工呼吸? 必要かしら」
「必要ですよ! こういう場合は人工呼吸が有効なんです!」
「呼吸はしているようだけれど」
「それでもです! 最新の研究データによると由利子さんが気絶している時は涼子さんが人工呼吸するのが有効らしいんです!」
「研究データがあるのならやるべきなのかしら」
いやどんな研究データだよ!?
局地的すぎるわ! リョーコもちょっとは疑え!
「でも、その……、人工呼吸ということは、唇と唇を付けるのよね? 由利子は嫌がるのではないかしら」
「いえ大丈夫です。女の子同士ならノーカン――無効って言いますし。状況が状況ですから由利子さんも納得してくれますよ」
しねーよ!? いつにも増して強引だなオイ! なんか早口になってるし!
って、スマホ準備してる! 撮影する気か、この!
最近は割と控えめになってくれてたのに、なんでたまに爆発すんの!
あ、そうか。無理に抑えてるから暴発するんだ。
いやそんな冷静に分析してる場合じゃない!
やめさせないと――って、手も足も声も出ねぇぇぇぇぇぇぇ!
「私がやらないといけないのよね?」
「はいそうです。ははははは早く、めめめめめ目が覚めないうちに……!」
――――ッ!
「起きとるわぁーーーーーッ!」
「ひぇぇっ!」
「起きていたの、由利子?」
「今起きたわーッ! でも聞こえとったわーッ!」
お、起きれた……! 気合いで起きれた……!
「みちるゥゥゥゥゥ! ちょっとそこに直れェェェェェイ!」
「ひぇぇぇぇぇごめんなさいぃぃぃぃぃ!」
はぁっ……、はぁっ……、ふぅ……。
まったく、危ないとこだったわ。
…………。
別に、ちょっと惜しかったなんて思ってませんよ?
━━━━━━━━━━━━━━━━
「由利子さん、最近身体強化の魔法とか使ってます?」
「え? し、身体強化? な、なんのことかなー?」
「……使ってるんですね? それが原因ですよ」
「やっぱり身体強化だったのね。秘密の特訓というのは」
うぐっ、誤魔化せなかった……!
謎の新能力についてみちるに聞いてみただけなのに、秘密特訓の内容がバレてしまった……!
「敢えて真紀さんから教わると言うのだから、それだと思ってはいたけれど」
「まぁ、他に無いですもんね」
むしろとっくの昔にバレていた……!
「それで、由利子さんのその能力というか現象ですけど、身体強化をしながら放出系の魔法を使っていると、たまに起こるそうです」
「マキはそういうの無さそうだったけど?」
「誰でもできるわけじゃないみたいです。何十人にひとりとか、そんな感じだそうで」
「えっ、ひょっとしてあたし、天才?」
「物事を深く考えない人とかに多いみたいですね」
「なるほど、それは納得ね」
えっ、ちょっと……? なんか微妙にディスられた……?
「身体強化で全身に魔力が巡っている時に魔力を放出すると、自分自身と大気中の魔力の境目が曖昧になるんだとかなんとか」
「へ、へぇ……」
「それで自分の外側にも自分がいるような感覚になって、周囲の状況がわかるようになるんだそうです」
なるほど、よくわからん。とりあえず霊的な現象じゃないみたいだし、そこは安心しとこ。
「あれ? でもあたし、さっきは身体強化してなかったよ?」
「身体強化はあくまで切っ掛けになることが多いってだけです。一度感覚に目覚めてしまいさえすれば、防御強化とかでも魔力は巡ってるわけですし」
「なるほど」
「本当にごく稀にですけど、身体強化を一切使っていない人でも目覚めることはあるみたいですし」
でもこれ、ちゃんと役に立つ能力なのかな。
さっきも結局何も出来なかったし。強引に覚醒ってのも……ほんっとギリッギリだったしなぁ。
「それで由利子。身体強化を使っているということは、真紀さんのように魔力弾を投げる特訓でもしているのかしら?」
「おっとぉ? 細かいことはさすがに秘密だよ? なんせ秘密特訓だからね?」
「他にも何か考えているようね」
「ふふん、まぁ見てなって」
━━━━━━━━━━━━━━━━
「ってなわけでさ、特訓の中身が少しバレちゃったんだよね」
「まぁ、そこは正直とっくにバレてると思ってたけどね」
「うぐ……。ま、まぁ、新技とかはまだバレてないし?」
というわけでマキと特訓中。あたしは――そう。新技の開発中なのだ。
「でもあれ、本当に完成できるの?」
「う、うーん。正直ちょっと難しいかも……?」
絶賛難航中。いや、技としての形は既に出来てるんだ。
出来てはいるんだけど……。
「今のまま使うと自爆技になっちゃうんでしょ? どうすんのよ」
アイデアは良かったと思うんだけどなー。
実際にやってみたらとんだじゃじゃ馬だったわけだ。
「ランキングの方は順調なのにねぇ」
「そうそう! 聞いてよ聞いて! 252位! 252位なんだよ!」
「聞いた聞いた。5回くらい聞いた」
先月のみちるが257位だから実質みちるに勝ったことになる!
まぁそのみちるは今月204位なんだけど。
ちなみにリョーコは278位。やっぱリョーコに厳しいな。このランキング。
「それで、どうすんの? いざとなったら使うつもりなんでしょ? 未完成でも」
「う……、それは……」
「全く、しょうがないな。とにかく完成を急ご」
「うん。なんかほんとごめん、マキ」
止めても無駄だってわかってるから無理に止めないでいてくれてるんだよね。
ほんとは無茶してほしくないって思ってるのに。ほんとごめん。そして、ありがと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます