第39話 高梨由利子は見てるだけ

「来たわよ、由利子」

「いらっしゃーい。どうぞどうぞ入ってー」

「お邪魔しますね」


 2人を玄関でお出迎えして、そのままリビングへご案内。

 そしてあたしはキッチンへ。


「今日はもう体調万全だからねー。気合い入れてお料理しちゃったよー」

「それは楽しみね」

「わあ、いい匂いです」


 今までは和食メインだったけど、今日はみちるがいるから洋食にしてみた。

 なんとなくみちるって洋食のイメージだし。

 というわけでオムライス。そしてポテトサラダにコンソメスープ!


「はい、お待ちどうさま」

「オムライスですか。そう言えばオムライスって最近食べてなかったんで懐かしい感じです」

「ちなみにみちるは洋食が多い感じ?」

「そうですね。といいますか、どうしてもパスタとかの簡単なものになってしまって……」


 まぁ、パスタは楽だもんねー。あたしも時間無い時は麺類になりがちだしね。


「ちなみに中のチキンライスは国産鶏ささみを使ってるよー」

「それは楽しみね」


 鶏ささみに反応したな? 和食じゃなくて微妙にテンション落としてたくせにゲンキンなやつめ。

 でもオムライスは日本発祥なんだぞ?


 何はともあれ和食派のリョーコもこれにはご満悦。

 さて、2人の胃袋を掴んだところで――


「でさ、今日の魔獣退治、やっぱりリョーコんちの裏山がいいと思うのよ」

「そうね、悪くないわ」

「山……ですか。ここから遠いんですか?」

「少し遠いわね。ここより少しばかり田舎よ」


 いやガチの田舎でしょ。少しどころじゃないからね?


「魔獣退治ならリョーコんち集合の方が都合いいからね。みちるに家の場所教えておきたいのよ」

「そうね。そうしましょう」

「リョーコさんの家ですか。やっぱり日本家屋なんですか?」

「ええ。比較的和風ね」


 いやガチの日本家屋でしょ。何と比較しての比較的なのよ。


「そんじゃ、食べ終わったら行こっか」



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 リョーコの家の前に降り立つ。もう時間も遅いので変身して飛んできた。

 おかしな話だけど、飛んできた方が早いんだよね。若干一名、走ってきたのもいるけど。


「ここが、私の家よ」

「わぁ~、おっきいですね」


 みちるが驚嘆の声を漏らす。

 あぁ、確かにおっきい。感動的ですらある。


 みちるはここへ来るまでの間、手提げポーチを両手で、体の前で持っていたのだが――

 リョーコの家を見て感動したせいか、今は肘をこわばらせるように、内側に寄せているのだ。


 その結果――二の腕で胸を、挟み込むように……!

 いや、他意は無いんだろうけど、なんでそんな強調してんのよ……! 気が散るでしょうが……!


 飛んでる時は飛んでる時で前のめりな体勢だからそれはそれで目のやり場に困ったし。

 振り向いたら胸の谷間が見えるこっちの身にもなってよね。ありがとうございました。


 ってか何を食べたらそんなにでっかくなるんだろ?

 あ、なんでも食べるのか。


「では荷物だけ置いたらすぐに行きましょう」



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「それじゃあみちる、索敵はお願いね」

「任せてください」


 みちるが感知フィールドを展開――あれ? これあたしのより小さい?

 あ、いや違う。これ楕円形――というかマーブルチョコみたいな形してる。


 あたしのは半径100メートルの球体なんだけど、みちるのは前後に狭くなってるぶん上下左右に広がってる。

 移動しながら索敵するなら、これは効率いいな。


「これ、上下左右は何メートルくらいあんの?」

「半径250メートルですね」


 ヒエッ! こりゃ捗りそうだわー。


「これ自分で改良したの? あたしもカスタマイズとかしてみたいけど頭良くないからねー」


 魔力感知に限らず、既存の魔法をマニュアル通りに使うと誰が使っても同じ形状、同じ効果になる。

 魔力量とかで大小や強弱に差は出てくるけど、本質的なところは変わらない。

 その本質的な部分を変えようと思ったら自分でアレンジを加えないといけないんだけど、これがなかなか難しい。

 形を変えるだけなら難しくはないんだけど、ちゃんと最適化出来てないと強度やら精度やらが落ちてしまうんだ。


「? 由利子さんだって同じようなことしてたじゃないですか」

「え、あたし何かやっちゃったっけ?」

「ほら契約戦プロミスで。ピラミッド型の障壁シールド張ってたじゃないですか」


 あ、あーあー。やったやった。


「あれね。なんかもう咄嗟にやっちゃったって言うか。死にもの狂いだったから。なんかできちゃった、みたいな?」

「えぇ……、咄嗟に出来ちゃう方が凄いですよ」

「え、そうかな?」

「アレンジ加えてる人はよくいますけど、咄嗟にできちゃうのはもう、才能じゃないですか?」

「え? ひょっとしてあたし、天才……?」

「あんまりおだてては駄目よ。調子に乗るから」

「乗りませんよーう」


 リョーコってばもー。ちょっとくらいいい気にさせてくれてもいいじゃーん。


「とにかくそろそろ行きましょう?」

「はい。では行きますね」


 というわけでみちるレーダー発進。まずは山頂へ。

 魔獣の発生率は人里から離れるほど高くなるからね。天辺からぐるぐる周りながら下りて来るって寸法よ。


 さぁいざ山頂へ出発――というところで。


「! いました。……大型です!」

「いきなり!? 幸先いいじゃん♪」

「はしゃがないの。場所はどのあたりかしら?」

「はい。右手側、200メートルくらいです。大型以外にも中型が6体、小型は……17体です」


おっと、思った以上の大きな群れだった。

これは気を引き締めて掛からないと。


「さすがに多いね。先に少し減らさないと」

「いえ、問題無いわ。あなたは適当に立ち回ってちょうだい」


 テキトーにって……あぁ、適当に、ね。

 あたしはテキトーな方が性に合ってるんだけどね。


 そんじゃま、行きますか。



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 結界を張って魔獣に接近。いるいる。たくさんいるなぁ。

 5体……10体……たくさん! 数えきれない! 


 というわけで大型は……あれか。オオカミ!?

 いや、犬だ。まぁ犬だよね。ここ日本だし。


「う……、鳥の魔獣が3体4体……5体か。面倒だなぁ」


 鳥。鳥かぁ。鳥は言うまでもなく飛ぶから空中にいても安全地帯にならない。

 充填チャージ中のみちるが狙われる可能性もあるし、先に仕留めておきたいんだけど……魔力弾も当てにくいから面倒なんだよね。

 1体だけならどうとでもできるんだけど、5体となると……仕方ない。


「みちる。まず追尾弾ホーミングで鳥だけ倒してくれる? 大型の方はそれからで」

「わかりました。んんっ……」


 みちるが追尾弾ホーミングのために集中を始める。魔力砲台サテライトも5基設置。

 これはあたしとの契約戦プロミスで使ったのとはちょっと違う。あたしに撃ったのはせいぜい『避けにくい』という程度の追尾性能。

 今撃とうとしてるのは『当たるまで永遠に追い掛ける』完全な追尾性能。間に障害物でも挟まれない限り、いつか必ず当たる。


「――えいっ!」


 発射された光弾が――魔獣目掛けて飛んで行く。と同時に危険を察知した魔獣が木の枝から飛び立つ。

 でも光弾の方が速い。逃げても逃げても追い掛ける。まずは1体。


 そして2体、3体、4体……最後の1体にも命中。お見事!

 ただそのうち2体は完全には倒し切れてないっぽい。


「す、すみません! 2体倒し損ねました!」

「問題ないよー。任せて」

「私も突入するわ」


 魔獣の群れに飛び込んでいくリョーコを横目に、討ち漏らした魔獣に追い打ち。

 もう飛べなくなってたから難なく命中。


「よっし。小型と中型はあたしたちに任せて。みちるは大型をお願い!」

「は、はい!」


 ん? みちるの動きがちょっとぎこちないな。

 さっき倒し損ねたの気にしてるのかな? 当たってたんだから別にいいのに。


 さて、みちるは魔力砲の準備に入ったし、あたしはリョーコの援護っと。本人は大丈夫って言ってるけど、さすがに数が多いからね。

 ……ふむ。本当に多いな。1体ずつやってたらキリが無い。よし。


「リョーコ、そこ動かないで」

「わかったわ」


 言われた通りにその場から1歩も動かずに魔獣の群れを翻弄してる。

 大型も混ざってるのに相変わらず凄いな……と思いつつ魔力砲台サテライト設置。


 さて、大型にだけは当てないように――魔力弾・乱射!


  ――ドドドドドドドドドドッ!


 おっと、大型だけじゃなくてリョーコにも当てちゃダメなんだ。まぁ当てようとしても当たらないんだけど。

 とりあえず、今ので8割くらいは倒せたかな? これでもう大丈夫でしょ。


「由利子。ちゃんと狙いなさい。大雑把すぎるわよ」


 う……、手厳しいなぁ。


「でも楽になったわ。ありがとう」


 お、おう。いきなりデレるなよ……もう。

 残ってるのは――大型1体、中型1体、小型3体、と。こっちはもうリョーコに任せましょ。


 あ、いや、中型が逃げた。蛇の魔獣だ。地面を這いながら――結構速いな。

 木に登り始めた。そのまま行くとみちるの近くまで行っちゃう。


 って言うか多分狙われてる。木を撃って――いやダメだ。みちるに近過ぎる。


「みちる、気を付けて! みちる?」

「――えっ?」


 困惑した返事――まさか気付いてない!? っていうか――


「みちる! まさか魔力感知切って――」

「えっ、えっ!? あ……ひゃぁあああああ!?」


 やばい! みちるが蛇の魔獣に巻き付かれた……!

 失敗した……! 危険でも攻撃しとくべきだった……!


 ぐ……っ、この状態じゃ迂闊に攻撃したらみちるに当たる……!

 どうする!? やばい……やば……やっば……。


 いやマジやばい。ど、どどど、どうしよ。

 蛇に巻き付かれたみちるが……やばい。エロい。やばい。


「ひぃ……っ、ひやぁぁぁああああ……ん」


 えっ? いや、ちょっ……、何これ? 何見させられてんの?


 いやあの、蛇さん? ちょっ、それ以上スカートずり上げちゃったら……あっ、あっ、見えちゃう!

 だ、だだだだだダメ! ダメ! それ以上ダメ!


 あっ、コラ! そんな、胸に撒き付くなんてうらやま――もとい、けしからん!

 やめなさいってばこの――ォオイ! そんな上下から挟んじゃったりしたら……うわでかっ!

 胸部装甲内圧上昇! このままだと内側から破裂します! あ、魔法衣ローブは丈夫だから大丈夫でした!


 って、ヘビィィィィィィ! あんた何みちるの顔ペロペロしちゃってんの!?


「あ……、あぁ、あ……、やめ……、やめ……てぇ……」


 みちるも何でそんな風に顔火照らせちゃってんの!?

 もっと、こう――恐怖に引きつるとかあるでしょ!? なんでそんなエロい顔してんの!? 何なの? 見世物なの!?


 うっ、くっ……、だ、ダメだ……。あたしは無力だ……。

 あたしにはもう、見ていることしかできない……! 見ている……ことしか……………………。


「ん……、あぁ……、あぁ……ん……、はぁ……っ」


 みちるの官能的な声に――あたしの意識は自然と昂り――って!

 何やってんのよ由利子! このおバカ!


「みちる! 今助ける!」


 あああああとりあえず射撃は危険だから、ええい!

 杖に魔力付与! そしてぶん殴ったるおりゃあああああああ!!!

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