第43話 高梨由利子は慰める
「ご、ごめんリョーコ。ほんと、ごめん」
「わ、私も、助けていただいたのに逃げてしまって、すみませんでした……!」
「いえ、いいのよ。問題無いわ。だって私は、元々一人だったんだもの……」
あああ、リョーコがいじけてしまった。大きめの木に背中を付けて、体育座りしてる。
やばい。過去最大級のネガティブモードに入ってしまった。
でもそれもそのはず。
だって今、リョーコのことを慰めているはずのあたしたちは、3メートルの距離から近付けずにいる……!
ダ、ダメだ。こんなんじゃ、ダメだ……!
踏み出せ、一歩を……! そして二歩を……!
「駄目よ、由利子。あなたまで穢れてしまうわ」
「穢れても……いい!」
「由利子……?」
そうだ……! リョーコは、その身を穢れさせてまであたしたちを守ってくれたんだ……!
それをあたしは……! 悲鳴を上げて、あまつさえ逃げるだなんて……っ!
「あたしも一緒に穢れる! それでリョーコの穢れも半分になるでしょ!」
「そんな……、由利子、駄目よ……」
「駄目なもんかぁぁぁぁぁっ!」
三歩、四歩……そして。
リョーコの手を取る。木の根元に座り込んでいるリョーコの手を引いて、立ち上がらせる。
「ごめん、リョーコ。あたし……バカだった」
「本当に……馬鹿よ。大馬鹿だわ。私なんて、放っておけばいいのに……」
「そんなこと、できないよ! だってあたしたち、友達じゃん!」
「由利子……」
よかった。リョーコが……立ち直ってくれた。
「由利子……。本当に、こんな私を受け入れてくれるというの……?」
「当たり前でしょ」
「ああ……、由利子……!」
……って、ちょ待っ、抱きついてきたぁぁぁぁぁぁ!?
待っ、待っ、ちょっ、これ別の意味で心臓に悪いんですけどぉぉぉぉぉ!?
そ、そうだ、みちる! みちる! ちょっと助け――
……みちる、なんで顔真っ赤にしてスマホこっち向けてんの……?
ねぇ、なんで撮影してんの? あ、隠した。
「あ、ち、違うんです。その、私的には由利子さんは無しかなって思うんですけど、でもおふたりがそういう関係なら応援したいなっていうか」
「いやそういう関係ってどういう関係っていうか違うから! そういうのじゃないから!」
そんなことより助けて欲しいんですけど!?
あっ、こら! 観戦モード入るな! なんで木の陰に隠れてんの!
ああああもう! 受け入れりゃいいんでしょ受け入れりゃ!
あたしの胸で泣くがいいわぁー!
っていうか今さりげなくディスられたよね?
みちる的には無しって何?
━━━━━━━━━━━━━━━━
「……みっともないところを見せてしまったわね」
「……いや、いいんだけどね」
「そうですよ、気にしないでください!」
なんでみちるが言うの? っていうかなんでそんなツヤッツヤに上機嫌なの?
「まぁとにかく、いい加減戻ろっか」
「そうね」
はぁ……。なんか、いろいろあったな。
何故だろう、魔獣退治以外の部分で疲れたような気がする。
「それで、明日もまたここで魔獣退治ってことでいいかな?」
「私は問題無いわ」
「私も大丈夫です」
「本当に大丈夫? 結構魔力使ってたと思うけど」
「大丈夫ですよ。最初の大型以外は全部涼子さんが倒しちゃいましたし。このくらいなら一晩で回復します」
ほえー。元が多いから回復も早いんだな。羨ましい。
「そんじゃ、荷物取ったら帰りましょっと。明日はリョーコんち集合ってことで」
さぁ、帰って寝るぞー。
━━━━━━━━━━━━━━━━
なんか興奮して眠れない。
1日でこんなに溜まるもんなんだな、マギリア。初めて大型倒したけど、3人で割ってもこれかー。
これはひょっとして、来月にもAランクなれちゃったりする?
正直なところ……意気込んではみたものの、ぶっちゃけ来月はまだ厳しいだろうなって思ってた。
理由は2つ。まず出遅れた。
Aランクの発表は毎月5日に行われるわけだけど、今は9月の中旬。
10月期の選定は今月末までの活動で決まる。
つまり半月ほど出遅れてしまったわけだ。このハンデは滅茶苦茶大きい。
次に、初昇格に対して委員会が慎重になるらしいこと。
総合点がギリギリだと、割と保留にされてしまいがちだと言われてる。
これはまぁ、そう言われてるってだけでちゃんとした根拠があるわけじゃないんだけど。
とにかく不安要素は多い。
でも絶対不可能ってわけじゃない。
いやまぁさすがに今日のペースがずっと続くってことは無いだろうけどね。
でもスタートダッシュでこれだけ取り戻せたんなら、ひょっとしたらひょっとする……?
いや違う。ひょっとしたら、じゃない。絶対にやり遂げるんだ。
決めたんだ。みちるみたいな悲劇はもう無くすんだ、って。
「いつか」なんて言ってちゃダメだ。1日でも早く。そのためには来月Aランクになっておかないと。
そうと決まったら気合い入れて寝るぞー!
……いや気合い入れてどうすんの。余計寝付けんわ。
━━━━━━━━━━━━━━━━
結局なかなか寝付けなかったあたしは秘技『授業中に寝る』を敢行。
良い子のみんなは真似しないように。あたしみたいになっちゃうぞ?
とまぁそんな感じで本日を乗り切り、今はリョーコんち。
あとはみちるが来れば……っと、来た来た。
「お待たせしましたー」
「問題無いわ。まだ時間前よ」
さて、3人揃ったことだし、今後の方針と行きますか。
「さっきリョーコとも話したんだけどさ、今日は昨日の続きじゃなくて、麓の方から上がってこうかと思うのよ」
「麓の方からですか?」
「そ。山頂付近の方が魔獣発生しやすいでしょ? 麓から上がってけば山頂付近に行く頃にはまた発生してるかも知れないじゃない?」
「それに、人里近くに魔獣が発生していたら危険だわ。先に麓の方を見回っておきたいの」
「そうですね。ではそれで行きましょう」
と、話もまとまったことだし早速出発。
昨日編み出した合体魔力感知も展開して麓から螺旋状に山頂を目指す。……しかしこれ、ほんと効率いいな。
普通はそこまで広範囲は感知できないからどうしても漏れが出ちゃうんだけど、これは漏れが出ない。
左右100メートルくらい被らせる感じでルート構築してるらしいから、少なくとも地上にいる魔獣は完璧に見つけ出せる。
「早速いました! でも地下20メートルくらいです。どうします?」
「んー、あんまりみちるの負担は増やしたくないんだけどあたしらじゃどうにもならないし……頼んでいい?」
「はい。このくらいなら問題無いですよ」
うーん、どうしてもみちる任せになる状況が増えちゃうなー。
でも地下20メートルなんてどうしようもないし。スコップで掘ってみる? いや何時間掛かんのよ。
――そう、魔獣は地中にもいる。地中の魔獣は見落とすのが普通なのに、こんな簡単に見つけてくれちゃった。
今は1匹でも多く退治したいからこれはありがたい。とにかく少しでも無駄を無くして、効率よく――
――ギャボォッ
……轟音と共にみちるの魔力砲が地面をブチ抜いた。
凄いなこれ。口径を絞って、無駄なく効率よくブチ抜いた。
そして余波で地面が抉れてひっくり返った。
地面がひっくり返る? なんのこっちゃ。これ結界の外でやったらガチで地形が変わっちゃうな……。
「終わりましたー」
「お疲れー」
「お疲れ様」
って言っても全然疲れた様子も無いんだけどね?
改めて規格外の魔力に感心する。というかビビってる。
真面目にあたし、どうやってこの子に勝ったのよ?
もっかい
うぅーん。みちるの貢献度が凄まじすぎる。
本人は快く受けてくれたけど、ここまで来るとさすがに申し訳なくなってしまう。
でもまぁ、今のみちる、めっちゃ活き活きしてるんだよね。
「さぁ、次に行きましょう!」
満面の笑顔でこんなん言うんだもん。こっちが勝手に気後れするのも野暮ってなもんだよね。
せっかくだからここは甘えさせてもらっちゃおっかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます