第34話 西園寺みちるは救われたい

 なん……で……? なんでですか!?

 近付いてくる。少しづつ。有り得ない。……有り得ない!


 痛くないんですか!? そんなわけがないでしょう!

 なんで……どうして諦めないんですか!?


 確かに威力は落としてますけど、10発や20発じゃないんですよ!?

 100発や200発ですらないんです!


 何が……何があなたをそこまで――


 『あなたを助けるって、決めたから!』


 ――!


 声が、聞こえたような……いえ、声じゃないです。

 覚悟が。信念が。心の叫びが。聞こえた、ような――


 どう考えても、絶体絶命の状況なのに。

 まだ、進んで来る。諦めずに。前へ――


 諦めずに――諦め……ずに……。



  …………━━━━━━━━━━━━



 契約戦プロミスで勝ちさえすれば、痛い思いはしなくて済む。

 だから私は強くなるしかなかった。そして、強くなった。


 あの人と出会ってからもう10ヶ月。今ではそうそう負けることはありません。

 だから最近は痛い思いはしないで済んでいます。


 勝てばいい。勝ちさえすれば、救われる。

 勝つことだけが、私の救済。


 そして今日も、勝てた。よかった。今日も、救われた。


「おいみちる。これだけなのか?」

「えっ。あ、はい。これ以上は……どうしても必要だと言うので……」


 えっ……? なんで、剣を……振り上げて……?

 私、勝ったんですよ……?

 

  ――バシィッ!


「――っ! ひい……っ!」


 な、なんで……どうして!?

 勝てば……勝ちさえすれば……、痛い思いは、しなくていい……はずなのに……!


「必要だと言われたから? そんな理由で、稼ぎを減らしたのかお前は!」

「そ、そんな……!」


 だって……だって、仕方ないじゃないですか……!

 私は……、私は、何も悪くなんて……!


「ひょっとして今までもそうだったのか!? 相手を思いやって! そんな理由で! お優しいことだな!」

「す、すみません……ごめんなさい! ごめんなさい!」


 痛い……! 嫌だ……! ごめんなさい……! 叩かないで……!


「もういい。お前を1人で行かせた僕が馬鹿だったんだ。次からは一緒に行くぞ」

「……はい」

「それと、前に魔法具を5分で作れるようになれって言ったよな?」

「あ……すみません、まだ、もう少し掛かりそうなんです。もう少し――」

「……早くしろ、愚図。まあいい、それよりいい魔法を思い付いた。魔法の創作は得意だろ? 3日で完成させろ」

「3日……で……? ……はい」


 ああ、そうか。私に救いなんて無いんだ。


 勝つのが当たり前になれば、次はまた新しい要求が来る。

 それを満たせばまた新しい要求が。そこに際限なんて無い。


 救いがあるなんて、思ってはいけなかったんだ。

 希望なんて、持つべきじゃなかったんだ。

 希望なんて持ってても、却って辛くなるだけなんだ。


 ――諦めよう。その方が、楽になるんだ……。



  ━━━━━━━━━━━━…………



 私も……諦めなければ……。いつか、救われる日が……来るんですか……?

 本当に、あなたが……救い出してくれるんですか……?


 でも。

 ああ、でも。


 私はあなたに勝たなければならない。

 そう、言われているから。契約には逆らえないから。


 だから、もういいんです。あなたも諦めてください。

 私なんかのために、これ以上苦しまないでください。


 これでもう、本当に終わりにしましょう。

 全力の魔力弾。充填チャージで威力も上げて。1発。2発。3発。


 全弾命中。体勢を崩して……崩しただけ!?

 下がらない! まだ進んで来る!


 4発。5発。う……、今度は左手で弾いて……。

 でもその左手だってもう限界でしょう!?


 続けて更に5発。3発は左手で防がれたけど、両足に1発ずつ命中。

 それでも、まだ……。


 どうして、諦めないんですか!?

 どうしてあなたは、諦めないでいられるんですか……!?


 もう、10メートルの距離。こんなに近くまで……!

 魔力弾じゃ止められない。だったらもう、魔力砲……?


 でも、恐らくこの人はもう、障壁シールドは張れない。

 あれを撃ったら、ただでは済まない。でも、撃つしか――


「助けに来ましたよ、お姫様ぁっ!」


 目の前――いつの間に!?

 本当に、私を助けるために、ここまで――?


 こんなに、ボロボロになってまで、私を――?


 あなたが――あなたが、本当の、私の――

 私の、王子様――なんですか?


「ちょっと乱暴にするけど、ごめんねぇっ!」


 そう言いながら、両手で――痣だらけの両手で私の顔を挟み込んで――えっ?

 そのまま顔を近付けてきて――えっ?えっ?


 これは、まさか……?


 いつか思い描いた、夢にまで見たシチュエーション。

 いつだって、お姫様を悪夢から救い出すのは、王子様の――


 王子様が、頭を大きく振りかぶって――えっ?

 振りかぶった頭を振り下ろして――ええっ?


  ――ゴンッ!


 …………。


 額に重い衝撃を受けて。

 私は意識を失いました。

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