第6章 3人寄れば姦しい?
第47話 高梨由利子は堪能する
土曜日。今日は涼子の家にお泊まりの日。そして重大発表がある日。
まぁどうせしょうもないことなんだろうけど、でもたまにとんでもないこと言い出すから油断はできない。
「おっはよー! って、みちるもう来てたんだ」
「いらっしゃい。おはよう由利子」
「おはようございます。今日は飛んで来ちゃいましたので」
なるほど。「飛んで」来ちゃったのね。そりゃ速いし早いわ。
「上がってちょうだい。今日は見せたいものがあるの」
――と言って案内されたのはゲーム部屋。なんならレトロ部屋と言ってもいい。
そこにある押し入れの襖を開けて……。
重大発表、見せたいもの、ゲーム部屋。……あれ? 重大発表って、まさか――
「ついに買ったのよ」
ドヤ顔で押し入れから取り出したそれは……! 往年の名機・スーファニ……!
な、なるほど。これは凄い。この家の文明レベルが数年進んでしまったな……。
いやマジか。重大発表ってそれなのマジで?
「お友達も増えたことだし、一昨日、学校帰りに思い切って買ってしまったわ」
学校帰りにスーファニ買って帰る女子高生とは……。ってかどこに売ってんのよ。
「ゲームですか? すみません、私はゲーム関係は疎くて……」
「ふふっ。これが今話題の最新ゲーム機よ」
ちげーよ。なんでドヤ顔なんだよ……!
ってかリョーコの情報源どこだよ。なんで一昔前――もとい大昔の情報拾って来れるわけ?
「……まぁいいや。ソフトは何買ったん?」
「モリオカートよ。他にも買ったのだけれど、一人用のゲームばかりなの。ごめんなさい」
モリカーかー。あたしも結構やったな。
他にあるのは……ドラクレ5にマリンの伝説……なるほど、こりゃ対戦プレイとかはできないな。
明日は白雪姫電鉄でも持って来てやろうかな。でもとりあえず今日は――
「よーし、モリカーやろモリカー。みちるもやってみようよ」
「そうですね。せっかくなので、やってみます」
「まずは二人でどうぞ。私は勝った方と勝負するわ」
ほう、よっぽど自信があるのかな?
でもリョーコ、買ったの一昨日って言ったよね?
たかだか2日のプレイでなんでそこまで自信満々になれるのか。
ほらこれ、しいたけカップに銅トロフィー付いてるだけじゃん。
「まぁ、やるからには勝たせてもらうよー」
「うぅ、お手柔らかにお願いします……」
さーて、まずはキャラ選択。って言ってもあたしはいつもスモモ姫なんだけど。
あれ、でもひょっとしてみちるもお姫様使いたいかな?
そしたら譲ってあげよっかな。
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「お、おかしいわ。由利子、あなた何かインチキをしたのでは……」
「いや、してないから」
「いえ、おかしいわ。スタートと同時に謎の加速をしていたわ。イカサマよ」
「あれはそういう技があんの!」
「私のルイジーが負けるわけが……」
くうっ、つい本気出しちゃったせいでめんどくさいことに。ちょっと手を抜いとけばよかったか。
でもなー。リョーコには普段
こういう勝負で大人げなくなってしまうのは仕方のないことなのである。
ちなみにみちるとは勝負にすらならなかった。選んだキャラはカメのノソノソで、その走りはまさにカメ。
せめて1周くらいはさせてあげようと思って途中から手を抜いたけど、1周走り切った時点でまるでゲームクリアしたかのような喜びようだった。
「みちるはどう? 楽しかった?」
「はい! ちょっと怖かったですけど、楽しかったです!」
「楽しかったなら良かったわ。次は私と勝負しましょう」
「はい! あ、でも少し練習させてもらっていいですか?」
「ええ、どうぞ」
……………………
…………
「次のカーブは土管があるから気を付けて!」
「間を抜けるのが難しいようならいっそ大回りするといいわよ」
「いえ、間を抜けてみます!」
おっおっ……おっ。ぶつからないで抜けられた。
結構うまくなってきたな。
でも……、ダメだ。どうしても気になっちゃう。
「みちる、ちょっと揺れ過ぎ!」
「そうね。たとえゲームと言えど、上体は安定させておいた方がいいわ」
「は、はい!」
とは言ったものの、言われてすぐに直るわけじゃない。
右にカーブする時は体も右に。左にカーブする時には体も左に。初心者あるあるではあるんだけど。
ああもう。また揺れてる揺れてる。バインバインいってる。
いや揺れ過ぎだってば! これじゃ画面に集中できないじゃん!
しかも若干前のめりになってるせいで、余計揺れが激しくなってる。
って言うか、『それ』が腕に当たってるせいでうまく操作できないのでは?
――あ、土管が目の前に……!
「ひゃああっ!」
うっひゃあああっ! めっちゃ揺れた! 今度は縦に揺れた!
びっくりして飛び上がったもんだから、思いっきり波打っていらっしゃる!
す、凄いな。モリカーやっててこんなのが拝めちゃうなんて思わなかったよ……。
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「負けました~」
「でも随分上達したわ。これはうかうかしていられないわね」
一通り練習を終えてのみちるとリョーコの勝負は、さすがにリョーコの勝ち。
でも今回はみちるも3周までできたし、なかなか上達早いね。
「それにしても暑いわね。少し熱中し過ぎたかしら」
「それもありますけど、今日は真夏日ですから」
……そう、今日は9月も半ばだというのに、真夏日なのだ。
そしてリョーコんちにはエアコンが無い。なのでめっちゃ暑い。というわけで。
「それじゃ、そろそろ着替えよっか。みちる、持って来てくれたでしょ?」
「一応持って来ましたけど……本気だったんですか?」
無論、本気だから昨日のうちに2人に電話で伝えといたのだ。
『水着を用意しとくように』と……!
暑いのにエアコンが無い? だったら薄着になるっきゃないでしょ!
「扇風機ならあるわよ」
「ほら着替えよう! 早く着替えよう! 汗かいちゃうよ!」
「うぅ……、わかりましたよ……」
「扇風機ならあるわよ」
リョーコは華麗にスルーして、一足お先にあたしがここで大胆に着替え――るのは恥ずかしいから――
「んじゃ、ちょっと隣の部屋借りるね」
「どうぞ。では私たちはここで着替えてしまいましょう」
「そうですね」
……え? あたしだけ別室?
いやあたしが勝手に部屋移動したんだけどさ。
ま、まぁいいや。早く着替えちゃおう。
……誰も見てないよね?
いやむしろあたしに覗かれてないか心配される側だった。
覗きませんよー。だってそんな度胸無いもん。
しかし、こんな広い部屋で服脱ぐの、妙に恥ずかしいな。
スカートで来りゃよかった。短パンで来ちゃったから脱がなきゃ穿き替えられないじゃん。
しくった。トイレか洗面所あたり借りればよかった。は、早く着替えちゃいたいのに妙にもたついてしまう……。
「ねえ由利子」
「ほひゃあああ!?」
「あらまだ着替え終わってなかったの?」
「お、女の子はお着替えに時間が掛かるんでぇーす!」
あああああ危なかった……! 上はキャミソだし下もちょうど穿き終わったところだからギリギリセーフ!
……間に合ってたよね? 穿き終わる前から見てたりしないよね?
って言うか襖ちょっと開けて顔だけ出してるのなんなの?
「何? なんかあったの?」
「ええ、水着に着替えたのはいいのだけれど、サイズが合わなくなっている気がするのよ」
「それあたしに言われても困るんだけど」
「みちるに見てもらっても返答に詰まられてしまったのよ。由利子にも見てもらいたいの」
いやまぁ、水着を見るのは本意ですから? そりゃいくらでも見てあげますけども?
なに? ぱっつんぱっつんにでもなってんの? それはちょっと……大変興味深いことでございますなぁ。
「じゃあ見てあげるから。ちゃんと見せてよ」
「ええ。お願いするわ」
そう言って襖を開いて――なるほど、ぱっつんぱっつんですねぇ。
露出の少なめなワンピース水着だけど、これはこれでマニアックで大変よろしい。
紺色だから色彩的にリョーコのイメージに合ってるのもポイント高い。
しかし妙に質感のある生地だな。却って暑そうにも見える。下腹部のあたりは独特な二重構造になっていて――
「スク水じゃねーか!」
「ええ。普通に中学の頃使っていた水着よ」
普通じゃないんだよなぁ……。旧スクは普通じゃないんだよなぁ……。
みちるが返答に困るのも納得だ。そりゃこんなんコメントしづらいわ。
「いつの時代のスク水よ……」
「中学の頃と言ったでしょう」
いやそれは聞いたけど。そうじゃなくてな?
いやまぁブルマとか普通に穿いてたくらいだし、むしろ予想して然るべきだった。
「高校では水泳の授業が無かったから着ていなかったのよ」
むしろ授業があったらそれ着てたの? 高校で?
ってか中学ではそれ着て授業受けてたのか……マジか……。
「中1で買ったんならそれから4年だからねぇ。そりゃ合わなくなるでしょ」
「特に背中側がきついのよ。こことか」
そう言って後ろを向いて――お尻の食い込みを指でクイッと――
――ゴガンッ
「どうしたの由利子? どうして突然柱に顔をめり込ませているの?」
「ああいやうん。ちょっと足が滑っちゃってね?」
「気を付けてちょうだい。柱に窪みができてしまったわ」
そこはあたしの心配じゃないんかい。
「相当強くぶつけたようね。鼻血が出ているわ」
「いや、これは大丈夫だから」
「……でも畳が汚れてしまうからティッシュで押さえておいてちょうだい」
「うーい」
あー、とんでもないもん見てしまった……。
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――さて、いろいろあったけどあたしもお着替え完了。
色は赤。そしてビキニ。デザインは敢えてシンプルに。だって水着って泳ぐためのもんだし?
というわけでいざパラダイスへ!
勢いよく襖をバーン!
「お待たせー!」
「ひゃああああ!? ままま、まだですよー!」
「あああああごめん!」
あああああ焦った。
随分時間経ってるからとっくに終わってるかと思ってた。
「開ける前に確認してくださいよ、もう」
「ごめん。ほんとごめん」
でもまぁ、向こう向いてたし、後はホック留めるだけだったみたいだし、実質セーフよね?
って、いやちょっと待って?
「そっちリョーコいるんでしょ? リョーコに見られるのは平気なの?」
「え? だって涼子さんじゃないですか」
……そうだよね。リョーコになら見られても大丈夫だよね。
あたしに見られるのはアウトだけど。
「終わりましたよ。どうぞ」
ま、まぁいいや。今度こそ、いざパラダイスへ。
襖をすすす……っと。
ほう……!
色はピンクで、フリルひらひらなビキニ。みちるらしい可愛らしいデザインでいいじゃない。
やっぱり水着は可愛いデザインがいいよね。だって他人の水着って観賞するためのもんだし?
正直、みちるは露出とか嫌がりそうだからワンピースかな?なんて思ってたんだけど。
多分それだとサイズが合うのが無くて諦めたんだろうな。主に胸のせいで。
「あの、あんまり見ないでくれません? 恥ずかしいので……」
「大丈夫! あたしだって恥ずかしいから!」
「それならなんでこんなこと考えたんですか……」
「だって……水着……見たかったんだもん……。今年、海にもプールにも行けなかったんだもん……」
思い返せば夏休みずっとリョーコと
そして気が付いたら夏休みは終わってた。
「川になら行ったじゃないの」
「行ったね! そんで修行したり
そもそも水着にもなっちゃいない。何をどう満足しろと。
「夏らしいことなんもやってないんだもん!」
「山にも行ったでしょう」
「行ったね! そんで修行したり
結局のところ、何をしてたかと言われれば地形に合わせた戦闘訓練である。
その傍らで
「とにかく今日は遊ぶの! 夏を満喫するの! ほら2人も遊んだ遊んだ!」
「はいはい」
「まったく、わかりましたよ、もう」
ヘーイ、遊ぶぞイエーイ。
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