第27話 西園寺みちるは夢に沈む

「さて、これから君を僕のものにするわけだけど――」


 はい。私はもう、あなたのものです。


「その前に、誓わせて欲しい」


 そう言いながら数歩下がり、空に向けて剣を掲げました。

 まさにお伽話の王子様。その凛々しさに思わず見惚れてしまいました。


「僕は、この剣に誓う! 君が僕のものになってくれると言うのなら、この先、どんな困難からも君を守る! 君を必ず幸せにしてみせる!」


 ああ、この人になら、私の全てを委ねられます。

 あなたと一緒にいれば、それだけで私は幸せになれます。


「だから、君も誓って欲しい。契約締結プロミスリンク。どうか僕のものになって欲しい。これからずっと、僕の言葉に従って、ついて来て欲しい」


 はい。私の心はもう、決まってます。

 あなたに、ついて行きます。いつまでも。どこまでも。


「はい、誓います。私は、あなたのものです。あなたに、従います」


 ああ、夢みたいです。夢が、叶ったんです。

 お伽話のお姫様になって、憧れの王子様と――


「ありがとう、契約成立だね。それじゃあ、まずは……きみ、魔獣退治とかはしてる?」

「いえ、やってないです。怖くて……。発見の報告くらいならやってますけど」


 ???

 急に、現実に引き戻されてしまったような――


「まぁ期待はしてなかったし、無いよりはいいか。それじゃ、溜まってるマギリアは全部もらうよ」

「えっ? えっ?」

「譲渡のやり方とかわかる? 知らないか。じゃあ教えるよ」


 えっ? なんですか? なんで、そんな……?


「あぁ、そうそう。さっき誓った『どんな困難からも君を守る』ってやつ、ただの口約束だから。期待はしないでね」

「えっ!?」

「契約内容、思い出してごらん?」


 契約……内容……?


 『契約締結プロミスリンク。どうか僕のものになって欲しい。これからずっと、僕の言葉に従って、ついて来て欲しい』


 この人のものになって、この人の言葉に従って、ついて行く。

 私を護ってくれるという言葉は、契約の中に含まれていない……?


「契約に同意してくれてありがとう。今日から君は、僕の物になったから」


 僕の物……僕の「物」……。つまり、所有物……?

 騙され……ました。騙さ……れ…………違う。


 涙が、出てきました。

 悲しさより何より、自分の情けなさに。


 そう、違うんです。違うんです。私が。

 単に私が――馬鹿だったんです。



  ━━━━━━━━━━━━━━━━



 これが1年前。私の悪夢が始まった日。

 それからの日々は、忘れたくても忘れることができない、地獄のような日々。


 何度も酷い目に遭いました。

 私自身、いろんな人に酷いことをしてしまいました。


 命令されたから、だなんて言い訳にもなりません。

 だってこれは、私の馬鹿さが招いたことなんですから。


 そして今日も、またひとり。正確にはふたり、ですか。


「やあ君たち、ちょっといいかな?」

「おっ、契約戦プロミスなら大歓迎ですよ?」


 あの人が目を付けたのは、二人組の魔法少女。


「ああ。この子に経験を積ませてあげたいんだけど、魔獣と戦わせるのはまだ不安でね」

「つまり練習相手になって欲しい、と?」

「話が早くて助かるよ」


 ひとりは活発そうな赤髪の人。もうひとりは、寡黙そうな黒髪の人。


「少し怖がりな子なんで、お手柔らかに頼むめるかな」

「いいですよー。でも負けてあげたりはしませんけどね?」

「それは構わないよ。でも契約内容の方もお手柔らかにしてもらえると、助かる」


 契約戦プロミスは成立しそうですね。


「そういうのは私は苦手ね。由利子に任せるわ」

「まぁリョーコは女の子相手でも容赦ないからね」

「手加減はしているつもりなのだけれど」


 ごめんなさい。私はこれから、あなたに酷いことをしてしまいます。

 言い訳はしません。だからせめて――


 先に謝りますね。ごめんなさい。

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