第31話 高梨由利子は食い下がる

 攻め方が変わった。規則性も何も無い乱射。膨大な魔力量に物を言わせたゴリ押し。シンプルだけど強い。


 乱れ飛ぶ魔力弾の中に追尾弾ホーミングが紛れてるのがいやらしい。最小の動きで避けようとしたら追尾弾ホーミングに当たる。

 でもこの弾幕の中で追尾弾ホーミングを見極めるなんて正直無理。だから普通の魔力弾も全部まとめて大きな動きで避けるしかない。


 ――なんてやってたら消耗激し過ぎんのよ!

 これじゃダメだ。急加速と急制動の連発は魔力はもちろん体への負担も大きい。やっぱり最小の動きで避けないとダメだ。


 左からの魔力弾。これは少し前に出るだけで背中側を通り過ぎる。

 次は上から。これは体を右に向けて上体を反らせば……目の前通り過ぎてった。怖っ。

 でも体への負担は減ったし魔力の消費もだいぶ抑えられてるはず。


 次は右から2発。この2発の更に右側に潜り込むように――1発目の軌道が変わった! 追尾弾ホーミングだ!

 もう避けられない。だからこれは――左手で弾く!


  ――バヂィッ!


 痛っっっ、たいけど大丈夫!

 このために、左手にだけ防御強化を重ね掛けした。大丈夫だ。耐えられる。


 避けきれない追尾弾ホーミングだけ、左手で弾く。これはこれで結構きついけど、でも間違いなく負担は減ってる。

 そして――今回は最初から障壁シールド用の魔力を充填チャージしてる。さっきよりはマシな戦いになっている……はず。


 ただ、次の魔力砲は多分、避けさせてもらえない。あたしがあの子だったら、次は回避不可能な広域攻撃にする。

 そして障壁シールドを張らせてから範囲を絞って威力を高める。


 正直なところ、どうにかギリギリで食らいついてる状況だ。厳しい。


  ――バチンッ!


 また追尾弾ホーミング。痛ったたた。

 でもまだまだぁ! あと2、30発は余裕で弾けるね。多分。


 とはいえ弾き損なうとやばい。あんまり長引かせたくはないけど――はいまた追尾弾ホーミング


  ――バチィッ!


 ――なんか、弾幕密度が上がってるような……?

 いや、気のせいじゃない。あたしが小さい動きで避けるようになったから攻撃範囲を狭めてるんだ。


 うっぐ、こうなると最小の動きで避けるのもきつくなってきた……!


 右から2! 左からも2! 正面からも来るから前には出れない!

 ここは左に急加速! くそっ、大きな動きで避けざるを得なくなってきた……!


 次は左から。これは1発だから最小の動きで……いや、追尾弾ホーミングだ!


  ――バチンッ!


 あっぶな。弾いた後、脇腹掠めた。や、やばい。マジで余裕無くなってきた。


 ああああああなんかたっくさん来た!

 ほぼ同時に10発くらい! あっちこっちから! こんなん無理! 避けきんない!


 不本意だけど一旦下がる!

 軌道を変えたのは……ぐっ、3発ある。


 いっそ大きく避けるか……?

 いや、最初に来る1発を左手で弾いて――その反動を使って右に加速!

 これで残り2発も最小の動きでやり過ごせた。


 次は――うっ、来る……!

 杖を振り下ろした。魔力砲が、来る……!


 障壁シールド展開! 今回はサイズ小さめ!

 しゃがんだ体勢なら小さいサイズでも全身収まるから、そのぶん厚さを増して、これなら――


  ――バァァァァァァッ!


 思った通りの広域攻撃。そして障壁シールド張ったのを見て範囲を狭めてきた。

 範囲が狭まれば火力密度が上がる。障壁シールドの負担が……やばい。


  ――ピシッ……ビキッ


 うぐっ、ヒビが入ってきた……!

 魔力砲の照射はまだ続く。無理だ。もう持たない! もう……1枚!


 …………なんとか、耐えた……!


 でも、同じ時間充填チャージしてたのに、競り負けた。

 魔力砲自体が強力な魔法ではあるけど、そもそも魔法の練度が違い過ぎるんだ。


 この威力の魔力砲に耐えられる障壁シールドを張るのは正直きつい。

 まして2枚目の方は充填チャージ無しで無理矢理魔力を捻り出してるから消耗が激しすぎる。

 ここまでメチャクチャな魔力の使い方したの、初めてなんだけど。


 もう消耗戦だとか無理。どう足掻いてもあたしの方が先に魔力が尽きる。

 こうなったらもう、特攻しか無い。


 でもそれだって分の悪い賭けだ。

 特攻するしか無いってことは、あの子だって分かってるんだ。絶対何か対策を考えてる。でもやるしかない。


 そう。出来るとか出来ないとか関係ない。

 やるしかないんだ。やってやる!


 まず状況整理。

 あたしの魔力残量はもう3分の1を切ってる。次の魔力砲を撃たれたら負けは確実。


 つまり、あたしは魔力砲を撃たれる前に勝負に出ないといけない。

 多少無茶でも、それまでに特攻を決めないといけない。それ以外に勝機は無い。


 でも距離が離れ過ぎてる。特攻したところで、辿り着く前に撃たれてしまう。

 それ以前に、あんまりにも無茶な特攻じゃ魔力砲以前に魔力弾の嵐に撃ち落とされる。


 撃たせないのは無理だ。撃たせた上で、どうにかするしかない。


 だったらもう、最初から撃たせるつもりでいればいい。。

 本来ならそれであたしの魔力はすっからかん。あの子の勝利は確定。

 だからこそ、そこで隙ができるはず。あたしが仕掛けるのはそこだ。


 次の魔力砲――、どうにか凌ぎ切ってやる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る