第29話 西園寺みちるは悪夢を見る

「ちょっとは休ませてくんないかなぁ!?」


 ――と叫ぶ声が聞こえましたが、ごめんなさい。

 こうするしかないんです。


 私には、こうすることしかできないんです。



  …………━━━━━━━━━━━━



 あの人の所有物になって2週間。私は何も出来ずにただ怒鳴られるだけの日々でした。

 やること自体は単純です。他の魔法少女に契約戦プロミスを挑み、勝利する。勝利して、溜めているマギリアを戴いてくる。

 ただそれだけのことでしたが、まず誰も契約戦プロミスを受けてはくれませんでした。


 理由は単純明快。私の魔力量を見た相手から、ほぼ例外なく辞退されてしまうというだけのこと。

 それまであまり気にしていませんでしたが、私の魔力量は規格外だったそうです。


 格上の人ならば受けてもらえるでしょうが、それでは私に勝ち目がありません。

 相手はあくまで自分と同格の人。でもそれでは契約戦プロミス自体が成立しません。


 まずは、この魔力量をどうにかして隠さなければいけませんでした。

 ですが、既存の魔法では魔力を完全に隠蔽してしまうことしかできません。それでは却って怪しまれてしまいます。


 そこで、まず私は隠蔽魔法の改良をすることにしました。

 完全に隠すのではなく、半分だけを隠して本来の半分の魔力量に見せかけるのです。

 簡単なことではありませんでしたが、受験勉強を一旦お休みして時間を作れば、なんとか。

 なんとか2週間、この作業に専念することができたので改良は無事完了しました。


 それでもまだ普通の人より多いらしく、たまに辞退されることもありましたが、大半の人は受けてくれるようになりました。

 ここまでで1ヶ月。毎日怒鳴られるだけの日々も、この日から一変しました。


 契約戦プロミスを受けてもらえるようになった私でしたが、次に問題となったのは私の臆病な性格でした。


 戦いが始まっても、攻撃なんて怖くてできません。相手が攻撃して来たら、怖くて目を閉じてしまいます。

 こちらからは攻撃できず、相手の攻撃は避けられず。


 ただ一度の勝利も無いまま、日々は流れて行きました。

 そして、怒声とは別のものが浴びせられるようになりました。


「きみは……、どうやったらそんなに負けられるんだ? その魔力は飾りか何かなのかな?」


 怒りと失望の混じった皮肉。ただ怒鳴られるだけだった日々は一変しました。

 一変して――ついに暴力まで振るわれるようになりました。


 あの人は鍛錬だとか言ってましたが、ストレスの捌け口にされていただけですね。

 傷にはならない程度に――と言っても痣くらいはできましたが――肩や背中を魔力の剣で何度も叩かれました。


 私が最初にやったのは、自分を弱く見せること。

 次にやらなければならなかったのは、私自身が強くなること。


 強くならないと、契約戦プロミスで勝てない。勝てないと、痛いことをされる。

 強く、ならないと。強く。強く……。


 ようやく勝てるようになったのは、更に1ヶ月後。

 長い――長い1ヶ月でしたが、それからの私は2回に1回くらいは勝てるようになりました。


 おかげで、勝てた日は叩かれなくなりました。

 勝てた日だけは、痛い思いをしないで済むようになりました。


 ……そう、勝ちさえすれば。勝ちさえすればいいんです。

 だから強くならないと。強く、もっと強く。


 でも、受験勉強もいつまでも休んでるわけには――

 でも、もっと強く――時間が――睡眠時間を……削って……。



  ━━━━━━━━━━━━…………



 これは私の悪夢のほんの入り口。

 1年続いている悪夢の、最初の2ヶ月。


 あなたに、私の苦悩が想像できますか?


 私は負けるわけにはいかないんです。そして、全力でやれとも言われています。

 ですから、全力で行きます。全力で、あなたを倒します。


 魔力砲台サテライト20基のうち、16基は魔力弾を、残りの4基は追尾弾ホーミングを。

 これはさっきまでと同じですね。ですが今回は、敢えて無造作にばら撒きます。規則性も何もありません。


 さあ、避けられますか?

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