第41話 高梨由利子は合体する
魔獣退治もなかなか順調だね。ひと悶着あった大型魔獣もなんだかんだ問題なく倒しちゃったし。
なんか気付いたらみちるの調子も戻ってるみたいだし、まだまだ行けそうだ。
あの後、山頂付近にも中型の魔獣が1体いたけど、これはリョーコが1人で倒しちゃった。
それで今は山頂に到着して一息ついているところ。
「それにしても、あんな人里近くにまで大型の魔獣が出るのね」
「まぁ、あの辺リョーコんちしか無いからね、人里と言うにはちょっと、ね」
「もう少し家屋が集中していないと、魔力の流れも安定しないので……」
「そういうものなのね」
しかも一人暮らし、かつ住んでるのが一般人並みの魔力しか持たないリョーコ。
これではどうにもならない。
「でも、あの場所なら最初に襲われるのは我が家なのだから不幸中の幸いだったわね」
「良くないでしょ。リョーコあんた、結界張れないでしょ。結界の外だと家を壊されたら壊れたまんまなのよ」
「……そう言えばそうだったわね。それは……困るわ」
「えぇ? そういう問題なんでしょうか……?」
実際そういう問題だったりするから困る。
リョーコなら魔獣に限らず危険生物が接近して来れば寝ていても気付く。はず。
寝込みを襲われることは無いわけだから問題なく撃退できる。
さすがに大型の魔獣を倒すのは無理だけど、追い返すくらいはできるはず。
となると問題になるのは家が無事かどうか、だけなのである。
まぁそれはそれとして。
「でも魔獣は基本的に人里にまでは降りて来ないから、人里が襲われる心配は無いと思っていいのよ」
「あら、そうなの?」
「これには諸説あるんですけど、どうも魔獣は魔力濃度の高い場所に近付くのを避けてるらしいんです」
「あら、魔獣は大気中の魔力を吸収しているのよね? それなら濃度が高い方がいいのではないかしら?」
リョーコの疑問ももっともだ。でも――
「それって、傷付いた
「自分が自分であろうとするための本能的な行動、だったわね」
「でも結局、吸収した魔力は肉体の方に吸収されてしまうんですよ」
そして、それが魔獣にとっての悲劇になってしまっているわけだ。
「それも聞いたわね。吸収した魔力によって肉体を際限なく強化し、変異させていく、と。なるほど合点がいったわ」
「皮肉な話よね」
「ちょっとかわいそうです」
自分が自分であろうとするための本能的な行動のせいで、逆に自分が自分でなくなってしまうわけだ。
「本能を止めることができないなら、せめて魔力濃度の低い場所に留まろう、というわけね」
「あくまで諸説ですけどね」
あくまで諸説のひとつ……なんだけど、信憑性は高いと言われてる。
何故なら『魔獣同士で争いにならないのは何故なのか』という疑問にも説明がつくからだ。
魔獣同士で集まっていれば1体あたりの魔力吸収量は減るわけだから、むしろ居心地がいい、となるわけだ。
でもまぁ、今みちるが言ったように、「ちょっとかわいそう」。その通りだ。
魔獣は危険だし実際に被害も出ているけど、魔獣それ自体は悪じゃないわけで。
この話を知ってしまったら、魔獣を可哀相だと思ってしまってもおかしなことじゃない。
これは一応、今のうちにみちるに確認しておくべきかも知れないな。
「みちるはさ、平気なの?」
「魔獣退治が、ですか?」
「うん。もし辛いなら――」
「大丈夫ですよ。もう慣れましたし、それに――」
ちょっと、大人の表情だ。いろんなものを乗り越えて来た顔。
まるで年上のようにも見えてくる。
「『魔獣退治は慈悲の心で』。この言葉に救われてます」
慈悲の心――そう、決して正義の心じゃない。悪だからだとか、危険だからだとかじゃない。
可哀相だからこそ、哀しい
誰が言った言葉なのかもわからないけど、それでもこの言葉に支えられてる魔法少女はたくさんいる。
とは言え大半の子たちはマギリアのためって割り切っちゃってるんだろうけど。
なんにせよ大丈夫そうで良かった。
それなら――さっきちょっと思い付いたことがあるんだよね。提案してみよう。
「じゃあさ、ちょっと提案。みちるの魔力感知って、もっと上下左右に広げられない?」
「出来ないことはないですけど……それだと前後が狭まっちゃいます。真正面の魔獣の発見が遅れると危険ですよ?」
「それなんだけどさ、あたしら2人でくっついちゃえばいいんじゃない?」
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「くっつくって、こういうことだったんですね」
「いや、どういうことだと思ったの?」
何でさっき、くっつくって聞いただけで真っ赤になって後ずさりし始めたりしたの?
身の危険を感じるようなくっつき方とか想像しちゃった?
「何でもないです。忘れてください!」
まぁみちるを弄るのはほどほどにしておいて。
というかあたしにくっつかれたら身の危険感じちゃうよね。うん、ごめん。
というわけであたしたちはくっついた。正確には、魔法を合体させた。
みちるの平べったい魔力感知を更に平べったく伸ばして広げて。
前後幅が狭まった代わりに上下左右が半径300メートルほどにまで広がったのだ。
そしてその中心にあたしの球体型魔力感知をドッキング。
土星みたいな……と言うにはちょっと輪っかの自己主張が激しすぎるかな?
むしろ輪っかが本体で中心がオマケなのよね、これ。
まぁとにかく。上下左右を広げて索敵の効率を上げつつ、前後の警戒も怠らない究極の魔力感知が完成したのだ!
この世紀の大発明に、隣で見ているリョーコさんも――
「二人で楽しそうね」
「い、いや別に2人だけで盛り上がってるわけじゃ――」
「いえ、問題無いわ。ええ、問題無いの。だって私は……元々一人だもの……」
い、いじけるなよぅ……。
言うまでもなく、この合体魔力感知にリョーコは一切関与していない。さもありなん。
ともあれ、これで魔獣退治の効率は上がるはず。さぁ、張り切って行くぞー!
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