第37話 高梨由利子は決意する

「というわけで……チーム結成を祝って、カンパーイ!」


 怒涛の1日を終えて翌日の日曜日。

 今日はあたしの家に集まってみちるの歓迎会を開催している。


「乾杯はいいのだけれど……由利子、あなた体はもう大丈夫なの?」

「傷は治ってるはずですけど、無理はダメですよ」

「いやぁ~、気が抜けたら一気に来たね」


 あの後、ぶっ倒れた。ガチでぶっ倒れた。


 みちるが慌てて治癒魔法使ってくれたおかげでなんとかなったらしい。

 いやぁ~、我ながら無茶したね。


「1年ぶりに笑ったと思ったら、いきなりあれですよ。まったくもう」

「ご、ごめん。ほんとごめん」


 その笑顔を見て張り詰めてたものが切れちゃったんだろうけど、悪いことしちゃったなぁ。

 でもこのプンスカしてるみちるも可愛いな。年相応に戻った感じだ。よかったよかった。


「ま、体の方はもう大丈夫。ほとんどみちるが治してくれたし、一晩寝たから治癒力強化リジェネできるくらいには魔力も回復してるし」

「それならいいのだけれど」


 とはいえさすがに疲れはまだ残ってる。というか実はまだ全身ギシギシ言ってる。心配されるのも当然だ。

 ほんとはみちるに手料理くらい振る舞ってあげたかったんだけどね。そこは自重した。


「ところでさ、誘っといて今更なんだけど、みちるの地元ってこのあたりじゃないんでしょ? あたしらと組むの大変じゃない?」

「いえ、ここから近いですよ。今までは地元を避けて活動してただけで」

「あ、そうだったんだ」

「でも行ける範囲は行き尽くしちゃったので、もうここしか無いって感じで……」

「無理矢理連れて来られた、ということね。ひどいことをするわね」


 リョーコも怒ってる。ほんとひどいな。

 知人に出くわしでもしてたら気まずいなんてもんじゃないでしょ。

 どうせ自分のとこは最後まで避けるつもりだったんだろうし。


「でもそのおかげでおふたりに出会えたんですから、結果的にはよかったです」

「それじゃ、これからは目一杯楽しませてあげなくちゃね」

「ふふっ、期待してますよ」


 そう言えば、そうか。潮時って言ってたのも、実際そうだったんだ。

 最後まで避けてたみちるの地元で活動しちゃったら、残ってるのはあの人の地元だけ。

 そこでやるわけにはいかないだろうし、既に噂が広まってるかも知れない地域での活動にもリスクがある。

 魔獣退治なら続けられても、契約戦プロミスでの荒稼ぎはもうできなかったんだ。


 皮肉なもんだね。ほんの少しでもみちるの立場を考えてあげてたらこうはならなかったのに。

 最後に欲かいたせいで、全部失っちゃったんだ。同情はしないけどね。


「それじゃ、ほら。どんどん食べて食べて。今日はみちるの歓迎会なんだからさ」

「はい、いただきます」

「ささみスティックもあるよ、ほら」

「あ、私これ大好きなんです」

「ささみピザも食べて食べて」

「別に構わないのだけれど、買ってきたのは私よ」


 そう、今日のあたしは場所提供。買い出し担当はリョーコなのだ。

 ちなみに全額リョーコ持ち。あたしも出すって言ったんだけどね、押し切られてしまった。


 和食に偏らないか不安だったけど、そこはみちるの歓迎会ということでみちるが好みそうなものをチョイスしてくれたらしい。

 それでピザ? なんでやねん。美味しそうに食べてくれてるからいいんだけどさ。


 しかしみちる、よく食べるな。なんかハムスターか何かにエサあげてるみたいで楽しくなってきたぞ。

 こんなに食べて太らないのかな? あぁ栄養は全部あそこに溜め込んでるのか。


 ま、とりあえずはお食事を楽しみましょっと。



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



 飲んで食べて、食べて飲んで。

 他愛のない話で盛り上がって、なんか唐突にディスられて。みんなで笑って。


「あれは何度目の契約戦プロミスだったかしら。由利子が錐揉み回転しながら壁に突き刺さったのよ。あれは傑作だったわ」

「笑い事じゃないからね!? あとうまく抜けなかったからって周りの壁ごと粉砕するリョーコもどうかと思うよ!?」

「あはははっ」


 いやウケてるからいいんだけどなんでそんな話ばっかなの?

 もっとかっこいいエピソードとかやろうよ。あたしのカッコイイ……あれ?

 あたしの……かっこいい……エピソード…………あれ?


 いや、いやいやちゃんとあるってば!

 魔獣退治では活躍してるし、契約戦プロミスだってリョーコ以外にはちゃんと勝ってるじゃん!

 なんでそういう話題は出て来ないの!? く、くそ。あたしのイメージが……!


 それはともかく。そろそろいいかな?


「ちょっと真面目な話、いいかな?」

「はい?」

「何かしら」


 真面目な話。あたしの決意。

 2人もそれを感じ取ってくれたのか、空気もピリッとしてきたね。


「リョーコには言ったけど……あたしさ、困ってる子を、助けてあげたいんだ。笑うことも出来なくなってるような子を」

「それは私も賛同するわ」

「私も。今度はお手伝いしますよ」

「ありがと。でもさ、今の方法だとやっぱり無理があるのよ。みちるはたまたま出会えて契約戦プロミスに持ち込めたから良かったけど」


 契約戦プロミスに持ち込むとか以前に、そもそも出会えなければどうにもならない。

 活動圏外に居る子たちはどうやっても救いようが無いんだ。


 助ける方法を周知させるのも却って危険だ。

 被害者の子に契約戦プロミスを受けさせない、という対策を取られるだけでもう助ける手段が無くなってしまう。


「もっと根本から変える必要があると思うんだ。だからさ――」


 あたしは、決めたんだ。


「あたし、Aランク目指してみる!」


 これは簡単なことじゃないけど、それでも、やってやる。


「Aランク? どうしてまた急に」

「あ、わかりました。Aランク特権で委員会に働きかけるんですね?」


 みちるは察してくれたようだね。Aランクはエリートランクであると同時に特権ランク。

 委員会への要望なら誰でも出せるけど、それを出したのがBランクなのかAランクなのかってだけで全然違ってくる。


 ぶっちゃけ、Bランク以下の子が出す要望なんてそうそう通らない。

 ここ数年、通った要望の大半がAランクの子が出したもの、らしい。

 まして契約戦プロミス関連に限ればもう年単位で一切の要望が通ってない。


「今のあたしが要望出しても、適当に流し見されて終わりだと思うんだ。でもAランクになってれば、一応は注目されるはず」


 でも、契約戦プロミスの抜本的な改革なんて大それたこと、そうそう実現できるとは思えない。

 あたし1人じゃダメだ。だから――


「2人にも協力してもらいたいんだ。Aランク3人掛かりで要望出せば、そうそう無視できないでしょ」

「そういうことね。でもそれならさっき言ったはずよ。私も賛同するわ」

「ええ。全力でお手伝いしますよ!」


 快く受け入れてくれた。あぁ、いい友達を持ったなぁ。

 よーし、次の目標ができた! それじゃ、頑張るぞー!


 あたしたちの戦いは、これからだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る