第45話 高梨由利子は振り回される

 魔獣退治、つつがなく終了。

 ふっ、あたしたちも様になって来たんじゃない?


「おふたりとも、素晴らしかったです!」

「そう? まぁそれほどでもあるけど?」

「調子に乗らないの」


 いやいや実際あたしらのコンビネーションは大したもんだと思いますよ?


「信頼関係で結ばれてるからこそできる見事な連携です。つい見惚れてしまいました!」


 ほらね? みちるちゃんってばわかってるぅー。


「おふたりはまさしく、魂の絆で結ばれているんですね……」

「そう、魂の絆で……なんだって?」

「こ、ここまでの繋がりがあるなら、す、少しくらい爛れた関係でも納得と言いますか……」

「いや爛れた関係って何!?」

「あ、す、すみません! そうですよね、秘密の関係だったんですよね。気を付けます!」

「だからそもそもそういう関係じゃないって言ってるんだけど!?」


 ちょっとみちるどうしちゃったの!? メルヘン症候群再発しちゃったの!?


「え、だってさっき裸で絡み合う関係だったって……」

「脚色されてる! 絡み合ってない! リョーコも何とか言って!」

「よくわからないけれど……一緒にお風呂に入っただけよ」


 ……そう、お風呂に入っただけ。やましいことなんて何にも無かった。


「お風呂……温泉とかですか?」

「いえ、私の家のお風呂よ。そこでお互いの身体を洗い合ったりしたわ」


 そう、お互いの背中を流しっこしただけで――


「お、お互いの体で洗い合ったりしてたんですか……!」

「変わってる! 微妙に変わってる!」

「いえ、わかってます。そういう文化もありますよね」


 ちっがーう! っていうか何の文化だよ! いやあたしも知ってるけど違うから! そうじゃないから!

 そういうのは夢で見たことあるだけだから! ってあたしも大概だな!


「ということは一緒に寝たりとかはしてないんですか?」

「それは出会った日にやっているわ。由利子のベッドで」

「やややややややっぱりですかぁー!?」

「いやだから違うから! もうリョーコ黙ってろアアアアアアアアア!!!」


 はぁっ、はぁっ、はぁっ。つ、突っ込みが追い付かないんですけどぉ?


「……では、寝てないんですか?」

「いやまぁ、寝たけど」

「由利子の方から誘ってきたのよね」

「ああああああやっぱり……!」


 ああああああたしのバカ!

 突っ込み疲れて生返事しちゃったあああああ!


「私は最初は下だったのだけれど」

「え、ちょっと意外です」

「床で! 寝ようとしてたの!」

「由利子に誘われて上になってみたの」

「そ、それで……?」

「ベッドで! ベッドで寝ただけ!」

「初めてのことだったけれど、思っていたより気持ちよかったわ」

「や、やっぱり相性が良かったんでしょうね……!」

「初めてベッドで寝たけど! 思ってたより寝心地良かった! でしょ!!!」


 通訳が! 追い付かねぇ!

 って言うか通訳しても聞いてくれねぇ!


「だから違うから! みちるが思ってるようなことじゃないからああああああああああ!!!」


 ……………………


 …………


「というわけでね、別にやましい関係じゃないから。OK?」

「あ、はい……」


 い、今までの顛末を説明してようやく納得してくれたよ……。

 でまぁ納得してくれたのはいいけど、なんでそんな残念そうなの?


 ちなみに大事な話だったので3人揃って正座している。山の中で。我ながらシュールな光景だ。

 しかし、思わぬ長話になってしまった。これもう今日はお開きだな。


「遅くなっちゃったし、今日はもう終わりにしよっか」

「そうね。また明日にしましょう」

「ほら、みちるもそんな落ち込んでないで」


 って言うかなんでそんな落ち込むのよ。

 あたしたちに何求めちゃってんの?


「いえ、すみません。確かに考えてみたら由利子さんにそこまでする度胸とか無さそうですもんね」

「そうそう。……ってなんで今ディスられたの?」

「ちょっと、妄想が先走っちゃってました。おふたりが特別な関係だったらなって」


 先走り過ぎだってばもう。

 それでなんでさっきディスったの? ねぇ、なんで?


「もういっそ結婚してたりだとか」

「そう言えば由利子が結婚できなくなったら私が責任を取るという話ならしてたわね」

「また誤解される話持ち出すなよオオオオオオイ!」

「そ、それはどんな情事があってそんな約束を……?」

「ほら誤解されたリョーコあんた意味通じてないくせになんでこのタイミングで蒸し返すんじゃあああああまた説明し直しかよオオオオオオオオオオオオイ!!!」


って言うか情事って、せめて事情って言えええアアアアアアアアア!!!



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



 ようやく、家に、帰って来た……。

 つ、疲れた……。今日は本当に、疲れた……。


 なんなの、みちる。本当になんなの?

 ひょっとしてあれが素なの?


 あ、あたしはとんでもない爆弾を解き放ってしまったのかもしれない……。

 爆弾ならそのおムネに付いてるのだけで足りてるんですけどぉ……?


 いや、みちるもみちるだけど、リョーコもリョーコよ。

 なんであんな無警戒に起爆スイッチ押しちゃうの?


 やべぇ。みちる爆弾と無自覚チャッカマンのコンボ、最凶では……?

 しかも何故かあたしだけが爆心地にいる。やべぇ。


 いやね? ほんとにね? リョーコとはそういうのじゃないんだからね?

 そりゃね? あたしだってね? 結婚とか憧れてるけどね? 今はまだ恋だの愛だのとは無縁でいたいのよ。


 む、無縁でいたいのに2人のせいで変に意識しちゃったじゃん……。

 お、落ち着け落ち着け。平常心平常心。


 ふぅ……。


 でもま、生き生きしたみちる見てると、あたしも頑張った甲斐があったって思えるんだよね。

 できればもっとこう、普通に笑顔になってくれると良かったんだけど……ま、まぁいいでしょ。なんだかんだ楽しいしねー。


 ……なんだろう。なんか振り回されっぱなしのような気がするのに妙に心地よく感じるのは何故だろう。

 あれ、ひょっとしてあたし、マゾ……?


 いや、いやいやいや、そんなこと……無い、ですよ?

 そりゃあリョーコの足技食らってウヘヘってなったりもするけどそれとこれとは関係ないはず。きっと。多分。

 だから無いですよね? はい、無いです。決定!


 というわけであたしの潔白が証明されたところで、さて、お風呂入って寝るかー。


 …………。


 いや明日も学校あるんだよ! 今から準備かよチクショー!

 ああああ洗濯もしなきゃいけないのにー!

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