第4章 囚われのお姫様 -トラワレノプリンセス-
第28話 高梨由利子は戦慄する
あたしが相手をするのはお姫様の方。王子様の後ろに隠れておどおどしてる。人見知りさんかな?
怖がらなくていいよー? 由利子さんは優しいお姉さんだよー?
しかしこの子、一見おとなしそうで控えめな感じなんだけど……でけえ。
何処がとは言わないけどでかい。Fくらいあるかと思った。
よくよく見るとEだね。体が小さいから実際よりでっかく見えちゃったんだな。
さて、見た感じ初心者さんだけど、念のため
…………ふむ。
誰が言ったか、こんな格言がある。
『魔力量は、胸のサイズに比例する』
もちろん例外はあるけど、胸が大きいほど魔力量も多くなる傾向がある。
この子の魔力量は――あたしを100とすると143。なるほど納得である。
ちなみに王子様の方は107。胸もあたしより若干大きいように見える。
って、うわやばっ、この人――
「凄っ、Aランクだ……!」
「そんな凄いものじゃないよ。Aランクの中では下の方だし」
Aランク287位。Aランクは全部で300人だから確かに下の方ではあるけど……
でも魔法少女の総数が確か3万人とかだったはず。その中の300人ってだけでもうエリートじゃん。
それはそうとリョーコの魔力量は5。胸のサイズ? お察しください。
なるほど格言が真実であることが証明されてしまったようだ。
――あれ? よく見るとこの子、Bランクじゃん。
魔獣退治はやってなさそうなこと言ってたけど、じゃあ
Bランクの子相手に勝ったことあるの? 実は結構強い?
それともあれかな。八百長で勝たせちゃったのかな。
メリット無いから普通はやらないんだけど、やっちゃったのかな?
ま、Bランクもピンキリだからね。悪いけどあたしは勝っちゃうよ?
この子は恐らく遠距離砲撃タイプ。砲撃タイプの子は、ほぼ例外なく燃費が悪い。とにかくガンガン撃ちまくって来る。
並の相手ならそれでゴリ押せちゃうけど、あたしくらいになると消耗戦に持ち込めてしまうのだ。
魔力量が倍も違えばさすがにきついけど、このくらいの差なら負ける気はしないね。
なんなら一気に距離を詰めてドーン! ってやっちゃうこともできる。
接近戦とか苦手な子たちだからね。近付いちゃえばこっちのもの。
ただまぁ、今回は実戦経験を積ませてあげたいってことだし、戦い方も考えてあげないとね。
「そろそろ始めようか。僕の相手はきみがやってくれるということでいいかな?」
「ええ。お手合わせ願うわ」
向こうの勝負も気になるな。リョーコ対エリートさんか。
気にはなるけど、あたしはお姫様の相手をしてあげないといけないからね。こっちに集中しよう。
コンビ同士での対戦には注意点がある。
うっかり流れ弾が向こうに飛んで対戦相手に当たりでもしたらそれで終了。反則負け。
逆にそれを逆手に取って戦う子もいるらしい。
直線上に自分の相方が入るように位置取って「ほーら今撃ったら反則負けしちゃうよ~」みたいな。
あたしはそういうことしないけどね。
「それじゃあ。みちる、行ってきな。全力でやるんだ」
「はい……」
すっごいビクビクした様子で王子様の後ろから出てくる……んだけど。
……なんだ? この違和感。
なんだ? なんか空気が変わったような……?
嫌な予感がする。もう一度、
…………。
――なんだ、これ? 魔力量が、増えてる。さっきの倍。今は287。
???……あっ。
この子だったんだ。噂で聞いた、魔力量を少なく見せて油断させてくる子。
なるほど、これは――こうでもしないとそうそう
よっぽど自分に自信が無ければ辞退しちゃうね。
同時にもう1つ、わかった。リョーコにも教えないと。
「すみませーん、ちょっと作戦会議しまーす」
さすがにわざとらし過ぎるかな?
でも仕方ない。小声でリョーコに話し掛ける。
「リョーコ、あの子だ」
「……? どうしたの」
「あの子、契約に縛られてる」
「本当なの?」
間違いない。さっきまで俯いてたから気付かなかったけど、この子、目に生気が無い。
何より、さっき『行ってきな』って言われた時の反応。
一瞬、怯えるように身を竦ませてた。
その恐怖の対象は、対戦相手のあたしじゃなくて、言葉そのもの。
あたしのことなんて恐れてない。恐れてるのはあの人の方。
間違いない。
やりたくもないことを、無理矢理やらされてるんだ。
「どうするの?」
「そりゃ、やるしかないっしょ。あたしはあの子を、助けたい」
この子の目を見ればわかる。この子はもう、相当長い時間、笑うことができないでいる。
そういう子は助けてあげたい。助けてあげるって決めたんだ。
理不尽な契約に同意させられてしまった場合の対処法は、もうわかってる。
問題だったのは、そもそも
でも今回は向こうから挑んで来てくれた。
もう1つの問題点は、あたしがこの子に勝てるかどうか、という点。
初心者ってのは嘘だ。間違いなく戦い慣れてる。魔力量差も絶望的だ。正直、分が悪い。それでも。
『できる』『できない』じゃないんだ。
『やる』って決めた! だからやるんだ!
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結界はあたしとお姫様で協力して張った。
でも正直、あたしが手を貸した意味ほとんど無いね。
あたしが1人で張るとせいぜい直径200m程度の正方形なんだけど、2人で張ったら直径500mくらいになっちゃった。
直径は2.5倍、高さは多分倍くらいだから体積にすると……10倍以上? これほとんどあの子1人で張ったようなもんじゃん。
単に魔力量の差だけじゃない。あたしよりよっぽど効率のいい魔力運用してる。
ちょっとこれは本気で……やっばいね。でもやるしかない。
場所は田畑の多い田舎の町並み。
あたしとお姫様は上空で、リョーコたちは地上と言うか路上で対峙している。
そして王子様が開始の合図になる石を投げて――地面に落ちた!
と同時に
あの子もあたしから逃げるように加速してる。速い。追い付けない……!
一気に離された。開始時点で20mくらいだったのが、もう100mくらい。
でもそこで加速は切ったっぽい。慣性で後退しながら
数は4基。この子の魔力なら10基以上設置できてもおかしくないから、これは様子見?
こっちも深追いはやめとこう。まずはこの距離で迎え撃つ。
魔力弾が――真っ直ぐこっちに向かって飛んでくる。様子見にしてもちょっと素直すぎるんじゃないの?
何か狙いでもあるのかな? とにかく引き付けてから避け――げっ!
寸前で避けようとした魔力弾が――軌道を変えた!
普通の魔力弾じゃない!
――バチィッ!
「んぎぃ……っ!」
左脇腹に……! まるで硬球が当たったような……!
まずい、バランス崩した。2発目が目の前……!
――バヂンッ!
右手で弾いた。危うく顔面に当たるとこだった……!
でも今ので右手の感覚がやばい。
杖を左手に持ち替えて、急加速!
普通の魔力弾のつもりで最小の動きで避けようとすると、当たってしまう。
空間全部を使うつもりで飛び回らないと……って、ちょっと、待って。
いや20基って、あたし最大4基なんだけど?
ちょっと、冗談、きっついな……。やばい、顔が引きつってるのが自分でわかる。
16基の砲台が、火を吹い――
なんっつー大盤振る舞いよ!
16基から発射する魔力弾で、筒状の檻を作って閉じ込められた!
小さい動きで避けようと思ったら……目の前ギリッギリまで引き付けてから急加速するしかない。
砲撃タイプの子とやると大抵弾幕シューティングになるけど、ここまでハードモードになったのは初めてだわ。
でも、おかげで逆に勝ちの目が見えてきた。正面から来る
左から追い掛けてくる次弾を――急制動して引き付けてから左に反転急加速!
大丈夫。避けきれる。急制動と急加速のたびに痛めた脇腹がズキズキ言ってるけど問題ない。
このまま行けば――勝てる!
正直、魔力的にも身体的にもきっついけど。でもあなた、いくらなんでも飛ばし過ぎ。
そんな湯水のように魔力使ってたら、先にへばるのはあなたの方よ?
まぁ、そんな涼しい顔でこんだけ撃ちまくれるってのは流石だけど……って、やっば!
避けるのに必死で忘れてた! 砲撃タイプの子の常套手段――魔力弾で牽制しながらの魔力砲。
やられた! あの子、魔力を
こっちも
でも出遅れた。何秒出遅れた? やばい。やばいやばい!
魔法は事前に魔力を
その場で突発的に高い効果を出そうと思うと、魔力をごっそり持ってかれる。
消耗戦に持って行けるかと思ったのに、しくじった! あんなのまともに食らったら、下手したら一発で終わっちゃう!
でも右手の感覚は戻ってきた。杖は右手に持ち替える。やっぱ右手で持ってた方がしっくりくる。ちょっと落ち着いた。
落ち着いたところで――発射の瞬間を見極める。
くそっ、
右から来る弾を左に避けて――次に左から来る弾を避けようとして――わざと当たる!
左腰に衝撃。激痛。バランスが崩れて隙が出来たところに――来る!
杖を振り下ろした! 今だ! 右に急加速!
このまま行けば魔力弾の檻。これだって当たったらただじゃ済まない。
でも
周囲を囲む檻の一部に穴を開ける。できれば1発の魔力弾で2発くらい弾きたい。
うまいこと跳弾させるために――軌道計算(9割直感)!
ここだ! 発射!
――バチッ! ……。
うっぐっ。軌道計算、失敗……! で、でも1発は弾いたから隙間はできた!
小さい隙間だけど――ここを、突っ切っ……たぁぁぁぁ!
と同時に。一瞬前までいた場所を、轟音と共に極太ビームが貫いていく。
と言うより、檻ごと埋め尽くしてる。あっぶな。でも魔力砲の発射はまだ続いてる。まだ続く。
あたしが避けたことにも気付かれた。旋回しながら極太ビームで薙ぎ払ってくる。
逃げる。右へ加速。もっと加速! でも――限界だ!
追い付かれる前に急制動! そして
防げてる……けど……っ! 長くは持たないぞ、これ……!
――ビシッ……ビキッ!
ダメだ……! 砕ける……っ! もう……1枚……!
…………ッ!
し、凌ぎ……切った……!
けど、やられた。
い、息が……乱れる……。まずは、呼吸を、落ち着……けて……って。
ちょっ、ちょっと待って。勘弁して。
あの子の周りに――新しい砲台が設置されている。たくさん。多分さっきと同じ20基。
いや、ちょっと……本当に勘弁して? 思わず叫んでしまう。
「ちょっとは休ませてくんないかなぁ!?」
という声も虚しく。20基の砲台が、一斉に火を吹いた。
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