第40話 西園寺みちるは吹っ切れる
はぁ……。失敗してしまいました。
せっかくお役に立てると思ってたのに。
結局あの後、由利子さんがどうにか魔獣を引きはがしてくれてそのまま撤退。
涼子さんも、大型が相手では決定打が無いので撤退。
チーム結成後の記念すべき初陣だったのに、私のせいでこの有様です。
「そんなに気にすることはないわ。場所はわかっているんだもの。もう一度挑めばいいだけよ」
「うぅ……、はい」
気を遣わせてしまいました。しょぼん。
「でも今後のためにも反省会はしておきましょう。みちる、魔力感知を切ってしまっていたそうね?」
「あ……、はい。大型の方に集中しようとして、つい」
「あたしももっと早く援護に回るべきだったけど……魔力感知は切っちゃダメよ」
「はい、すみません……」
うぅ……、今まではこんなこと無かったのに、なんで今日に限ってこんなことに。
「ひょっとしてみちる、今日ちょっと調子悪い?」
「確かに、動きが少しぎこちなかったわね。緊張のせいかと思っていたのだけれど」
「言われてみると、なんかいつもと違うような気がします」
「今まではどうしてたの? 魔獣退治の時」
今までは……今までは……どう、と言いますか……。
「如月さんの指示で動いてました。言われるままに」
「……あー、ひょっとして」
「むしろ緊張状態に慣れ過ぎていたのかしら」
「えっ、あ……、そうかも知れません」
やらなかったら怒られる。手順を間違えたら怒られる。とにかく失敗したら怒られる。
怒られるのは嫌だ。だから失敗するわけにはいかない。
追い詰められていたからこそ、今までは出来ていた……?
「んー、あたしとしてはある程度自由に動いてもらいたいんだけどね」
「そうね。作戦のすり合わせは必要だけれど、臨機応変に動けなければ」
「でも、どうしたら……」
「ま、そのうち慣れるでしょ。とりあえずはあたしらがフォローするから、さ」
慣れる……でしょうか……?
「それに反省ってことならリョーコもよ。突入するの少し早過ぎたんじゃない?」
「確かに、少し気が急いていたかしらね」
「なに? 早く魔獣退治で役に立ちたかった? 穀潰しは嫌だもんね?」
「う……、いいじゃないの、そんなことは……」
珍しく涼子さんがからわかれちゃってます。確かに涼子さん、気にしちゃってましたもんね。
「それを言うなら由利子もでしょう。もう少し早くみちるを助けに入れていたのではないかしら?」
「う゛……、それは……」
「いえあの、それは仕方ないですよ。あんな状況だったんですし」
「そう! そう! あれは仕方ないの! あんなくっつかれちゃってたら、ねぇ?」
「まあ……、それはそうなのだけれど」
「いくらなんでもあれはエロ過ぎでしょ……」
え、今なんて? 小声だったんでよく聞こえなかったんですが……。
いえきっと聞き間違いですよね。
「それにしても大きかったわね」
「あぁうん。おっきかったね」
「あんな風に何倍にもなってしまうのね」
「え? いやさすがに何倍もにはなってないんじゃないの?」
由利子さんがこっちを見ながら……なんでこっち見ながら言うんです?
「そうかしら。でも元は1メートルかそこらよね?」
「いちめーとるぅ? それもう魔乳とかそういうのでしょ?」
「ええ。だから魔獣の話をしているのだけれど」
ええ。魔獣の話……ですよね?
あれ由利子さん今魔獣って言いましたよね?
「みちるも何とか言ってよ!」
えっ、こっちに振られちゃいました。何とかと言われましても……。
「あんなはち切れそうになってたからって、何倍も無いでしょ何倍もは! それに元は80かそこらでしょ!?」
「えっ、何の話ですか?」
「何の話をしているの、由利子」
「えっ? だってみちるって細身だし数字にするとそんなもんじゃ……」
「だから何の話をしているの」
「えっ」
話が止まってしまいました。本当に何の話だったんですか?
いえここまでに出て来たワードを繋ぎ合わせてみるとなんだかものすごく最低な思い違いが発生している予感しかしないんですけど……。
「いや、だからみちるが蛇に巻き付かれて……」
「その蛇の魔獣の話でしょう?」
「まじゅう?」
「ええ、魔獣……って、由利子あなた本当に何の話をしていたの?」
由利子さんが冷や汗を流しながら黙ってしまいました。
これは確定ですね。というか……そう言えばこの人、前科がありましたね。
「……そう、そう! 魔獣ね! 3メートルくらいはあったねー。あれはおっきかったわー」
「誤魔化さないで、由利子」
わざとらし過ぎます。目も泳いでますし。
「由利子さん、これ以上怒らないですから正直に言ってください?」
「お、怒らない? 本当に怒らない? って、これ以上って……えっ、もう怒ってる?」
「これ以上怒らないですから正直に言ってください? 私の胸がどうかしたんですか?」
「胸? 胸の話をしていたの?」
にこーーーーっ。
小首を傾げつつ両手で胸を隠すように抱きながら。
涼子さんは上から見下す――もとい見下ろす感じで。
じとーーーーっ。
「待っ……待って? 誤解……誤解だから……」
誤解ですか? 何がどう誤解なんでしょうね?
「あのね? 胸も確かに凄かったけどね? それよりも顔がね? なんかすっごくエロくってね?」
「あっはい。そうですか」
「それで? どうしたのかしら?」
「だからね? 胸よりむしろそっちに目が行っちゃってね? だからあたしは無罪……なんて?」
はい有罪確定ですね。冷ややかな空気が流れてます。氷点下です。
あ、涼子さんが由利子さんに向けて歩き出しました。
「えーっと、あたし、何かおかしなこと言った?」
「おかしな? いえ、いかがわしい発言をしていただけだから何も問題は無いわ」
「ちょっ、何も問題無いなら何で拳を固めてるのかなあぎゃーっ!」
「暴れないの。まずはみちるを辱めたぶんよ」
あああ、大変です。由利子さんがゲンコツで抉られ?てます。
いえ確かに私も思うところはありますけど、さすがにこれは止めないと。
「待ってください涼子さん! 私のことはいいですから!」
「……そう?」
「わあい! ありがとうみちる! みちるちゃん天使!」
「ええ、私のぶんはいいですから、涼子さんが満足したら終わりでいいです」
「わかったわ」
「あれ、ちょっと待って止めるならちゃんと止めて!? あれやっぱりみちる怒ってる? 怒っちゃってる!?」
……もう、何を言ってるんですか由利子さん。私が怒ってるだなんて、そんなこと――
はい、もちろん怒ってますよ?
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それでは気を取り直して、リベンジです。改めて魔力感知も張って……と。
「はい、魔獣はさっきの場所にまだいますね」
「では行きましょう」
「ふぁい……」
なんだか始まる前から由利子さんがダメージを受けてますけど……まぁ仕方ないですよね。
っと、見えました。大型が1体と、さっきのヘビが1体。小型の魔獣はさっき全部倒しちゃってたらしいのでこれで全部ですね。
「由利子、さっきの罰よ。一人で行きなさい」
「えっ!? あたし1人で!?」
「嫌なのかしら?」
「はい、行きまーす! 行ってきまーす!」
本当に1人で行っちゃいました。
私も
「心配かしら?」
「え? えぇ、まぁ……」
「大丈夫よ。あの子、やる時はちゃんとやる子だから」
「それは、まぁ……」
実際、ほんの数日前に由利子さんの雄姿を目の当たりにしたわけですから。
……それなのになんでこんなに頼りなく感じるんでしょうね? おかしいなぁ。
「それよりみちる、すっかり自然体になったわね」
「……はい?」
「不思議よね。あの子といると、少々のことはどうでもよくなってしまうことがたまにあるのよ」
「あ……、そう言えば……」
失敗して落ち込んでたのが、なんかいつの間にかどうでもよくなっちゃってました。
「別に意図してやっているわけではないのでしょうけれど……、これも由利子の才能なんでしょうね」
「ふふっ、そうですね」
視線を前方に戻すと、由利子さんが魔獣相手に大立ち回りしてます。
涼子さんほどスマートではないですけど、魔獣の攻撃を見事に捌いてます。あ、蛇の魔獣を倒しました。
魔力の
「由利子さん! 離れてください! 撃ちます!」
「待ってましたぁー!」
由利子さんが離脱したのを確認して――魔力砲・発射!
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