第36話 西園寺みちるは夢から覚める
ああ、これが私の結末なんだ。
『救われたい』を言い訳に、今まで散々、色々な人に迷惑を――危害を加えてきた。
その代償が、これなんだ。
ああ、もっと笑いたかったなぁ。やりたいこともたくさんあった。
でも仕方ない。
泣くことすら許されない、こんな最期だけど、でも仕方ない。
あの人に言われて創作した魔法。理論上は
今まで何度もあの人をサポートするために使ってきた魔法だけど、最後の使い道がこれだなんて。
もう諦めた。諦めてた。諦めてた、はずなのに……。
いやだ……! こんな終わり方は、いやだ……!
人ですらいられなくなるなんて……そんなの、ひどすぎるじゃないですか……!
でも、もう。どうにもならない。
魔力の譲渡は始まっている。これが終わったら、私は――
「
「――?」
「あの人との契約で交わした同意を取り下げて」
「な、何を――?」
何を、言っているんですか?
同意を、取り下げる? でも、この契約を破棄することなんて――
できないんです。無理なんです。
何度願っても、叶わなかった。何度泣いても、許されなかった。
何度枕を涙で濡らしても、悪夢が覚めることは――涙?
私、今、涙を流して――
もう、泣くことすら許されていなかったのに、どうして――
あ……。魔力の譲渡が……魔法の行使が、止まってる。
命令が――契約が、破棄されている!?
「おい! どういうことだ!」
き、如月さんが……凄い形相で私の方に……。
わ、私だってわからないんです……! どうして、こんな……?
「どうもこうも、契約は破棄させてもらいましたよ。残念ながら」
「そんな馬鹿なことが――」
「それがあるんですよ。あなただってやってたじゃないですか? システムの隅突き」
一歩も引かずに、不敵な笑みで言い返しています。
システムの隅突き……。ほんの少し視点を変えただけで、こんなに簡単に……。
「あなたの計画もこれまでね。観念してもらいましょうか」
「くっ……」
黒髪の人もやって来ました。凄く冷ややかな目。
如月さんに対する怒り? それと、蔑み、でしょうか。少し、雰囲気が、怖い。
それに対して、如月さんも――冷や汗を垂らしながらも一歩も引いていません。
「確かに計画通りとは行かなかったけどね。観念するのは君たちの方じゃないのかな?」
……そうです! 確かに
魔力は確かに譲渡されてるんです! あれだけの魔力があったら……!
「待ってください――如月さん! それは……それは
「何がダメなんだい? ルールで禁止されてはいないじゃないか」
あ、ああ……、あの人の、剣が……。
薄く。薄く。研ぎ澄まされて……本物の、剣のように……!
「これで魔法少女を斬るのは初めてだよ。覚悟しな」
あ、危ないです……! 逃げて……逃げてください!
「リョーコ、大丈夫? ……リョーコ?」
赤髪の人の問いに答えもせずに、1歩、また1歩。
な、なんでそんなに落ち着いているんですか!? ダメです……! 右手の剣が、切り払い――
――ビシィッ!
…………え?
剣が……回転しながら宙を舞って……地面に、突き刺さりました……?
ほんの一瞬の出来事。
迫り来る剣が届く前に、避けようとすらしないで。右足で、無造作に手首を蹴り上げて……。
「折角作ったのに捨ててしまうだなんて、勿体ないことをするのね」
「ふ、ふざ……けるなァッ!」
今度は……もう一本の剣を両手で握って――振り下ろし……!
避けようともしていない……!? 危ない……!
――ザグッ!
…………!?
予備動作も何も無しに、体だけが滑るように移動して、避けた……?
振り下ろした剣が、勢い余って地面に刺さっています。
「力任せに振り過ぎよ。簡単には抜けそうにないわね。手伝ってあげるわ」
そう言って、時計回りに回転しながら右足を振り上げて……?
「
――バキィィン!
斜めに振り下ろした踵で、折った……!?
いくら薄くなったとは言っても、あの剣の硬度は相当なものだったはず……!
「折りやすくしてくれて感謝するわ。元のままの方が良かったのではないかしら?」
「な、なんなんだお前は……!」
如月さんが……まるで手も足も出ないなんて……。
この人、強すぎる……!
「ねぇ、あなた」
「はっ、はい」
耳元からの声。私を救ってくれた赤髪の人。
私を地面に下ろしながら――そう言えば私、まだお姫様抱っこされたままでした。
「お願い、少しでいいからあたしにも魔力わけてもらえない? なんか嫌な予感がする……」
「あ、はい」
そう言えば、如月さん以外の人にこの魔法を使うのって初めてですね。
でも、嫌な予感? これだけの実力差があれば、危ない要素なんてどこにも……。
「
「うっ……が……ッ!」
距離を取ろうとした如月さんの喉元に打撃が。やっぱり、完全に押しています。
更に喉を押さえて呻いている如月さんの胸に両手を当てて――
「
よくわからないけれど、接触状態からの打撃?を受けて後方に飛ばされ――
「
それを追い掛けるように一瞬で距離を詰めながら下腹部に拳を打ち込んで――
更に両手を左右に広げながら拳を固めて――ま、待ってください! その人はもう、意識が……!
「
左右の拳を――目にも止まらない速さで連続で、突き出して――!
腹部と胸部に、打撃の嵐を……? だ、ダメです……! それ以上は、危険です……!
打撃の嵐が終わって、後ろに倒れ込んだところを……歩いて距離を詰めて……右足を、振り上げて……?
それは、まさかさっきの、剣を折った時の……? それを、頭部に向けて……!? いくらなんでも、それは……!
「 地流―― 」
「そこまでッ!」
振り下ろされた足の膝裏に杖が差し込まれて……、踵も
「リョーコ、やり過ぎ。もう勝負はついてる」
「そう……ね。ごめんなさい。少し、興奮し過ぎたわ」
あの踵が振り下ろされていたら、どうなっていたことか。
ああそうか。あの赤髪の人が心配していたのは……。
「あの、その人……如月さん、これからどうするんですか?」
「そうね、リョーコの契約使って魔法少女としての活動禁止ってとこかな?」
「永久に、よね? 強引にでも同意させてみせるわ」
これで……、私のような被害者はもう出ないということでしょうか。
あれ、でもその契約だと破棄する方法を如月さんも知って……あ、そっか。
魔法少女としての活動ができなければ
「それはそうとさ、あなた、これからどうするの? あの人から解放されて」
「えっと、どう……しましょう。考えてなかったです」
「だったらさ、あたしたちとチーム組んでみない? リョーコもいいでしょ?」
「えっ、チーム……ですか?」
「そうね。私も賛成よ」
「できれば仲間としてじゃなくて、友達として。どうかな?」
チーム。私とチーム?
だって私、さっきまであなたにあんな酷いことをしちゃってたんですよ?
それなのに、そんな私を……? 本気で誘ってくれてるんですか……?
そして友達。
赤髪の人は、私を救ってくれた、私の本当の……王子様。
黒髪の人は、さっきはちょっと怖かったけど、でもあれは私のために怒ってくれていたわけで。
2人とも、いい人たち。それだけは間違いないと断言できます。
この人たちとなら。……いいんですか? 本当に、いいんですね?
「はい。私なんかでよければ、チームに……友達に、なってください!」
「それじゃ、改めて自己紹介ね。あたしは高梨由利子。由利子でいいよ。よろしくね」
「私は沙々霧涼子よ。よろしく」
「私は西園寺みちる、です。由利子さん、涼子さん。こちらこそ、よろしくお願いします!」
長い長い、悪夢を見ていたけれど。
ようやく、解放されました。今日が私の、本当の始まり。ああ、夢のような気分です!
「でもあなた、気を付けた方がいいわよ。さっきも由利子にいかがわしいことされていたでしょう?」
「えっ!?」
「ちょっ!?」
えっ? いかがわしい、こと???
「ねえ由利子。気絶してるみちるの胸に、顔を埋めていたでしょう?」
「えっ!?」
「いやあれは事故! 事故だから! 誤解だから!」
思わず胸を両手で隠して。
き、気絶してる私の胸に、顔を……?
「さて、どうかしら」
「いや、だから! あの時は魔力が空っぽだったから! 落ちたところにたまたま! たまたまだから!」
怪しげな謎の身振りで誤解を訴えてますが……、却って、怪しい……。
そんな私の視線に気付いたんでしょうか。
唐突に神妙な顔になって、その場で……土下……座……?
「すみません、割と狙って落ちました」
「……」
「あわよくば、そのままお胸様の感触を堪能していたいとか思ってしまいました! どうか訴えないでください!」
「…………」
ああ、この人は。
「ぷっ、ふふっ」
この人は、私の本当の、理想の王子様だったけど。
「ふふっ、あはっ」
そうですね。こんな王子様はちょっと……『無し』ですね。
あぁなんか、夢から覚めた気分です。
そうですよね。魔法があるんだから理想の王子様との出会いもあるかもだなんて。
おかしいですよね。何を考えていたんでしょうね、私。
「あははっ、ふふっ。ぷっ、あははははっ」
ああ、こんなに笑ったの、いつ以来でしょう。
こんな日が来るなんて、思ってもいませんでした。
まるで夢のよう。だけど違う。今まで見ていたのが夢。
本当の意味で、目が覚めました。
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